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2 出会い


 聖剣に選ばれた勇者が現れたという情報を手に入れた魔王は早速、情報をもとに森の奥にある小さな村に訪れた。


 田舎である為、自然に囲まれる村はどことなく空気が美味しく感じる。

 魔族が拠点として人間達に魔界と呼ばれている俺の故郷はあまり・・いや、かなり治安が良いとは言えず必ず何処かに同族の死骸が転がっているが、ここに来るまでの人間の暮らしを見て驚いた。

 ここまで人間と魔族との暮らしには違いがあるのだと思い知ったのだ。


 道端に倒れている人間など1人もおらず、食料が欲しければ奪うのではなく対価を払って交換する。

 寝床も人間1人に1つの部屋があり、夜になると電球という物で村や町は光輝き暗闇など存在しない。

 こんな事は魔界では絶対にありえない事だ。

 

 「歴代の魔王達が何故人間を支配しようとしているのか、なんとなく理解できたな」

 

 俺はここに来る途中まで乗せてもらった馬車の運転手にもらったリンゴをかじりながら森の道を歩く。

 

 「このりんごっていうのも甘くてうまい! 魔界でも育てられないかな」


 草木が腐り果て土も腐敗している魔界では少し難しいが、人間が暮らす何処かの土地を借りれれば栽培が可能かな?

 そんな呑気な事を考えている時だった。


 「キャッ!!」

 「うおッ!!」


 森の茂みから急に何かが飛び出してきた。

 あまりの突然の事で思わず手に持っていた食べかけのリンゴが地面に落ちてしまった。


 「ご、ごめんなさい! まさかこんな所に人がいるなんて思ってもいな、くて・・」

 「~~~~~~ッッ!!」

 「あの・・だ、大丈夫ですか?」

 「大丈夫じゃなぁぁああああああいッ!!」


 魔王は突然茂みから飛び出してきた何者かに涙目になりながら叫んだ。


 「どうすんだよこれッ! まだ一口しかかじってないのに地面に落ちちゃったじゃんッ!」

 「ご、ごめんなさい! 私も慌てていた物だから前を見ていなくて!」

 「ゴメンって謝って許してもらえたら神様も勇者もいらないんだよバカァ!!」


 魔王は深く溜息を吐きながら落としてしまったリンゴを拾い上げる。


 「・・あの? どうかしましたか? リンゴをジッと見て」

 「・・・・砂をはらえば、まだ食べられるか?」

 「え?! ダ、ダメェェええ!!」

 「ブベラッ!!?」


 適当に周りについた砂をはらい再び食べようとすると、頬にビンタされた。


 「ダメですよ! 落ちた物を食べてしまったお腹壊しますよ!!」

 「うるさいなァ! しょうがないでしょうが落ちちゃったんだからッ! 勿体ないでしょうが!」

 「ダメなものはダメです! お詫びに村に戻ったら何か御馳走しますからリンゴは諦めてください!」

 「・・・なんだって?」


 魔王はその言葉にピタリッと動きを止めた。


 「御馳走って、たとえば?」

 「え? そ、そうですね。 今日は鳥の煮込みシチューとデザートにパイナップルを作ろうと思っていたので、それでよければ――」

 「御馳走になりますッ!!」


 魔王は手に持ったリンゴをポーイッと投げ捨て頭を深々と下げた。


 「え?! ちょっッ! 止めてください! 元はと言えば私が前を見ずに急に飛び出したのが悪かったんですから!」

 「それでも人間はこうやってお礼を言う物なのだろう?」

 「え? ()()()って・・・」


 (あ、ヤベ)


 魔王は素早く口に手を当てる。


 「ほ、ほら! 人として御馳走になるんだったらまずはお礼を言えないとなって意味!」

 「あぁ、そうですね。 確かにそれは大切な事です」


 なんとか誤魔化せたのか、目の前の人間はクスリッと笑みを浮かべた。


 (ふぅ、よかった。 俺が魔王だってばれたら色々と面倒だからな。 気を付けないと)


 心の中で大量の汗を流しながら今後の方針に気を引き締めていると、今度は目の前の人間も魔王同様に深々と頭を下げた。


 「私の方こそ、大切な食糧を無駄にしてしまいごめんなさい。 改めて私の家で何か御馳走をさせて下さい」


 魔王はキョトンとした顔で人間を見ていると、人間はまたクスリッと笑みを浮かべた。


 「人としてこれくらい言わないとダメですからね」

 「ふむ、そんなものか」

 「はい。 そんなものです」


 結構人間達の暮らしを見てきたつもりだったが、まだこうした人間とのやり取りの経験が浅かった魔王はしっかりと頭の中でメモを付け加えた。


 「そして、人としてもう1つやらないといけない事がありましたね」

 「え? なにそれ?」


 人間はまたクスリッと笑うと自分の胸に手を当て、逆側の手で衣服を軽く持ち上げた。


 「初めまして。 私の名前はソフィ。 この先にある小さな村で暮らす者です」


 突然、目の前の人間が何をしているのか魔王には理解できなかったが、ソフィと言うのが人間の名前であると分かるとこのやり取りが一体何なのか理解した。

 

 「あぁ~、えっと・・俺の名前は~・・」


 まさか魔王と名乗るわけにもいかず、しばらくどう名乗るか迷っていると、ふと空を見て思いついた。


 「・・・サニー」

 「サニー? フフッ! とてもいい名前ね。 まるで今日みたいないい天気の日に見れる太陽みたい!」


 思い付きで語った名前なのに嬉しそうに魔王の事をサニーと呼ぶ人間に、魔王は何処かくすぐったい気持ちで頬を少し赤らめた。


 「それじゃあよろしくねサニー! 腕によりをかけて御馳走させてもらいます!」

 「あぁ、こちらこそよろしく頼むよ。 ソフィ」


 これが、魔族の王と人間の娘の出会いだった。

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