マーちゃんとの再会
舞台は夏の片田舎
私はかつて親友であったマーちゃんと二年ぶりに再会した。そう―――――幽霊となったマーちゃんに
失われた二年間を埋めるように、マーちゃんと遊ぶ私であったが、どうにもいつもと村の様子が違う……?
それでも今はどうでもいい。とにかく、いついなくなるかもわからないマーちゃんと思い出を作るんだ。
ほっこりとした夏の少し優しいようで怖いようで優しい二人の少女の物語です
「あなた、ゆうれいはいるとおもう?」
振り向くと少女の顔があった。どうやら私の頭のすぐ後ろで話しかけていたらしい。その鈴のなるような声音を自分は誰より知っているようである。
不幸にも今日は昼の前から母の家庭菜園の手伝いをしており、昼食を食べてからすぐに寝てしまっていたため、うすぼんやりとした頭としょぼくれた目を総動員して現在の状況を確かめた。
「現に」
縁側を吹き抜けていく風が嫌に涼しかった。もう8月だというのに蝉の声だけがやけに壮絶な声をあげているように感じる。私は肺のあたりにひんやりとした感覚を覚えていた。
きっと今の私の口はあんぐりと開いているのだろう。
「みえたけど」
彼女は相も変わらず美しく、まるで幽霊のように青白い顔をしていて、その片田舎に全くそぐわない姿はこの村の誰もが覚えているのだろう。
「そっかぁ、よかった」
ゆったりとした朗らかな笑顔で発したよく通るソプラノの声もまた、何一つとして変わっていることはなかった。彼女と対面するのは事故死以来であるから、そう。
実に2年越しの再会であった。
私は今、幽霊と対峙している。
きっと騒ぎ立てるような事態なのだろうが、不思議と何を話すでもなく座布団に座らせて、依然ふわふわとした頭で二三言葉を交わした。最近、何かおっきな変化はなかったか。そう言って可憐に首をかしげる姿にもなぜか懐かしさがこみ上げる。
「なーんにも。おっかさんは相変わらず鬼のように怖いし、元司は毎日尻に敷かれてらあよ。村だってなんも変わってないよ」
言葉を交わしたところで、やはりそこに驚きはなかった。元来より私という人間は、派手に感情をあらわにすることが非常に少ないのだが、何より死んだ彼女がここに表れて私と会話をしている原因に微かな心当たりがあった。
私たちの住む村は、まさに日本の田舎の代表と呼ばれるような立地であり、現代の日本にあって本気で自給自足を目指してしまうような超排他的な地域性をもつ。
そのため、ありがちな伝統や都市伝説並みの与太話も尾ひれがつき続けるし、世間知らずなおっちゃんやその子供は、当たり前のようにそれを信じてしまうのであった。
かくいう出戻りであるらしい父をもつ私も、こちらに移り住む前(当時はまだ小学生になったばかりのころだった)に私が村で孤立しないようにと、様々な言い伝えから伝説まで、およそ常人にはしょーもないと吐き捨てられるような話を覚えこまされた。
いわれてみれば地方自治にも近代化を求めるこの時世に言い伝えもないだろうが、私には当時から一つだけとても好きな村の伝統があった。
「なーひとつだけ聞きたいんだけどさぁ」
「なんよあらたまって」
十中八九当たっていると確信しながら私は何気なく聞いてみることにした。
「要はマーちゃんが岩瘤の巫女ってことでいいんかいね」
岩瘤の巫女。この村に住む子供なら誰もが身近な大人から聞いたことがあるはずの伝説である。
簡単に言えばお盆から少し外れた八月の日に、死者が親しい人と遊びに来るというような話であったと思う。岩瘤の日などと呼ばれ、老人を中心に楽しまれるこの催しの日は死者の目印であると村中で焚火を行うので、嫌でもその存在を思い出す。それに幽霊だのなんだのが出てくる言い伝えは比較的少ないというのがあるので、ここらの子供は皆心のどこかで信じているのだ。
そして、年で言えば高校生にもなる、かくいう私もその一人であった。
「どーなんだろ。死んじゃった記憶はあるから幽霊なんだろうけどねぇ。巫女さんっていうんだから神様みたいな力があってほしいもんだけど」
おどけて言う彼女に私は一切の警戒を解いていた。その小首をかしげるような可愛いしぐさは紛れもなく生前の彼女であったから。
私たちはいろいろな話をした。去年の収穫祭の話。向かいの中田さんの奥さんの話とかその子供の悪行三昧の話。彼女は死んでからの記憶が存在しなかったので、話題はこちらから振るものばかりであったが、マーちゃんは終始優しい笑顔で話をきいてくれた
「私、みんなのこと見てたよ。今覚えてはいないけど、絶対に一年中ずっと見てた」
曰く、見ていた記憶の内容だけが存在しないらしい。何か作為的なものを感じつつ、妙なうれしさもある。まるでマーちゃんが村の守り神のようだ。
「ねえ、他の人にはマーちゃんは見えないの?」
話すうちに私は両親にもマーちゃんを見せたくなった。昔よく一緒に遊んでいたころはみんなで一緒に食卓を囲んだものだ。
「ううん。わからないの。ここに来た瞬間、見つけたのが君だったから」
それならばまだ試す価値がありそうだ。私は母に彼女を見せに行くことにした。
居間からキッチンを覗くと母は丁度料理を作ろうかというところだったので、今なら嘆願すればもう一人分くらい作ってもらえるだろうか。
母に話しかけると目を真ん丸にして驚かれた。まるで恐ろしいものを発見したかのように口元に手を当てていたので、後ろを見たらマーちゃんが少し大きめの段ボールを持って立っていた。ということはもしやと思い
「お母さん、もしかしてマーちゃん見えてないん?」
と聞くと不思議な顔をしてがくがくと頷いていた。人は恐怖体験でこうも変わるのかと少し小気味よい感じもしたが、そんなことは決して言わず粛々と事情を説明したところ顔を青くしたり赤くしたりしながら了承してくれた。
「ありがと! 私たちちょっと外で遊んでくるね」
みんなでご飯を食べるのはなんとも楽しみなことであったが、せっかく友人が遊びに来たのにどこにも出掛けないというのも寂しい。私たちには何をして遊ぼうか悩んだとき絶対に行く場所があった。
「マーちゃん、駄菓子屋いこ」
「うん」
6話くらいでパパっと完結するのでよかったら読んでやってください。
書きあがっているので一日ごとに更新できるかと