6 勇者の幼馴染
さて、ソフィが何かしら勇者について隠している事は明白ではあるが、あんな状況では変に話を掘り下げて怪しまれたら、自分が魔王であると疑われる可能性もあったかも知れない。
とりあえずこの話は切り上げて別の話題に切り替える事にした。
「そういえばさ。 ソフィはなんであのゴロツキ達に追いかけられてたんだ?」
勇者の故郷であるこの村に訪れる前に突然襲ってきた5人組の男達を思い出す。
それほど実力ある冒険者ではなかったが、魔法を使える人間をパーティーに入れているという事はそれなりの実践の経験はあるだろうと考えていた。
サニーは膝枕されている状態から起き上がろうとしたが、ソフィは未だにサニーの顔に手を覆い起き上がらないように押さえつける。
「あの~ソフィさん? そろそろこの手どかしてもらえませんかね?」
「い、今はダメです! もう少しだけこのままでお願いします!」
涙くんだかすれた声でソフィは目からこぼれる涙を拭きながら否定した。
どうやら泣き顔を見られたくないらしい。
サニーは小さく息を吐いて、諦めたように「了解」とだけ返答した。
「それで? 話を戻すけどあのゴロツキ達になんで追いかけられてたの?」
「・・・あの人達は西の山を越えた街で冒険者をしている人達なんですが、この村にまで悪評が届く人達なんです」
クエストの報酬は騙してクエスト発注者から莫大な金額を恐喝したり、冒険者になったばかりの新人を脅して自分達の代わりの高難易度のクエストを受けさせたりして多くの人達に迷惑をかけているらしい。
「その中で、私の髪を引っ張っていた男は元々この村の出身者なんです。 名前はウィルと言います」
ソフィの髪を引っ張っていたという悪顔の男を思い出す。
確かに2人の会話を聞いていると初めての相手ではないとはなんとなく分かっていた。
「こんな小さな村から冒険者になれる人なんて珍しく、ウィルはこの村が平和でいられるのは冒険者となった自分のおかげだと自慢していました。 しかし―――」
今から半年前、村の空から1つの光柱が舞い降りてきた。
光柱から出てきたのは神々しくも輝く神秘的な剣。
勇者として選ばれる聖剣が現れた。
「村の人達は動揺と興奮の中、勢いよく聖剣に触れたのがウィルでした」
この村で唯一の冒険者である自分が勇者として選ばれた。
そう言ってウィルは村の人間達に自分を称えるようにと叫んだ。
こんな小さな村から冒険者としてでなく、今度は神に選ばれた勇者である自分に逆らう事は許されないと。
ウィルは村人達を見下したような目を向けて、地面に突き刺さった聖剣を引き抜こうとした。
しかし――
「ウィルは聖剣を抜く事ができませんでした」
どれだけ全力で聖剣を抜こうとしても、聖剣はピクリとも動かないまま地面に突き刺さったままでした。
聖剣が抜けない事で苛立ち、暴言を吐き、ウィルは目の前の聖剣は偽物だと村人に言い放ちます。
「そこでウィルは聖剣が偽物であると証明する為にある村人の1人を指名して抜くように命じました」
村の中で1番非力で内気な少年。
彼は昔からウィルに何かしらの嫌がらせを受ける事が多く、今回も聖剣を抜けなかった自分に恥をかかないように少年を利用して誤魔化そうとしていたという。
嫌がる少年を人だかりの中から無理矢理引き出し、聖剣を抜くように命令するウィル。
少年は体を震わせながらも村人に注目される中、怯えた様子で聖剣に触れた。
その時です。
さっきまで少年をバカにして笑っていたウィルの顔から笑顔が消えたのだという。
ウィルにけしかけられ一緒に笑っていた一部の村人達からも笑い声が消え、村全体が騒然とした。
神々しくも輝く聖剣は地面からゆっくりと離れ、剣の先は天へと向けられた。
この時、この瞬間に、魔王を打倒し世界に平和をもたらす勇者が誕生した瞬間だった。
まるで御伽噺のプロローグを朗読しているようなソフィの言葉が途絶えると、さっきまで覆われていたサニーの両目は解放され、ジッと顔を見つめているソフィと目が合う。
「そして私は、そんな聖剣に選ばれた勇者の・・あの子の幼馴染なんです」