『14』『60』『99』『92』『31』
俺は、ダイアルのヒントを求めて二階通路を歩き始める。
加藤さんから見取り図と一緒に渡された危険な場所が記された紙を確認する。
二階はどうやらかなり危険なところが多いらしい。
最初に出た『1』の部屋も危険となっていた。
「あの、部屋が?」
俺は、他に危険な場所を確認する。
『16』『33』『80』の部屋も危険となっていた。
「この数字は何か意味があるのか?」
俺は、もう一つ気になることがあった。
「そういえば、あの骸骨の男、銅の部屋に行くって言ってたな」
俺は、男を探す。
「あー、この壊れやがった」
男の声が聞こえてくる。
声のする場所に向かうとそこの扉は『29』と書かれている。
俺は、その扉をそっと開く。
「あー、このポンコツ。どうなってやがる」
男は、部屋で唸っている。部屋の様子を確認すると、手術台が部屋の中心に配置され、その回りには拷問器具が置かれていた。男はその拷問機械の一つをガチャガチャ動かそうとするがどうやら錆び付いており動かなくなってしまっているようだ。
「あー、イライラする。そうだ。そんな時は……」
男が取り出したのは、古びたCDプレイヤーだった。古びたスピーカーをセットしてスイッチをいれる。
音楽は、聞いたことのあるクラシックだった。
「これって、音楽の授業で聴いたことがある。確か、ドヴォルザークの交響曲第9番「新世界より」第4楽章だったっけ。けど……」
俺は、この曲を聞きながら違和感を覚える。
それもそのはずだ。
その曲は人間の悲鳴でできていた。
「うっ」
俺は、その悲鳴だけで出来た曲を聴いて吐き気を覚える。
「あー、素晴らしい。本当に心が洗われるようだ。この曲にあの女の悲鳴を合わせたらどうなるのか楽しみだ」
俺は、ゾッとした。
この悲鳴は、最初の部屋で見た職員たちの声ではないかと。
そう思うと、俺はいてもたってもいられず岬の元へと戻った。
戻ると、岬はその場で踞り震えを隠しているようだった。
「あっ……隼人」
踞っていた岬は、俺の帰りを見て少し安心した顔をする。
「ただいま。ごめん。まだ、わからないんだ」
「そうなんだ……」
「くそ、なんなんだ。さっきの数字は。このままじゃ岬は……」
俺は、加藤さんの貰った紙を床に叩きつける。
「俺がどうにかしなきゃいけないのに……何もわからない。『14』『60』『99』『92』『31』って何なんだよ」
「ねえ、隼人。この紙に書かれている危険な場所ってなにかあった」
「何で……」
「いいから教えて。この危険なところって何かあった」
「確か、『16』『33』『80』のプレートがついていて、それと俺の最初の部屋の『1』のプレートがついていた。危険って書いてあったから入らなかったけど」
「あと、さっきの白衣の人ってどこにいったの」
「『29』プレートがついた部屋にいた。そう言えば銅のへやに行くって言ってた」
「そうか……わかった。私」
「本当か」
「分かったんだけどごめん。何処かに化学関係の本ないかな」
「化学系の本?」
「その机の本ににないかな」
「ちょっと待って」
俺は、岬に促されるまま本を探す。
「これでいいかな」
俺は、英語で『CHEMISTRY』書かれた本を渡す。
「少し貸して」
俺は、岬に本を渡すと、一番後ろのページを開く。
「やっぱりそうだ」
「何か分かったのか」
「うん。今から言うアルファベットをダイアルに入れて」
「わかった」
「『si』『nd』『es』『u』『ga』」
俺は言われたアルファベットの順番にダイアルを回す。
「ガチャ」
鍵は解錠され、檻の扉が開く。
「隼人!!」
俺は、須賀先輩姿の岬に抱きつかれる。
「よかった。隼人が無事で……」
「俺もだよ。よかった生きていてくれて」
「うん」
岬は涙を潤ませる。
「処で、何で分かったんだ。暗証番号」
「ヒントになったのは、今いる白衣の人がいた場所。それが分からなかったら私も分からなかった」
「男のいた場所?」
「男のいた場所が『29』の部屋で銅の部屋って言ってたから。それって化学の周期表のことかなって思ったの。『29』は銅(Cu)でしょ」
「あっ、それじゃあの紙の危険な場所って」
「そう。『1』(水素)『16』(硫黄)『33』(ヒ素)『80』(水銀)。この紙に書いてあった入ると危ないって言っていたのは毒性または爆発性のある危険な場所なんじゃないのかな」
「なるほど。そうすると『14』『60』『99』『92』『31』って周期表の原子記号のアルファベットになるのか」
「そういうこと。『14』はケイ素で(si)、『60』はネオジムで(Nd)、『99』はアインスタイニウムで(es)、『92』はウランで(U)、『31』はガリウムで(Ga)ってこと」
「流石だな。化学、岬は得意だったな」
「こんなことに役に立つとは思わなかったけど」
「やっぱり、岬なんだな」
「うん、何でこんなことになったかはわからないけど……」
岬は不安そうな顔をする。
「大丈夫。何とかなる。それよりここから出よう。ここは危ない」
「うん。けど、何処に……」
「三階に行く。一度四階まで行きたい。階段はこの場所にあるはずた」
「分かった」
「それと一応、鍵を戻しておこう。あいつ目が悪いらしいかお前がいると思うかも知れない」
「うん」
俺は、鍵を戻そうと手をかけるが、作業を止める。
「どうしたの? 隼人」
「いや、何でもない」
俺は、岬を怖がらせないように伝えるのを止めた。
『14』『60』『99』『92』『31』の意味を知ったからだ。
この番号の原子記号のアルファベットを繋げると文字になっていたのだ。
「sindesuga(死んで須賀)」
俺は見ない振りをしながらダイアルをぐるぐる回し鍵を施錠し、加藤さんの地図にあった二階から三階に続く階段に岬と一緒に向かった。