ギレルの本性
クロノは元々華奢である。
身体のつくりが良い、という訳でもない。
ただ、反射神経は良く、おまけで体重がそんなにあるわけではないので、その反射神経を殺さずにすんでいた。御祖父ちゃんに教えてもらった身のこなしと、その反射神経に頼り、モンスターの攻撃を避けていく。
「ふぅ~ん。あのサポーターちゃん、中々やるねぇ。」
盗賊であるエンムが、クロノの後ろから、その動きを目で追う。
「あの子、ほんとは前衛になりたかったんじゃない?」
カローナも、簡易魔法(詠唱を必要としない、簡素で速攻性の高い魔法)を放ちながら、ギレルのほうを見た。
「ああ、確かにな。動きは悪くねぇ。だが、いくら素養があろうと、所詮サポーターだ。」
ギレルの言う通り、サポーターは、恩恵を受けられない。
本来、冒険者は、発現したスキルの職の恩恵が得られる。例えば、前衛職であれば、防御力向上や攻撃力向上、後衛職であれば、命中率向上や攻撃範囲向上といった恩恵である。
この恩恵というものが、どうやって得られているのかは、未だに定かではないが、一つだけ明らかなことがある。
サポーターには、発現する恩恵が、滅多に無いのである。
前衛職であれば、前述の恩恵が得られるが、サポーターが得られる恩恵は、自身の最大積載量やや向上、疲労回復速度やや上昇などで、他の職に比べ、効果が弱い。
つまり、どう足掻いても、発現した時点で、サポーターと他の職との力の差は開いでしまうのだ。
「まぁ、あのガキには同情するぜ。せっかくの素質もあろうが・・・な。」
ギレルはモンスターを往なしながら、じっくりクロノを観察していた。
ギレルのパーティについていく形で、同行するクロノ。これまでの道中で、色々なお宝を手に入れた。見たこともない鳥型のモンスターのモノと思われる羽がついたローブ。夕闇に沈む太陽のような、怪しい色合いを放つ宝石がはめ込まれたペンダント。他にもいくつか拾えたが、どれもクロノは見たことがないアイテムであった。本当に、このアイテムを貰って良いのだろうかという一抹の不安を、胸に抱きながら、クロノもギレルたちと一緒に奥へ、奥へと進んで行く。
ダンジョン内をしばらく進んで聞くと、四角形の少し広い空間にたどり着く。
「よし、ここらで少し休んでいこう。エンム、結界、頼めるか?」
ギレルは、エンムへと声をかけ、辺りを見回す。
「オーケー。少し待ってくれ。」
エンムは、結界という、どうやらモンスターを探知できるスキルを準備するため、この空間を歩き始めた。
しかし、この行動に、クロノは違和感を覚えた。
こんな技を、クロノは見たことがない。それに、先ほどからギレルの気配が・・・・。
そう思い、自分より前にいるギレルを見ようと顔を上げる。そこには、己の武器である剣を振り上げたギレルが、目の前に立っていたのである。
咄嗟に横に飛びのくクロノ。間一髪で振り下ろされた斬撃を交わす。その際、ローブが少し切られた。
避けたクロノが、何故?と瞳で訴えるも、構う事無く斬撃を繰り出すギレル。躱すので精一杯のクロノは、失念していた。
躱した先に、魔法弾が飛んできたのである。
タイミングを合わせた魔法弾に当たるクロノ。当たり所が良かったせいで派手に吹き飛ぶ。
全身に痛みを感じながら、クロノは立ち上がろうとするが、目の前にいるギレル達が歪んで見える。それどころか平衡感覚まで狂ってきた。
「なん・・・だ、こ・・・れ。」
何とか立ち上がったクロノに、エンムが両手剣を手に、近づいてくる。
「くっくっく。効いてきたか。結界なんてスキルは使ってねぇよ。これはかく乱スキルだ。」
エンムが一足飛びでクロノに肉薄する。
クロノは持ち前の反射神経で何とか後ろの飛び、エンムの斬撃を躱すが、着地と同時に腹部に衝撃を感じた。蹴られた。クロノは咄嗟に衝撃の正体を確認しようと、目だけで追う。
それは、エンムと同時に動き出したギレルの蹴りであった。
何とか逃げ出さなければ。殺されてしまう。
クロノは必死に思考を回転させ、逃げ延びようと思案するが、3人の攻撃が波状に飛んできてそれどころではない。
どれくらいたったのだろうか。服は刻まれ、切り傷などで赤く染まり、見える肌の大体は青あざができ、見るに堪えない様相になったクロノ。
息も絶え絶えに、横たわっていると、ギレルが近づいてきて、クロノの頭を踏みつけた。
「ふっ。こんなもんか?まぁ、お前はよくやったよ。クロノ、こんだけ痛めつけても、まだその眼には戦う意思が消えてない。すごいじゃぁないか。」
クロノの頭から足をどかし、髪を掴み、頭を持ち上げる。
痛みで顔をゆがませるクロノ。だが、その瞳は確かに、戦うことを止めてはいない。それどころか、怒りを湛えている。
その顔が気に食わなかったギレルは、クロノを蹴り飛ばした。ギレルにとっては、蹴り飛ばした方向が間違いであった。
それは、本来進むはずであった通路の方向。クロノは、チャンスと思い、己の力を精一杯出し、立ち上がり先の見えない通路へと走る。
あと少し、というところで、背中に衝撃が。
クロノは、ここで意識を失ってしまった。
お読みいただきまして、ありがとうございます。長文になってしまいました。己の文才の無さと相まって見難いかもしれません。もし、こうすると良いなどの助言ありましたら、お願いします。