逃がした魚は大きかった?
あと少しであった。
あと少しで・・・。
「あちゃ~。おいおいどうすんだよ、カローナ。」
絶壁の上から顔を出したエンムが、浅黄色のローブのガキが落ちた先を見ながら言う。
「だから、悪いって言ってんでしょ?そんなに言うなら、逃げられそうになる前に、なんでとどめを刺さなかったんだい!」
壁を背に、カローナはエンムを見やる。
二人の言い合いを他所に、床に胡坐をかき、ギレルは心の中で悔しがっていた。
「あのガキが持っていたものは相当なお宝だった。それこそ、俺たちじゃぁ、使い切れねぇほどのな」
ギレルが口を開くと、ずっと壁に寄りかかっていたガ―ダンが、ギレルのほうを見ながら話しだした。
「・・・もう良いだろう。過ぎたことを悔やんでも。これも神の御導きだ。どちらにしろ、ここで手に入らなかったのだ、我々のものではない。それよりも、各自拾ったものを持って、一度町に戻らぬか?」
ガ―ダンが言い終わるや否や、エンムがガ―ダンの胸倉を掴んだ。
「おい、一番仕事してないのは、あんただ。ガ―ダン。お前は何してたんだよ。」
ガ―ダンに噛み付くエンムの肩に、ギレルの手が置かれる。
「エンム、それぐらいにしとけ。こいつは来てもらってるんだ。言わば客人だ。手ぇだすんじゃぁねぇよ。」
ギレルがそういうと、エンムはガ―ダンの胸倉を掴んだ手を離した。
そう、クロノが逃げた先は、断崖絶壁だった。そこに、後ろからカローナの放った魔法弾が当たり、衝撃で吹き飛び、奈落の底へ落ちていったのだ。見たこともないアイテムを掴みながら・・・。
エンムは悔しさから、もう一度、クロノの落ちた崖を覗き込む。
そこは、まるで光を飲み込む怪物が口を開けたかのような深淵が広がっていた。
お読みいただき、ありがとうございます。
毎回短めになってしまってすみません(汗)