幕 間
「クソがッ!!」
聖剣に選ばれた勇者の故郷から東にある山奥に、村の人間でも滅多に近づかない滝の裏には大きな空洞が出来ており、そこにウィルが率いる冒険者達が拠点として生活していた。
「お、おいウィル。 落ち着けよ」
「うるせェッ! 役立たずは黙ってろッ!?」
パーティー仲間が怒りで暴れるウィルをなだめようと声をかけるが、逆にそれが更にウィルの怒りを買い、なだめようとした仲間は近くに置いてあった石で殴られた。
「アァァァァァァァァッ!!?」
仲間の悲鳴が空洞に響く中、ウィルはそんな事を気にもしない様子で空洞の奥へと進んでいく。
(クソッ! どいつもこいつも俺様を舐めやがってッ! 誰のおかげでこの村が今も平和で暮らせていると思ってやがるッ!!)
この村の人間は昔からお人好しばかりだ。
道に迷ったという旅人を一晩泊めると実は盗賊の一員で金目の物を奪われても事情があるかもしれないと相手を許す。
魔獣の子供が徘徊している事を知っても、まだ子供だからとほったらかしにして見逃すと村人の1人が魔獣に襲われた。
バカな話だ。
どれだけ相手に同情して優しくした所で、結局の所、魔族も人間もすべては強さで上下関係が築き上げられる。
優しさとは弱者がすることだ。
だから俺様は決めたんだ。
誰にも舐められない強さを手に入れて、村人だけでなく俺様に近づく奴らは全員俺の僕にしてやると。
だが、そんな理想も半年前にすべてが壊された。
この村で唯一冒険者という職業に就くことが出来た俺様は村で誰もが認める強者だ。
クエストも報酬も街で逆らう奴らはおらず、ギルドの連中も俺様を警戒するようになった。
それだけの強さが俺様にはあるんだ。
それだというのにッ!!
この村に突然現れた神が人間に与える最強の証、聖剣。
この武器を手にする事が出来るのは明らかに村で1番強い俺様がもつのに相応しいもののハズだった。
しかし、聖剣は俺様ではなく、この村で1番非力で弱い人間を選んだ。
強さも財力もすべて上回っている最強よりも、最弱を選んだ。
「ふざけるなよッ・・・そんな事があってたまるかッ!!」
そうだ。
これは何かの間違いなんだ。
最強の証である聖剣が俺様ではなく、あんな弱者を絵に書いたような奴を選ぶわけがない。
「ケケケッ。 どんなトリックを使ったかは知らねェが、逃がさねェぞ・・・」
完全に外の明かりから遮断されるほど空洞の奥に進んだウィルの目の前に、暗闇の中で何かが脈打つように動く。
「聖剣は俺様のもんだ。 誰がなんと言おうと俺様が最強なんだ。 俺様は、特別な人間なんだッ!」
不気味な笑みで大声で笑いながら、ウィルは目の前で動く大きな生物を見上げていた。