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5 膝枕


 「も、もうダメだッ! これ以上食べられねぇ!」


 これほど腹がはち切れそうになるくらい食事をしたことなどあっただろうか。

 魔界にいた時はある程度腹を満たせれば食事など後回しにしていたのだが、人間が食べる料理はどれも味に違いがあり飽きる事がない。

 もしも今回みたいに色々な食事を御馳走してもらったら腹が爆発するまで食べ続けてしまうかもしれない。

 気を付けなければ・・・。


 「満足して頂けました?」


 あまりの苦しさに外の庭で寝転んでいると、視界の頭上からヒョッコリとソフィが顔を出してきた。


 「あぁ。 すげぇ美味かった。 御馳走様」

 「ふふ! お粗末様です! 満足して頂けたなら私も頑張ったかいがありました!」


 今回の料理はすべてソフィが用意してくれたものだと言う。

 料理の種類はテーブルの上に並べられただけで数十種類はあったが、あれだけの料理を短時間で作り上げてしまう事に素直に尊敬した。

 

 時刻は昼を少しまわった辺りだが、太陽の日差しと頬をなぞる心地良い風で気持ちが良い。

 このまま今日は昼寝をしてもいいかも知れないとゆっくりと目を瞑る。

 

 「・・・」


 するとフワッと頭を持ち上げられる感覚を感じたかと思えば、次に寝心地の良い柔らかな感触が伝わってくる。

 思わず目を開けると、そこには何故かサニーの顔をマジマジと見つめるソフィと視線が合う。


 「・・・なにしてんの?」

 「膝枕です」


 あぁ、膝枕か。

 道理で柔らかい物が頭にあると思った・・・じゃねぇ?!

 なんで?

 なにゆえに膝枕?

 ホワイッ?!


 「あ、起き上がらないでくださいね」


 今の状況を理解して眠気が飛んだサニーはすぐに飛び起きようとしたが、ソフィに頭を強く押し押さえられ阻止されてしまう。

 しかもそのまま頭を押さえた手で両目を塞がれてしまった。


 (なんだ? 一体何が起きている? まさか俺が魔王だとバレたとか?)


 これは何かの罠?

 街の人間の男達が言ってた美人局というあれ?

 

 しかし気配で家の周囲に攻撃を仕掛けてきそうな人間がいないか調べてみるが、どうもそのような人間の気配は何処にもない。


 「サニーさんは、勇者に選ばれた人に会ってどうするつもりだったんですか?」


 色々と混乱している頭を整理している中でソフィがボソッとか弱い声で呟くのが聞こえた。


 「聖剣に選ばれたから魔物と戦えと言いにきたんですか? 勇者だから命を懸けて人を守れと言いにきたんですか? それとも―――」


 ソフィは一瞬何か口にする事を躊躇いながらも、勇気を振り絞るように力強くこういった。


 「魔王を、倒しに行けと言いに来たんですか?」


 両目を覆うソフィの手が震えているが伝わってくる。


 「何故、聖剣に選ばれただけで魔物と戦わないといけないんですか?

  何故、勇者だからと他人の命の為に自分を危険な事に飛び込まないといけないんですか?

  何故、恐ろしい魔王を倒す為に、大好きな故郷を離れないといけないんですか?」


 ポタッと頬に水のような物が落ちてきた。

 

 「もしも本当に神様がいると言うのなら、なんで・・・なんで・・あの子が・・・」


 最後の方は泣くのを我慢するような声が漏れソフィは何も言わなくなった。


 「・・・別に、特に理由はないよ」

 

 サニーはソフィに両目を覆われて膝枕されたまま答える。


 「ここに来る前の村でたまたま次に勇者として聖剣に選ばれた男がこの村にいると聞いて興味本位で寄っただけさ。 

 そいつが魔物と戦おうと戦わなかろうとどっちでもいいし、他人の為に命を張ろうかどうかもどうでもいいし、ましてや魔王を倒しに行こうが行かまいが俺には関係ない事だし」

 

 両目を塞ぐソフィの手を握り片目だけ解放させる形で、涙目になっているソフィの顔を見る。


 「だからあまり気にすんな。 俺も理由は聞かないからさ」

 「――ッ! ・・・はい」


 サニーの返事に安心したのか、ソフィは柔らかい笑顔を向けて小さく頷いた。



 (やっっっべぇぇぇぇぇぇッ!! 余計な事言ったぁぁぁぁぁぁッ!!)

 

 一方、表面上では何ともない顔をしているサニーだったが、心の中では頭を抱えて転げまわっている最中だった。


 (どうすんだよこれ! どうすればいいの?! 絶対2人共勇者について何か知ってるくさいんですけどッ!!)


 急に膝枕されただけでも心の中は大騒ぎだったっていうのに、ここに来て何か訳アリな空気でくるし、まさか自分が魔王で聖剣に選ばれたばかりの勇者を倒しにきましたとか絶対に言えないし!


 (あぁぁぁぁぁもぅ! どうすればいいんだよ~!!)


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