ゲーム ①
「さて、行くところだけど、あそこしかないな」
「扉の前にあったダイアル」
「俺もそう思う。怪しいところはそこぐらいしかないし」
「じゃあ、行こうか。隼人」
「あぁ」
俺たちは、扉の前に向かう。
「これだよね。多分」
岬が見下ろしたのは、扉の前に設置されていたダイアルだった。ダイアルを確認する。
『こなごがてんにくるはつこ』
ダイアルは前と変わりなく同じ表示をしている。
「……何かダイアルの上に書いてある」
俺は、ダイアルの上に表記された言葉を読み上げる。
『ここは何処につながる』
「どういうこと」
岬は、俺に問いかける。
「ヒントってところか。ダイアルの文字。これはアナグラムだな」
「アナグラム?」
「文字を並べかえて別の文字に置き換える手法のこと」
「じゃあ、この文字は……」
「並べかえて別の文字に直せってことだな」
「けど、どう並べかえるの?」
「ヒントをみれば分かるよ。ヒントはこう区切ってみると分かりやすい。『ここは』『何処に』『つながる』っていう表記とダイアルの文字を比べてみな。共通しているところあるだろ」
「?」
岬は、首を傾げる。
「『ここは』『つながる』って言葉をダイアルの文字と照らし合わせてみな。岬」
「あっ、『ここは』『つながる』の文字がダイアルの『こなごがてんにくるはつこ』の中に入ってる」
「そう。そしてヒントの残っている『何処に』はダイアルの残りの言葉。ダイアルの残りの言葉は順番に『ご』『て』『ん』『く』の四文字。並べかえると……」
「『て』『ん』『ご』『く』だね。隼人」
「そう。つまり、この言葉を並べかえると……」
俺は、ダイアルを回した。
『こなごがてんにくるはつこ』
→
『ここはてんごくにつながる』
「ガチャ」
扉から音が響く。
「扉から音……」
「開けてみよう、岬」
俺は、扉の前に立ち、ドアノブを回す。
ドアノブを回し、扉の先を確認する。
今いる通路より汚れており、天井にはクモの巣が張り壁には若干のヒビが入っている。
「ねぇ、隼人。これって……」
「次に進めたってことだろうな」
俺は、扉の先へ足を運ぶ。
「行くの……隼人」
「先に進まないと始まらない。それに、佐久間先輩の事が気になる」
「……わかった。隼人についていく」
岬も、扉をまたぎ歩いてくる。その時だった。
「バタン」
扉は、勝手に締まる。
俺は、ドアノブを回す。
「ガチャ、ガチャ」
入ってきた扉は開かず鍵がかかっている。
「一方通行って訳か」
「戻れないんだね……」
確認していた時だった。
『キーン、コーン、カーン、コーン』
通路内に、音が響き渡る。
『隼人さん、岬さん。おめでとうございます。どうやら、謎をお解きにならたようで。お二方には少し簡単だったでしょうか』
「おい、佐久間先輩は何処だ?」
俺は、アナウンスに向かって言葉を放つ。
『さぁ? この先にいるのか? それとも先ほどの場所にいたのか? 果てはもうこの世にはいないのか。あなた方の自由に考えて頂いてよろしいですよ』
「この世には……いないって……」
岬は、その場にしゃがみこむ。
「絶対に俺たちはここから出てやる。首を洗って待っていろ」
『貴方のお仲間もそうでしたよ。最初はそのように話していました。けど、ドンドンと少しずつカオイロガ変わっていって。あの時の顔はもう……。あぁ、イマオモイダシタダケデモゾクゾクしてきます。アナタタチハドンナカオヲミセテクレルノデショウネ。とても楽しみです。ソレデハツギノゲームをタノシンデクダサイ。アハハハハハハハハハハ』
アナウンスが唐突に途切れる。
「ねえ、隼人……」
「大丈夫か? 岬」
俺は、しゃがみこむ岬に目線を合わせる。
「本当に出られるのかな…… 私たち……」
「大丈夫。絶対に助かる。いや、助けて見せる。岬のこと」
「隼人……」
須賀先輩の姿をした岬が俺の胸にもつれかかる。
「少しここで休もう。落ち着いたら、先へ進むぞ」
「うん……」
俺たちは、そのまま腰を下ろし体を休める。
30分ぐらいたった頃、俺は岬に声をかける。
「落ち着いたか? 岬」
「うん……。ありがとう隼人。大丈夫」
俺たちは、その場に立ち上がる。
「それじゃあ、進もうか」
「うん……」
俺たちは、通路を歩き始める。
通路が汚れている以外、造りには変化はないが、一つだけ違和感のある場所が現れる。
「ねえ、ここの扉……空いてる」
「前のときはなかった部屋だな」
俺と岬は開いている扉を確認する。
部屋の内部は大きい机が設置されている。
壁側に本棚が敷き詰められ、本棚には本がびっしり敷き詰められている。
「何の部屋……ここ……」
「一先ず調べてみよう」
俺と岬はバラバラに部屋を確認する。
俺は本棚を、岬は机を担当した。
本棚の本は、本の内容に一貫性はなく色々な種類の本が並んでいる。そして、その本の並びを眺めていると俺は規則正に気づく。
「この本、タイトル順に並んでいるのか」
あ行から順番に本棚の本は並んでいた。
「ねえ、隼人……」
「どうした。岬」
俺は声に反応し、岬のもとへ歩み寄る。
机には、本が何冊か散乱し、卓上本立てが備え付けられている。岬はその一ヶ所を指差す。
「この、机の写真立て……」
写真立てに入れられた写真を確認する。
大人の男性と女性。その間に子供の並んだ写真だった。
俺は、その写真の子供に注目する。
「これって……」
俺は、言葉を失う。
その写真には見慣れた人が写っていた。
「須賀先輩……」
隣にいる須賀先輩の顔と確認する。
写真はまだ幼さが残るが、間違いない。
「どうして、須賀先輩の子供の頃の写真が……」
「わからない。けど、何かあることは間違いないな」
「そんな……」
その場を沈黙が支配する。
「ここは、一通り確認できた。考えてもわからないことは考えず先に進もう」
「うん……」
俺は、部屋を後にし通路を歩いていくと扉が現れる。
扉に手をかける。
どうやら鍵が掛かっており開くことができない。
扉の横には先ほどのダイアルとは違い、液晶のタブレットが設置され文字が表示されている。
『この扉を開くには、パスワードが必要です。一度入力し失敗した場合、二度と開くことができなくなります。ご注意ください。パスワードは私の机にあります』
「一度、失敗したら出られなくなるってことか」
「ねえ、机って私たちがさっき見ていた所かな……」
「そうだろうな。机の中も確認できてないし戻って確認しよう」
「うん。そうだね」
俺と岬は、さっきの部屋に戻りパスワードを探すことにした。




