4 隠し事
テーブルの上に並べられる豪華な料理を前にサニーは待てと言われた犬のように涎を我慢していた。
「さぁどうぞ! たぁ~んと召し上がってくださいな!」
真ん丸な顔をして満面な笑顔で料理を運んでくる女性が待ちきれないと言わんばかりのサニーを見て、まだ料理をすべて運び終える前に思わずご飯を進める。
「え?! ホントにいいの?!」
「えぇ、えぇ。 勿論ですとも! あんたは私の大切な娘をゴロツキから救ってくれた恩人だからね! 遠慮せずに食べてくださいな!」
サニーは涎を呑み込むと部屋中に響くほどの強さで両手を合わせ、大声で「いただきますッ!」と叫ぶ。
運びこまれた料理はどれも食べた事がない物ばかりではあったが、治安が悪く料理という概念が薄い魔界から見たら、人間が作る料理はどれも美しく、嗅覚だけでなく視覚だけで美味しさが伝わってくる。
リスのように頬を膨らませ、次々に皿を綺麗に完食していく姿は清々しいものだ。
「おばちゃ~ん。 リンゴってある? パイナップル作りたいんだけど」
パタパタと廊下を走って部屋に入ってきたのはソフィだ。
両手にはパイナップルを作る材料が入った紙袋を持っているようだが、肝心のリンゴがないらしい。
「リンゴ? そういえば昨日の晩で出したデザートで全部だったね。 今はもう家にはないよ」
ソフィがおばちゃんと呼ぶ女性の返答に、先ほどまで勢いよく料理を口の中に頬張っていたサニーの手が止まり持っていたフォークが床に落ちる。
「リンゴが・・・ない?」
「ん? なんだい? あんたリンゴが好物なのかい? 悪いね~。 今は家にないんだよ」
「~~~~~~~~ッ?!?!」
まるでこの世の終わりのようなリアクションを取りながら、サニーは落としたフォークを拾いあげ食事の続きを行おうとする。
「あっ! コラッまた! 落としたもので食べようとしないでくださいよサニーさん!!」
「だって! リンゴがないんだもん!?」
「それと落としたフォークで食事を続けるのは関係ないと思いますけど?!」
ソフィは意地でも落としたフォークで食事を続けようとするサニーから取り上げ別に用意していた綺麗なフォークを手渡す。
「リンゴはまた後で買いに行きますから。 今は我慢してください」
ソフィに強く言い寄られ、サニーは渋々と手渡されたフォークを手に持ち小さく頷く。
「それにしても、ソフィに聞いた時は耳を疑ったが、あんたホントにあのゴロツキ共を一瞬で倒しちまったのかい?」
おばちゃんはサニーの正面の椅子に座ると美味しそうに食事を再開したサニーをマジマジと見て質問する。
ゴロツキとはこの村に訪れる前にソフィを襲った男達の事だ。
あの後無事にソフィを村まで送り届けると、ソフィは自分が暮らす家に招待して、こうやって御馳走を用意してくれたのだ。
そして目の前に座るおばちゃんはソフィと暮らす育ての親だと紹介された。
「本当になんて言ったいいのか。 この村の連中達もアイツらには困り果てていてね。 アンタがあいつらを成敗してくれたと聞いてスッキリしたよ。 娘を助けてくれた事と一緒にお礼を言わせておくれ」
おばちゃんは椅子に座りながらも深々と頭を下げると、隣で荷物をテーブルに置いたソフィもまた深々と頭を下げた。
サニーは口の中にある料理を一気に呑み込む。
「いやいや。 もういいよ。 俺も別に恩返しを求めてソフィを助けたわけじゃないし。 ただ御馳走してくれるっていうからついていって、たまたまあの男達が襲い掛かってきただけだから。 気にしないでくれよ」
「そうかい? そう言ってくれるとこっちとしても助かるよ」
ホッとしたように肩の力が抜けたおばちゃんは椅子の背もたれに体重を預けた。
「それよりもさ。 実は1つ聞きたい話があるんだけど」
「ん? 聞きたい話? なんだい? 娘の恩人なら答えられる事はなんでも答えてやるよ」
サニーは再び用意された料理を食べ始めながら、今回この村に来た目的をソフィ達に話す。
「この村で生まれた勇者って今何処にいるか分かる?」
「「 !? 」」
おばちゃんは目を大きく開けるとソワソワとした様子でソフィを見る。
「さ、さぁねぇ~。 こんな小さな村でも全員と親しいってわけじゃないから。 私達は誰が聖剣を引き抜いたのか知らないんだ」
「へぇ・・・」
明らかに不審な行動である事は明白だが、サニーは敢えて何も言わずに勇者の話題はそれっきりにした。
魔王という立場でいると相手の考えという物が大抵理解できてしまう。
面倒だと思う相手は鬱陶しそうな表情を作り、辛かったらしんどそうな表情を作る。
それは魔族でも人間でも同じものだとサニーはここまでくる旅で理解した。
そして、おばちゃんは確実に何かを隠した。
まるで探られたくない話題だと言わんばかりに。