二階階段と白衣の悪魔
俺と岬は、見取り図にある二階から三階に通じる階段の場所に向かっていた。
「大丈夫か。岬」
「うん。平気……」
何で岬を心配しながら歩いていると、階段のある場所に到着する。
「マジかよ……」
俺は、言葉をこぼす。
階段の前には扉があり、鍵が掛かっている。
扉にはこう書かれている。
『この扉を開けるには、鍵が必要です。鍵は金も白金でもない銀のみが耐えうる鍵。その鍵を用意できれば、この扉は開くことができます』
「どういう意味だ?」
俺は、少し悩む。
「わからないね……一先ず他の部屋を探してみよう。隼人」
「あぁ」
俺は別の部屋を探しに扉に向かう。
「一先ず比較的安全な扉を開けてみようよ。隼人」
「そうすると、近くだと『7』の部屋かな」
「『7』だと窒素の部屋だね」
「そうか、だから危険のマークがないのか」
俺たちは、『7』の部屋に向かい、扉を開ける。
部屋の中は、『1』の水素の部屋と一緒でベッドなどが散乱していた。
「一先ず、何かないかな探そう」
「うん、私はこっちを探すね。隼人」
手分けして探していると、
「ちょっと、隼人。これ」
「どうした岬」
俺は、岬に歩み寄る。
「これ、鍵じゃない?」
岬の手のひらに乗せられた平べったい鍵を眺める。
鍵の持ち手にはNと書かれていた。
「確かに鍵だな。一先ず、階段の鍵に行こう」
「うん」
俺と、岬はさっきの階段の場所まで戻る。
「じゃあ、差し込むよ」
岬が階段の鍵穴に差し込む。
しかし、鍵は回らない。
「隼人。回らない……」
「そう簡単にはいかないか……」
「はい、隼人……」
岬から、鍵を預かる。
鍵をよく観察する。鍵の持ち手の表面には凹凸がある。
そして、扉の鍵穴を確認する。
鍵穴は、Nの鍵の何倍もの厚さになりそうな大きさだった。
「調べても、やっぱりこの鍵じゃ無さそうだな」
「うん。けど私、引っかかることがある」
「引っかかること?」
俺は、岬に訪ねる。
「金でも白金でもない。銀のみ耐えうる鍵ってところ」
「扉に書かれているあれか」
俺は、扉に書かれている文字を指差す。
「そう。頭の中で引っ掛かっているんだけど……」
岬は悩んでいると、遠い所から声が聞こえる。
「おい。あの女は何処にいった。それにあいつも何処にいった」
叫び声が聞こえてくる。
「ねぇ、あの声って……」
岬が震える。
「あぁ、あの白衣の男だ」
どうやら、岬が檻から出たことに気づいてしまったようだ。
「どうする……」
「一先ず、お前はさっきの『7』の部屋に隠れろ」
「隼人は……」
「俺は、確かめたいことがある」
「わかった」
岬は、俺の言葉に頷き、『7』の部屋に走り出す。
俺は、男の元へ向かった。
何も書かれていない部屋に向かうとそこには白衣の男が立っていた。
部屋は、本や物などが散乱しどうやら男が暴れたのだろう。
「何だ。おまえか」
男は、俺に近づくと胸ぐらを捕まれる。
「どうして、あの女を逃がした。あんな上玉なかなか来ないんだぞ」
俺は、息ができないぐらいに首を締め付けられる。
「すいません……暴れていた……のでたのまれた……クスリを……打とうとして……にがして……」
「この役立たずが」
俺は、近くに放りながられる。
「それに、やっぱりお前の声が違うような……」
「……」
俺は、気絶した振りをする。
「……気絶したか。仕方ない。私が探すか」
男は白衣の中に隠していた鞭を手に取る。
「逃げたこと後悔させるぐらいにこの鞭で背中を叩いてやる。泣き叫ぼうが、懇願しようか許さない。その後は、拷問室で……」
男は、イライラしながら俺を置いてその場を離れる。
離れたのを確認して俺はその場を立ち上がる。
「いたたた」
放り投げられた時に背中を強打したせいかズキッっと痛む。
「やっぱり、俺のことを誰かと勘違いしているようだな」
俺は、疑問が確信に変わった。
「そうだ。岬!!」
俺は、走って『7』の書かれた扉に向かう。
俺が、到着する前に白衣の男が『7』と書かれた部屋に立っていた。
「ここにいるのかぁ? 女ぁ」
男は、鞭を取り出すと扉に向けて鞭を振りおろす。
「ドンッ」
扉は木っ端微塵に破壊される。
「岬……」
俺は、別れて行動したことに悔いて項垂れていると、
「なんだ。ここじゃないのか?」
「えっ」
俺は、男の言葉に頭を向けると、男はその場から立ち去っていく。
「どうなっているんだ」
そう、思っていると、肩を、
「トントン」
と叩かれる。
『!!』
俺は、ビックリして振り返ると、そこには須賀先輩の姿をした岬がたっている。
「岬、どうして。俺は『7』の扉にいろって……」
「ごめん。けどよかった。あのままいたら私、多分……」
「そうだったな。よかった無事で。でもなんで外に……」
「実は、あの後、私、分かったの。鍵のこと」
「何だって」
「だから私、『7』の部屋にいたんだけどその後、別の部屋にいたんだ」
「別の部屋?」
「そう、私、さっき『1』の部屋にいたんだよ」
「『1』のへやって危険な場所って書いてあった」
「大丈夫。あの部屋は、危険だけど入るだけなら」
「全く、無茶して……」
「けど、成果もあったよ」
岬は、手に「H」と書かれた平べったい鍵が4枚握られていた。
「これって……」
「だから分かったの。あの扉の鍵のこと」
「どうして、一体どういうことなんだ」
「教えるね。この鍵の意味。ヒントはあの壁に書かれた言葉。鍵は金も白金でもない銀のみが耐えうる鍵ってところ。これって多分王水のことだと思ったの」
「王水?」
「王水って、濃塩酸と濃硝酸を3:1の体積比で混ぜ合わせた液体のこと。この液体は金属の融解に利用する液体で金とか白金とかを溶かすこともできるんだけど、銀はほとんど溶けないって言われてる」
「なるほど。けど、王水と鍵の件がどうやって結び付くんだ」
「王水の作るときの化学反応式が答えなんだよ」
「化学反応式?」
「HNO3 + 3HCl → NOCl + Cl2 + 2H2O。これが化学反応式なんだけど、注目するのは生成された、NOCl + Cl2 + 2H2Oの部分。これが王水なんだけど、さっきのNの鍵が一本。そしてHの鍵は4本。何か気づかない?」
「あっ、今持ってるNは一本。Hは四本で化学式に必要な原子数と一致している」
「そう。つまり必要な鍵はOが三本。Clが3本必要になるってこと。それを鍵の持ち手にある凹凸に合わせると……」
「一つの鍵になる。だから、鍵穴があんなに大きかったのか」
「そうだと思う。だから後はその部屋に行ければいいんだけど、あの白衣の男が歩いてて……」
「そっちの件なんだけど、なぜか俺はあいつに襲われないんだ。さっきも誰かと間違われたみたいだけど……」
「それって、もしかして匂いかな」
「匂い?」
「近づかなきゃわからないぐらいだけど、隼人の体、何か生臭いっていうか、すいた匂いがする」
「生臭い匂い?そうか。そういうことか」
「何か、分かったの?」
「あいつ、さっき一階にいたナースと勘違いしているんだ」
「ナース」
「俺、さっき一階にいたとき捕まってて、薬が足りないってナースが別のところに薬を取りにいったんだ。多分、ここに取りに来てたんだな」
「そうか。同じ匂いのするナースと勘違いしているんだね。けど、生臭いって……」
「岬はあまり考えない方がいい」
俺は、岬に考えさせないように促す。俺だって思い出したくない。
「けど、あのナース。薬間違って持っていったって言ってたな。もしもテトロドトキシンなんて打たれていたら……」
俺は、死んでいた。間一髪の脱出劇に安堵した。
「どうする?このままだとあの男に私、捕まるかも……」
「そんな事はさせない。どうするか……」
俺は、考えた末、岬に伝える。
「岬、服を脱げ」
「ビシン」
岬に俺は、頬を平手打ちされる。
「こんな状況で何いってるの。正気?」
須賀先輩の姿をした岬が顔を赤らめる。
「いてー。違うよ。俺は、岬の来ている服と俺の服を入れ換えるために言ったんだ」
「服を入れ換える? 何で」
「あいつは、匂いで判断している。つまり、俺の服を着ていればナースと勘違いして襲ってこない。俺はお前の服を持ちながらあいつを誘導する。その間に鍵を集めてくれ」
「そんな、そうしたら隼人が危険に」
「二人で歩いてた方が危ない。なら、俺は岬に鍵を託したい。駄目か……」
「……分かった。けど無茶はしないでね」
「そのつもりだ。そうしたら服だけど……」
「壊れたあの部屋で着替えてくる」
「分かった。それじゃ俺の服はここで渡す」
俺はその場にTシャツを脱いで、その場で渡す。
「じゃあ、行ってくる」
「あぁ、俺は、見張ってるから」
「うん……」
岬は壊れた部屋に向かう。
数分過ぎた頃だろうか?
「お待たせ……」
「おう、遅かったな……」
いいかけた瞬間に俺は、言葉を失う。
俺の服を着た、岬であったが体が須賀先輩であった事を忘れていた。俺のシャツが小さいせいか胸が強調され目のやり場に困る。その様子をみた、岬は、
「隼人のエッチ……」
赤らめながら答える。
「仕方ないだろ……」
「知らない」
そう言っ岬は俺に、さっきまで着ていた服を投げ渡す。
「それじゃあ、岬頼むよ」
「……わかった。隼人も気をつけて」
「おう」
俺と、岬は別々に動き始めた。