二階からの脱出
俺は、白衣の男を探していた。
歩いていると、声が聞こえる。
「何処だ。女。早く出てこい。出てくれば少しは楽に拷問してやるよ」
「あいつの声だ」
俺は、男の声に近づく。
「ドンッ」
俺の目前の部屋の扉が通路側に飛んでくる。
「危な……」
俺は、その扉の中から現れる男と対峙する。
「女ぁ。そこにいたのか。サガシタゾ」
男は嬉しそうに俺に微笑みかける。
「さぁ、こっちへ来い。お前を新しい一小節の音源にシテヤル」
「……」
俺は、しゃべる事なく、歩いてきた方向へ走って逃げる。
「ニガスカ」
男は、手にもった鞭を逃げる俺に向かって振る。
「ドンッ」
「危なっ」
間一髪、俺の右側に鞭の軌道が外れ、壁にあたる。
俺は、右側の壁にあたった鞭の痕を見る。
壁は抉れ、穴が空いている。
「おいおい。これ、まずいだろ」
多分、あれが人にあたったら体の一部が吹き飛んでもおかしくない。俺は、恐怖する。
「逃がさない。ニガサナイよ。オンナァ」
俺は、何かないか走りながら探す。
すると、ナンバーのない白衣の男の部屋に近づく。
「そうか、あれを使おう」
俺は、男の部屋に入り、準備をする。
「オンナァ、早く出てこい。手間とらせやがって」
男は、部屋に入ってくる。
「なんだ。大人しく檻に戻ったのか」
「……」
俺は、返事をしない。
「今さら、大人しくしたってもう容赦はしない。これからお前に行うのは一方的な拷問だ。女の悲鳴は素晴らしいからな。さあ、早くこっちへ来い」
白衣の男は、檻に入り俺を捕まえようとする。
「なんだ。これ、服……」
白衣のは、岬を握りしめる。
「今だ」
俺は、隠れていた扉の裏から飛び出し急いで檻の鍵をかける。
「うぉぉぉぉ。誰だお前」
「そのままそこで大人しくしてろ」
「ぐぁぁぁぁ。開けろーーー」
俺は、その場を後にし岬の元へ向かった。
男と離れた後、俺は『8』の酸素の部屋に向かう。
扉を開けると、そこには岬の姿がなかった。
「ここじゃないのか?」
俺は、部屋の中を確認する。
「これか。鍵」
俺は、Oの文字が書かれた鍵を一枚見つける。
「つまり、ここには……」
岬は来ていないことになる。
「ここを探しておくか。確か、合計三本あるはずだな」
俺は、残りの二本を探す。数分で探す事ができた。
「よし。これで三本。もうそろそろ、岬が来る頃か?」
俺は、部屋を出て、岬を待つ。
何分待っただろうか。岬が来る様子がない。
「まさか、何かあったのか」
俺は、『17』の塩素の部屋に走り出した。
「確かこの辺に……」
俺は、回りの番号を確認しながら走っていると扉の開いた部屋が一つあった。
「『17』の部屋。あそこか」
俺は、扉の外で叫ぶ。
「岬!!」
俺は、扉の中を確認すると、その場に倒れた岬がいた。
「岬。どうした」
俺は、部屋の中に入ると、プールの時の匂いが充満していた。
「げほっ、げほっ。隼……人……」
「どうして、こんな」
「早く、外にで……て。ここ……は。早く……こっ……これ」
岬は俺に、Clと書かれた鍵を三本手渡す。
言葉が途切れてわかりづらいがこの部屋から出るように俺に促してくる。
「くそ、一人で逃げられるか」
俺は、岬を背負い外に出そうとする。
「なっなんだ……」
部屋の回りが歪んでいる。
「くそ、諦めるかよ」
俺は、勢いに任せて『17』の部屋の外の通路に出てドアを閉めた。
「岬。大丈夫か」
俺は、岬の頬を軽く叩く。
しかし、反応がない。
様子を見ると、体は震え、息が苦しそうだ。
「これって、まさか塩素ガス中毒」
本で読んだことがある。
確か、塩素系の洗剤と酸性タイプの洗剤を混ぜ合わせて塩素ガスを吸ったために倒れた話。筋肉が痙攣し、咳や目眩最終的には死に至ることもある。
俺が数分入って意識が朦朧とするぐらいだ。
岬は鍵を探して十分以上も鍵を探してあの場所にいたのだ。
倒れるのは当たり前だった。
「げほっ、げほっ」
「岬、どうしたらいい。どうしたら……」
俺は、対処法を思い付かずその場で咳づく岬を眺めるしか出来ない。
「『8』……」
岬の小さな言葉を俺は聞き取る。
「『8』って酸素の部屋か?」
「……」
岬は、意識を失ったのか返事がない。息も弱くなっている。
「考えても仕方ない。待ってろよ。岬」
俺は、岬を背負い『8』の酸素の部屋に向かった。
酸素の部屋に向かい部屋に入ると、俺はその中のベッドの上に岬を寝かせる。
心なしか少し、息が安定しているような気がする。
「少しこのまま寝かせておこう」
そう思っていた時だ。
「バコンッ」
大きな音が通路に響き渡る。
「なっなんだ……」
俺は、通路をでる。
「なめやがって、なめやがって、なめやがって」
同じよう言葉が、壁を反射するように響き渡る。
「まさか……あいつ……」
俺は、震えた。
「あー、さっき俺を檻に閉じ込めてくれたやつだね。本当にヨケイナコトヲシテクレタネ。お陰でストレスがマックスだよ。そうだな。君も俺の悲鳴コレクションに加えよう。ただし、お前はその他大勢のイントロにダケドナ」
男は、鞭を鳴らしながら近寄ってくる。
「くっ、岬。待ってろよ。俺がこいつを何とかするから」
俺は、心に誓いを立て、男の前に対峙する。
「来いよ。骸骨野郎。俺が相手だ」
「ははは、面白い。タノシマセテクレヨ」
俺は、男の正面に走り出す。
「肉弾戦ですか? 嫌いデハナイデスガ」
男は、俺に鞭を振り下ろす。
「グッ」
俺は、鞭が肩をかすり血がにじみ出る。
「ここだ」
俺は、白衣の男の隙間を縫ってスライディングをする。
男の後ろに抜けるとそのまま走ってその場を離れる。
「くそっ。逃がしマセンヨ」
男は、俺の方へ体を向け追ってくる。
「よし。これで岬は大丈夫……うっ」
俺は右肩を押さえる。血が流れ出してくる。
「かすっただけでこの威力か……」
最初から気づいてはいたが、あの鞭に直接当たることは死を意味する。
「無茶は、今回だけだな。さて、どうするか……」
俺は、走りながら対処法を考える。
もう、檻の中になんてことは出来ないだろう。
「もう、あの男の動きを止めることしか方法がないが……」
そう思っていると、俺は正面に落ちていた物を手に取る。
「ライターか?」
俺は、親指を動かす。
「ボゥ」
小さい火種が手元を照らす。
「使えるな。他にはないか?」
俺は、ナンバーの書かれていない男の部屋に入る。
散らかっている部屋の中であるものを手にする。
「薬瓶……」
俺は、手に取り中身を確認する。消毒液の匂いがする。
「アルコールか?」
俺は、瓶を取り、その部屋から通路へ出る。
「オマエ、俺の部屋でナニヲヤッテル」
男は、今までよりも早い、スピードで追いかけてくる。
「ヤバい」
俺は、さっきよりも早いスピードで通路を駆け抜ける。
ある場所へと俺は向かう。
「着いた」
俺は、ある部屋の扉を開ける。
瓶の中のアルコールを部屋から通路側に流しながら離れた所で待機する。
男は、開けた扉の付近まで近づいてくる。
「ニガサナイ」
男が、扉に近づいた瞬間、
「今だ」
俺は、通路に流したアルコールにライターの火を着火させる。
アルコールは、着火装置のように、火は扉の部屋まで達する。
「ドカン」
部屋は爆発し、周囲には噴煙と火花が待っていた。
「よし。うまくいった」
俺は、自分の前に落ちているプレートを確認する。
『1』水素の部屋だった。
部屋の中に充満した水素が火に引火し爆発を起こしたのだ。
男を確認する。部屋の前で黒こげになり、倒れていた。
「よし」
俺は、遠目で状態を確認すると岬の元へと戻ろうと少し歩いた時だった。
「!!」
背中に違和感を感じる。
何か、知ることもなく俺はその場に倒れる。
俺は、背中を確認する。切り裂かれたような傷痕があり、そこから血が流れ出ている。
「テマカケサセヤガッテ」
背中を俺は踏みつけられる。
「ガァッ」
俺は、痛みに悲鳴をこぼす。
「オマエには、特別に俺の拷問室にアンナイしてやる。俺をタノシマセテクレヨ」
俺は、意識が遠くなりその場で意識を失った。
俺は、目を開ける。
目の前には、ライトが照らされている。
俺は、状況を確認する。
硬いベッドに仰向けに寝させられ、手首・足首は金属製の枷で固定され身動きが取れなかった。
「キヅイタカ」
白衣の男が俺の顔の前に現れる。
「……」
俺は、男の声に返事をしない。
「まぁ、イイ。お前には俺の拷問部屋に連れてきてやった。男はあまり好きになれないが、お前は特別に悲鳴を俺のコレクションの一部にしてヤルヨ」
「くそっ。個々から出せ」
俺は、体をくねらせ訴える。
「威勢がイイネ。それじゃあ手始めにコレ……」
男は、台を用意して俺の左手を固定する。
そしてある装置を俺の小指にセットする。
「何をする気だ……」
「コウスルンダヨ」
男は装置を叩くように手を振り下ろす。
「あっ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
俺は、小指の痛さに悲鳴をあげる。
俺の生爪が宙を舞い、地面に落ちていく。
「アァ、素晴らしい悲鳴だね。どうだい。痛かったかい。さっきの爆発の時も同じくらいイタカッヨ」
「ハァッ、ハァッ」
俺は、相手の言葉に痛さで反応できない。
「他にもキミノタメニイッパイ拷問器具をヨウイシテアゲルカラネ。簡単にはイカセナイ。俺をオチョクッタコト、コウカイサセテアゲルヨ」
男は、俺の左太腿にメスを突き刺す。
「いぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
俺は、太腿の痛みにまた叫ぶ。
「さて、オアソビモこのくらいにシテオキマショウ」
男は、俺から離れ、ある装置へ向かう。
それは、人間大の金属製の装置で顔があり、胴体の部分はまるで鐘のような形になっている。そして、内側には無数の針が設置されている。
「コレはね。鉄の処女。拷問器具についてはユウメイダヨネ。これに入ってキミノ最大級の悲鳴をキカセテクレヨ」
「……」
俺は、抵抗するのを止めた。そう、死を覚悟する。
「さて、ジュンビヲ。ってあれ。おかしいな。扉が錆び付いて動かない。くそっコンナトキニ」
ガチャガチャと鉄の処女の扉を動かして行く中、入り口の扉から黒い人影が男に近づく。
「よし。ウゴイタ」
男が、そう言った瞬間だった。
「ドンッ」
男が、鉄の処女の中に突き飛ばされる。
「ナンダ。ダレダ。ヤッヤメロ」
黒い人影は、鉄の処女の扉を閉めた。
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁ」
男は、悲鳴をあげる。数分たった後、悲鳴は消える。
人影が俺に近づいてくる。それは見慣れた顔であった。
「岬!!」
俺は、須賀先輩の姿をした岬に声をかける。
「隼人……この傷……」
岬は俺の手、足を確認する。
「ごめんな。下手こいた……」
俺は、そう伝えると、岬は俺の胸辺りで顔を埋める。
「良かった。生きてて。本当に良かった」
岬は俺の胸の中で泣きじゃくる。
「俺も、岬が無事で良かった。けど何で酸素の部屋を指示したんだ」
「塩素中毒の場合、高濃度の酸素を吸うことがまず、応急措置で必要だったから……連れていってもらえなければ私も……」
「お互い、助かってよかっ……イタッ」
俺は、傷が痛み、声をあげる。
「ごっ、ごめん。今、枷外すね」
「ありがとう、岬」
俺は、枷を外してもらう。
そして、俺の傷をこの部屋にあった包帯で岬が手当てをする。
「痛い」
消毒液が染みて、声をあげる。
「我慢して。破傷風とかになったら大変だから」
俺は、されるがまま岬の指示にしたがった。
「これでよし」
「ありがとう。岬」
「お互い様。こっちこそ助けてくれてありがとう。隼人」
俺たちは、お互い笑い合う。
「それじゃあ、階段に行くか。岬」
「もう少し、休んだ方が……」
岬は俺の事を心配する。
「須賀先輩や佐久間先輩が気になる。岬も間一髪だったんだ。一分でも時間が惜しい」
「うん。わかった。歩ける? 隼人」
「少し、痛いが何とか……」
俺は、やせ我慢をしながら岬に伝える。
「じゃあ、ゆっくり行こう」
「あぁ」
俺と岬は、二階階段に向かう。
階段に到着すると、俺たちは各部屋で手にいれた鍵を重ね合わせる。
重ね合わせた鍵は、ぴったりと鍵穴に収まり、回すと、
「ガチャ」
音をたてる。
「岬の言うとおりだったな。岬がいなかったらここで駄目だったな」
「私もそうだよ。隼人がいなかったら私も駄目だった。二人での力だよ」
「そうか。ありがとう。これからもよろしく。岬」
「うん。ここから出ようね。隼人」
俺たちは、開いた扉をくぐり抜け、二階から三階に昇っていった。