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病室

「んん」

俺は、目を覚ます。

目を覚ますと、そこはベッドの上だった。

4人が収用できる部屋で自分のベッド以外はカーテンで仕切られていた。そこが病室だと俺はすぐに理解する。

病室の中は鼻を突く匂いで充満されていた。

辺りを見渡す。

すると、近くにはピンクのナース服を着た女性が隣のカーテンを仕切りられた隣のベッドに向かっていく。

「ここから早く出せ」

怒りと恐怖の声が入り交じりとても聞いてはいられない男の悲鳴が隣から聞こえてくる。

すると、ナースは、

「あらあら、加藤さん。まだそんな事言ってるんですね。強いお薬注射しますよ」

「やめろ、それは……あぁぁぁぁぁ」

耳障りな声が病室内に木霊する。

「あっ、あぁ……」

男の声が少しずつ弱くなっていく。

「はい。落ち着きましたね。また発作が出たら打ちますからね」

その優しい声が怖く感じる。

カーテンから出てくるピンク色の服を着たナースが顔を出す。

「あら、目が覚めたのね。水野くん」

「何で、名前を……」

「知ってますよ。だってあなたはここの患者さんなんですから」

「患者……」

「えぇ、これから私がずっとあなたの事を診て差し上げますからね」

にやっとナースが笑いかけてくる。

「佐久間先輩と須賀先輩。それと岬は何処だ」

「さて、私のリストにはありませんが……」

ナースが手に持っていたカルテを確認する。

「そんなわけあるか。早くここから出せ!!」

「……どうやら意識が混乱しているみたいですね。貴方にも強いお薬が必要のようですね」

「くそ。話にならない」

俺は、ベッドから起き上がろうとするが、

『チャリン』

右手首に手錠が取り付けられており、頑丈な鎖がベッドの縁に繋がれていた。

「ここからは出られませんよ。いや、出しません。あなたは私の患者さんなのですから」

そういうと、少し離れた所にある回診車にナースが向かう。

「あらあら、薬を切らしてしまいました。今から取ってきますので大人しくしていてください」

そう一言告げると、ナースは扉を開け、ガチャっと何かを閉める音がして去っていく。

「待て。ここから出せ」

俺は、叫ぶと、

「無駄……だよ」

俺は、さっき注射を打たれたカーテン越しの男が話しかけてくる。

「貴方は……」

俺は、カーテンのせいで影しか見えない男に話しかける。

「俺は……加藤健吾(かとうけんご)。ここを撮影に来た……カメラマンだ」

「カメラマンって。二週間前に神隠しにあった」

「そうか……まだ二週間しかたっていないのか……もう、何十年もここにいるようだったが……」

「無駄ってどういうことですか」

「そのままの意味だよ……ここには出口がない……」

「そんな事ないでしょう。入って来たのであれば必ず出口は……」

「俺は……探したんだ。出口を……ここから逃げ出して……」

「ここから逃げる方法があるのか」

「ない……ことはない。けど無駄だよ……お前の仲間さんは今頃血の海だ」

「何でそんな事がわかる」

俺は、怒り狂ったように加藤に言葉を投げ掛ける。

「俺の仲間がそうだったからな……俺がここから出たときはもう……」

「そんな……」

俺は、少し頭を項垂れる。

「なぁ……名前は……」

「水野隼人」

「隼人か……なぁ、少し頼まれ事を聞いてくれないか……」

「頼まれ事……」

「あぁ……ここからの脱出方法を教える。その代わりにここからもし……出られたら家族に手紙を……渡して……ほしい」

「ここから自分で出ようとは思わないのか」

「俺は、もう無理だ……頼むよ……」

「分かった。約束は守る。教えてくれ脱出方法を」

「まずは、その手錠だが……近くに何か細い棒状の物はないか」

「棒状の物……」

近くを見渡すと、近くのテーブルの上に手のひらサイズのツールナイフが置かれていた。

「ツールナイフならあった」

「それでいい……その中の細いナイフを鍵穴にさしてガチャガチャ回して……」

ガチャガチャと何度か試してみると……

「ガチャ」

右の手錠が外れた。

「こんな簡単に」

「お前以外にも……逃げようとしたやつが同じ事をして……鍵がバカになっているんだ……」

「ありがとう。加藤さん」

俺は、手錠が外れ、カーテンで隠れた加藤さんに歩み寄る。

「馬鹿……来るな……」

俺は、後悔した。加藤さんの姿に……。

目は片方が抉れ、皮膚が化膿しそこからは蛆虫が沸いていた。

「おぇぇぇぇ」

俺は、その場で嘔吐する。

「見なくていいもん……見せちまった……悪いな。隼人」

「どうして……こんな……」

「此処にいたらいずれこうなる……だから……」

加藤さんが話終える前に、

『ガラガラガラ』

と何かが近づいてくる音が聞こえる。

「水野さん、お待たせしました。お薬用意できましたよ」

ナースの声が遠い場所から聞こえてくる。

「まずい……話はこれぐらいにして……」

加藤さんは、背中から3枚かの紙を俺に手渡す。

「一枚目と二枚目は、ここの建物の見取り図……と危険な場所を示した場所。三枚目は家族への手紙だ。お願いするよ……」

「加藤さん……」

「じゃあ……用も済んだな……早くここから出な……俺の正面にある棚……俺の空けた穴が……ある……そこからは逃げ……な……時間稼ぎ……してやる……」

「ありがとう。加藤さん。必ず助けに……来ます」

「……あぁ。待ってる……よ」

俺は、加藤さんの正面の棚をずらすと穴があり、そこを潜って隣の部屋に逃げ出した。


※※※


「水野さん、お待たせしました。お薬を……」

ナースが戻ってくると異変にすぐに気づいた。

「あぁぁぁぁぁぁぁぁ。水野さん。水野さんどこに行ったの」

ナースは発狂し、病室内を声で響き渡らせる。

ナースはぐるっと加藤のベッドに向かう。

「貴方ですね、あなたがここから……」

「しらんな……」

加藤は、死にかけの体でしらを切る。

「許さない。私の看病の邪魔をするのはユルサナイ」

そう言うと、ナースはメスを手に持ち加藤に振り下ろす。

「ガバッ」


「許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。ゆるさない。ゆるさない。ゆるさない。ゆるさない。ゆるさない。ゆるさない。ユルサナイ。ユルサナイ。ユルサナイ。ユルサナイ。ユルサナイ。ユルサナイ」


同じ言葉を何度も呟きながら、加藤の体にナースは突き刺す。

刺されている加藤は意識が遠くなる中願った。


『約束たのむよ……。隼人……』


加藤は、その場で息を引き取った。

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