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1階隔離室と閉鎖病棟の構造考察

俺は、病室から脱出し、隣の部屋に入る。

隣は、倉庫になっているようだった。

水や携帯食料。包帯に車椅子。一通り揃っている。

俺はその中の水を確認する。

賞味期限は一年後となってる。

「まだ、ここに置いたばかりだな」

俺は、この閉鎖病棟は外との繋がりがあることを理解し少し安堵する。

俺は水と携帯食料、包帯と病室にあったツールナイフを倉庫にあった小さなリュックに入れ、俺はそっと通路側の扉を開く。

丁度、ナースも俺たちのいた隣の隔離室に入る所だった。

鉢合わせしないように、入れ違いに倉庫から通路に出た。

俺は、その場を離れるように通路を歩きながら加藤さんから貰った見取り図に目を落とす。

見取り図は赤い線で引かれている。

「これは……」

俺は瞬時に感じた。

これは加藤さんの血で引かれたものだと。

几帳面であったのだろう。

かなり正確に図面は引かれていた。

俺は図面の構造に注目した。

この閉鎖病棟は、最初に病院の見取り図の構造と同じでO字型の四階構造になっている。

一階は隔離室。

二階は保護室。

三階は宿直室と指定医室。

四階はエントランスと受付となっているようだ。

そして四階の場所には扉のマークがありそこに赤いバツ印が記されていた。

「これは……」

俺は、このバツ印をつけた理由を考える。

通常ならここが出入口であることを記したと考えるのが自然だ。

しかし俺は気づく。

「確か、外側は……」

外側は夜に見たときにチェーンと南京錠で閉鎖されていた。

つまりこのバツ印は、

「外に出ることの出来ないマーク……」

そう考えるのが妥当だろう。

「どうするか……」

地図を眺めながら一階通路を回っていたがここには隔離室があるだけで何もないようだ。

「二階に行くしかないか……」

そう思った時だった。

「みーずーのーサーン」

「!!」

俺は、その言葉に震える。

通路を響き渡らせたる声の主は、さっきまで隔離室に一緒にいたナースのだった。

「何処に行ったのですか。早く病室に戻って下さい。大丈夫ですよ。私がしっかり診てあげますからね。ずっと一緒に。そうずーーーと、一緒に。一緒に。一緒に。一緒に。一緒に。一緒に」

全く、大丈夫じゃない声が通路を響き渡らせる。

「ここは危ないな。二階に行くには……」

俺は、見取り図を眺める。しかし二階に昇る階段が記載されていない。

「何で、書かれてないんだ……」

俺は、少し焦る。少しずつ、ナースの声が近づいてくる。

隠れるために俺は、別の隔離室に入ろうとする。

「ガチャ、ガチャ」

鍵が閉められており、開く気配がない。

「くそっ」

俺は別の隔離室の部屋を開けようとするが全く開かない。

「どうなっているんだ」

「無駄ですよ。水野さん。ここからは出られませんよ。あなたが帰るのはあの病室だけですよ。だから早くモドッテキテクダサイ。さぁ、ハヤク。ハヤク。ハヤク。ハヤク。ハヤク」

ナースの声が更に近づいてくる。

「くそっ、考えろ」

俺は、思考を巡らせる。

もう一度、ナースから逃げながら見取り図を眺める。

二階、三階には階段のマークが書かれている。

つまりこれを書いた加藤さんは二階、三階の階段の場所をしっかりと記載している。

それなのに、一階から二階の階段を書き忘れた。

あり得ない。

加藤さんはあえて階段を書かなかった。

そう考えるがなぜ。

そして、しっかりと並べられた隔離室。

「加藤さんはどうやって全ての部屋を調べた」

鍵が掛かっており、全ての部屋に入ることができなかったはずだ。

諦めず1つ1つの隔離室のノブを回す。

すると、1つの部屋の扉が開く。

俺は、すぐさま部屋に入った。

「何だ。ここ……」

俺はその部屋を見て驚く。

その部屋は、さっきまでいた隔離室と違い、机や本、ベッドが置かれ生活感のある部屋だった。

壁には細かな白黒の四角の柄をしたアクセントクロスが張られており目がチカチカする。

「水野さん。私の部屋にいるんですか。ここですか。ここですよね。ここしかないですものね。今行きますからね」

「まずい」

俺は、火事場の馬鹿力で机やベッドを引きずり扉を塞ぐ。

「ガチャガチャガチャ。ドンドン」

扉のノブが回るが、机やベッドのお陰で扉が開かない。

「あらあら、何か物で扉を塞ぎましたね。水野さんは手間をかけさせますね。仕方ない。『あれ』を持ってきましょう。待っててくださいね。スグニムカエニキマスカラ」

そう告げると、ナースはその場から離れていく。

「はぁ、一先ず助かった……」

少しの安堵を漏らしたが、安心してはいられなかった。

あのナースはすぐに戻ってくる。

それに、此処にずっといたら逃げ道がない。

八方塞がりだ。

しかし、俺はナースの言葉が少し引っ掛かっていた。


『私の部屋にいるんですか。ここですか。ここですよね。ここしかないですものね』


つまり、ナースは此処に来ることを想定していたという事だ。

「ここに何かある」

俺は部屋を調べる。

部屋の中の机を調べると俺は違和感のあるものが出てくる。

「これって……ドアの取手……」

俺は机の引き出しに入っていたL字のドアノブを手に取る。

「何でこんなものが……」

俺は、考えていると……

「ブオーン。ブオーン。キュイーン」

けたたましいモーター音が扉の外から響いてくる。

「何だ!!」

俺は、驚く。

「ミズノサン。イマカラアケマスネ」

「バキ、バキバキバキッ」

扉から回転する刃物が突き出る。チェーンソーだ。

チェーンソーが抜かれ、穴からナースが顔を覗かせる。

「ミズノサン。ミーツケタ」

俺は、ナースの姿にゾッとする。

ナース服は血にまみれ、ギョロっとした目で俺を見つめていた。

「うあぁぁぁぁ」

俺は、ナースを見て叫ぶ。


「そんなに驚かないでイインデスヨ。今回はミズノサン少しおいたシチャイマシタカラネ。今度はコレデ足と腕をキッテ病室からウゴケナイヨウニしますからね。ダイジョブです。安心して下さい。ワタシガイッショウメンドウミマスカラ」


そう言うと、ナースはチェーンソーを振りかぶり、ドアをこじ開けようとする。

「まずい、まずい、まずい、マズイ」

俺は意識が飛びそうになる。

戦える道具としたら今持っているドアノブだが。

「勝てるわけないだろ」

すぐに、その考えを捨てる。

「どうする、どうする」

俺は、思考を巡らせる。

俺はふと、取手の取り付け先を見る。

四角い形をしていた。

「もしかして……」

俺は、壁を調べる。

白と黒のコントラストが目を曇らせる。

「バキン、バキン」

扉が、半分以上破壊される。

「もう少しですね。マッテテクダサイネ。スグニイキマスカラ」

「諦めるな、俺」

俺は、壁を触る。

すると壁に小さな四角いくぼみを見つける。

「ここだ」

俺は、ドアノブの先の四角部分をはめ込む。

「やっぱり」

そう思った時だった。

「ドカン」

ものすごい衝撃が部屋中を侵食する。

埃が舞うその中から、ナースの姿が(あらわ)になる。

血まみれの姿に、ナースキャップは取れ、髪が顔の前に垂れ下がっていた。

「ミズノサン。さぁ、逝キマショウ」

俺は、とっさに設置した取手を回す。すると壁がスーと開く。

「ニガシマセンヨ。ミズノサン」

襲いかかってくるナースを見て俺は外側の取手を外し、開いた部屋に入り内側の取手に手をかける。

「ミーズーノーサーン」

俺は、ナースがくる前に扉を閉めた。


「ドンドンドン、ドンドンドン。ミズノアケナサイ。アナタハワタシが診てアゲマスカラ。ワタシが。ワタシが。ワタシが。ワタシが。ワタシが。ワタシが」


俺は、耳を塞ぎながら正面を見る。

そこは、白い部屋で入ってきた扉と違う扉が1つある。

俺はその扉を引くと、一段段差のある白い部屋が広がる。

またその部屋の正面には扉があり、開くと同じように一段段差のある白い部屋が広がり扉が現れる。

「そうか。そういうことか」

俺は、納得する。

加藤さんは階段を書き忘れていなかった。

部屋だと思っていた空間自体が階段だったのだ。

丁度、通路の扉があった場所がこの階段部屋に重なって隔離室の空間と認識してしまったのだ。

「……サン……ニガ……セン……」

昇るにつれて少しずつナースの声が遠くなっていく。

俺は、血まみれのナースを思い出す。

あの血は多分加藤さんのものだ。

あの血の量だ。加藤さんはもう死んでいる。

「加藤さん……。ごめんなさい。助けられなくて……。俺絶対に……仲間と一緒に出ます」

俺は、加藤さんから貰った手紙を握りしめ階段を一段、一段踏みしめながら昇っていった

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