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3 襲撃


 森の中を真っ直ぐと続く道を歩いていくと目的地が見えてきた。

 周りは山に囲われ村の間には1本の川が緩やかに流れている。

 その景色は何処か魔王であるサニーにも美しいと思える光景が広がっていた。


 「さぁ、あともう少しですよサニーさん!」

 「え? あ、あぁ」


 慣れた様子で軽やかに山道を歩いていくソフィの後ろ姿を眺めながらサニーは警戒していた。

 ソフィと出会ってからずっと後をつけられているのだ。


 (これは、人間の気配だな。 数は3、いや4人か)


 気配と足取りからそれほど強敵と言える相手ではないが、勇者との闘いの前にあまり荒事を起こしたくはない。

 向こうから仕掛けて来なければこのまま気付かぬふりをして村へ行けば何もしてこないだろうと判断したその時だ。


 「キャアッ!」


 先に前を歩いていたソフィから悲鳴のような物が聞こえた。

 道は下りになっているのかサニーがいる場所からではソフィの姿が見えず慌てて坂を上る。


 「ソフィ! どうかしたのかッ!」


 坂を上りきり下り坂を見るとそこには束ねた髪を引っ張られているソフィの姿と、如何にも悪そうな顔した人間の男がいた。


 「アァ? なんだ手前ェは」

 

 男はあからさまに敵意な態度でサニーを睨みつける。


 「それはこっちのセリフだ。 さっさとその汚い手からソフィを放せ」


 人間に敵意を向けられれば魔王としてのプライドが思わず反応して喧嘩腰で言葉を吐いてしまった。

 後から「しまった」と後悔するも遅く、ソフィの髪を掴む男はまたもあからさまにイラついたような態度をとる。


 「なんだテメェ。 この辺りじゃ見ない顔だな。 俺様の事も知らないとなればただのバカか都会の坊ちゃんかのどっちかだな」


 残念。

 魔界から来ました。

 あと自分で俺様とか恥ずかしくないのか?


 「自分で俺様とか恥ずかしくない?」


 あ、やべ。 

 声に出てた。


 人間の男は完全にキレた様子で腰に装備していた剣を取り出した。


 「なるほどなァ。 ただのバカの方か」

 

 人間の男は大声を上げて「オイッ!?」と叫ぶと、先ほどから後をつけて来ていた4人組が茂みからゾロゾロと出てくる。

 全員が手に槍や弓などの武器を持っており、その内の1人は杖のような物を持っていた。


 (ほ~ん。 こいつら冒険者か)


 冒険者とは名前の通り世界を旅して周る職業で魔物退治から貴族の警備などをしている人間達の事だ。

 勇者と呼ばれる人間もまたその冒険者と呼ばれる職業をしながら我々魔王を倒す為に旅をしている。


 「ちょっとやめて! その人は関係ないでしょ!」


 ジリジリと距離を縮めてくる人間の男達がサニーを攻撃しようとしている中、髪を引っ張られ顔を歪めているソフィが悪顔の男に叫ぶ。


 「あのなァ、ソフィ。 そもそもテメェがさっさと()()()()()()()を吐かねぇからこんな事になってんだよ。 まさかこのまま俺達から逃げきれるとか思ってたのか?」

 「だから私も知らないって何度も言ってるじゃない!」


 ソフィの返答に悪顔の男はイラついた様子で大きな舌打ちをする。


 「だぁ~からテメェを餌にあの野郎をおびき寄せようとしてんだろうが。 それなのにちょっと目を離した隙に逃げ出しやがって。 ちょっとはこっちの迷惑も考えろやァ!!」

 

 悪顔の男は怒鳴りながらソフィの髪を更に引っ張りあげた。

 それと同時にソフィは歯を食いしばって痛みを耐える。


 (怖いッ!)


 ソフィは体を震わせて引っ張り上げられる髪を振りほどこうとするが、ただの村娘の力で冒険者の手を振り解く事など出来ない。


 (誰かッ・・)


 このままではサニーにまで迷惑をかけてしまう。


 (お願いッ・・)


 何とかこの場を切り抜けなければならないのに、身体が強張って動かない。

 そんな自分に嫌気をさしながらソフィは願う。


 (助けてッ!!)


 「オイ。 いい加減にしろ」


 急に引っ張られている髪が解放されソフィは思わず腰が抜けたように地面に座り込む。

 一体何が起きたのか理解できない思考でゆっくりと痛みに耐えていた目を開けると、目の前にはサニーが立っていた。


 「サニー・・さん?」

 「おぅ。 悪いなソフィ。 助けに入るの遅くなった」


 サニーは申し訳なさそうな表情でソフィに手を差し伸べてゆっくりと立ち上がらせる。


 「え? あ、あの、さっきの人達は・・・」


 先ほどまで4人組の男達に囲まれていたはずのサニーが当たり前のように自分の前に立っている事が不思議に思ったソフィは質問する。

 するとサニーは「あぁ」と思い出したかのような表情で先ほどまでサニーが立っていた場所に指をさす。

 そこには腹を抱えてうずく待っている4人の男達の姿があった。

 

 「ついでにお前の髪を引っ張ってた奴はそこ」

 「え?」


 ソフィは後ろを振り向くと白目を向き口から泡を吐いている悪顔の男が倒れていた。


 「これ、全部サニーさんが?」

 「ん? お、おぅ・・ま、まぁこいつらも中々の手練れ? だったから? 少し? 手こずった? けど、あ~・・・うん。 なんとかなってよかったよかった! あはははははッ!」


 何か誤魔化すようにカタコトで話しながら目を泳がすサニー。

 そのおかしな様子にソフィはすぐに気づいていた物の、サニーにつられソフィは肩を揺らして笑顔を向けた。


 (ばれてない? ばれてないよな? だってさっきまで目瞑ってたし!)


 一方サニーは何とか色々と誤魔化せたと心の中で自分に言い聞かせる。

 あの数秒の間、サニーは1秒にもみたない間にまず魔法が使えるであろう杖をもった男を腹パンで殴り、もう1秒で残りの3人にも同じように腹パンで一発ずつ殴った。

 あとはソフィの髪を引っ張っていた男に他の奴らよりも強めに腹パンを与えて現状の結果となった。


 人間が普通あれだけの動きが出来る訳がないのはここまで旅をしていたサニーは理解していた。

 その為、勇者と同じ村で暮らすソフィに見られれば絶対に面倒な事になると考え誤魔化す事にしたのだ。

 

 「さ、さぁ~て早く村に行こうぜ! 俺もう腹が減ってしょうがねぇんだよ!」

 「え? で、でもこの人達――」

 「大丈夫大丈夫! すぐに起き上がって勝手にどっか行くさ! とりあえず早く行こう! そうしよう!」

 「あ、ちょっ、あの!」


 これ以上ここにいては更に質問をされると思ったサニーはこれ以上ややこしい事になる前に村へ向かおうとソフィの手を引っ張り山を下る。


 「・・・」


 そして、急にサニーに手を握られ引っ張られているソフィは片方の手で頬を触り、自分の顔が熱くなっている事を認識していた。

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