偽者
「何だよ。これ……」
「どうしたんだい。隼人くん。この選択は簡単じゃないか」
「……そうだよ。隼人。これはAしかないじゃない」
「この、問題はそう簡単なことじゃない」
「どうゆうことだい? 隼人くん」
岬と先輩は、俺の放つ言葉に疑問の目を向けてくる。
「……この設問の答えは正解も不正解もない」
「どういうこと……隼人」
「考えてみてくれ。今までの設問は理論的に正解、不正解があった。しかし、この設問はそれがない。簡単に言うと、まずAの扉に入った場合、この設問の作成者はここから俺たちを出したくないわけだから不正解になる。そうすると出れない。だからといってBの部屋に入った場合、作成者の解答としては正解となり、俺たちはこの閉鎖病棟に留まることを選択したことになり出られなくなる。つまり、この設問に答えはない。どちらを選ぶことができない問題なんだ」
「そんな……どうしたら」
「そうだよ。隼人くん。僕らはこの部屋から出られないってことかい」
『キーン、コーン、カーン、コーン』
アナウンスが、部屋に流れ始める。
『皆さん、どうやら最後の設問にたどり着きましたね。おめでとうございます』
「おい、お前。この扉、どういう事だ」
『この扉が、最終問題になります。サテドウイウフウニカイトウスルカタノシミデス。さあ、どちらの部屋に入るか決めて下さい。ゼツボウニミチタ顔をミセテクダサイネ。アハハハハハハハハハハ』
「おい、フェアに勝負じゃなかったのか?」
『因みに、私はフェアの戦いをシテイマスノデ、アナタタチニモ、チャンスはアリマスヨ。それではコノサキデお待ちシテオリマス。フフフフフフフフフフフ』
「ブツン」
アナウンスは、唐突にまた途切れる。
「これが、フェアだって……」
「……どうする? 隼人」
「小生も、分からないぞ。隼人くん」
「……」
俺は、ここに到着して3つの違和感を感じていた。
しかし、それが俺の間違いであったら皆を危険な目に合わせてしまう。悩んでいると、
「隼人。間違ってないと思うよ……」
心を読まれていたかのように答えてくる。
「小生は分からない。頼むよ。隼人くん」
「……分かった」
俺は、二人の意見を聞き俺は、一つの扉の前に歩み寄る。
「隼人くん、なぜAの部屋に」
「この設問の答えを考えてみたが、やっぱり答えはない。なら自分の意思を貫こうと思う」
「けど、間違えたら出られなくなるって……」
「確かに出られなくなるって書いてあるが、それ以外に書かれていない。Bなら間違いなく俺たちの意思で残ることを決定したことになるから出られなくなるリスクはあがる。なら、リスクを少しでも下げるためならこのAの扉にかけようと思う」
「……分かった。隼人行こう」
「……小生も」
「ありがとう」
俺は、Aの扉のノブに手をかける。
扉を開くと、その部屋は今までの部屋と状況が異なっていた。
部屋の中心部には、ガラステーブルがありその先には扉がある。それまでは一緒だが、奥の扉の近くには、壁から短い鎖が取り付けられた手錠が見える。そして部屋の両端には、剣や槍等が備え付けられていた。
「ねえ、隼人これって……」
「違う部屋じゃないのか、隼人くん」
二人が俺に言葉をかけた時だった。
今いる部屋から、シューっと音がする。
「これって……ガス!!」
「どうする隼人」
「仕方ない。この部屋に入るぞ。皆」
俺たち三人は、今いる部屋から扉を開けた場所に飛び込む。
扉は自動的に閉まり、鍵がかかる。
「やっぱり鍵はかかるよな」
「隼人くん。どうするんだね」
「どうしよう、隼人」
「ガラステーブルに行こう」
俺たち3人は、ガラステーブルに歩み寄る。
ガラステーブルにはこう書かれていた。
『不正解。貴女方はここで一生留まって頂きます』
「隼人……留まるって……私たち……」
「小生は嫌だよ。隼人くん」
「待て。小さく文字が書かれている」
『しかし、これではフェアではないので救済のチャンスを差し上げましょう。誰か一人を扉の前にある手錠に繋いで頂ければ残りの方は前方の扉から出ることが可能です。生死は問いません。お好きな方を犠牲にしてここからヌケダシテクダサイ』
「誰かを犠牲って……」
「こんなの選べっこない……」
俺たちは、言葉を失う。
「……せいじゃないか」
丸眼鏡の佐久間先輩が呟く。
「佐久間先輩……」
岬は、佐久間先輩の呟きに反応する。
「隼人くんのせいじゃないか。君がこっちの部屋を選んだからこうなったのではないかい?」
「……」
俺は、無言で佐久間先輩を見る。
「けど、あの問題。もしも隼人が気づかなければここに入っていた。となりの部屋は正解かも知れないけど、閉じ込められるリスクもあったはず。佐久間先輩だってさっき隼人に任せたじゃないですか」
「じゃあ、岬くんがここに残るのかい?」
「それは……」
「ほら、君だってここからでたいのだろう。そうしたらミスを犯した隼人くんが残るのが正解ではないかい?」
「……」
岬は口をつぐむ。
「……わかった、俺が残るよ……」
俺は、二人に呟く。
「隼人!!」
「ただ、一つだけ教えてくれ……」
俺は、壁に立て掛けられた剣を手に持ち、戻ると一人の前にその剣を突き立てる。
「あんた、誰だ? 佐久間先輩」
俺は、佐久間先輩に問い詰める。
「ちょっと、隼人? どういうこと」
「そうだよ隼人くん。まさか君は、小生に罪を擦り付けようと……」
「いや? まず、最初から気になっていたのは佐久間先輩が元気過ぎるってこと」
「どういう事?」
岬は俺に問いかける。
「ずっと、アナウンスで言っていたろ。絶望の顔とか絶望する姿とか。俺も岬もそうだが、俺たちも同じように何かしらあってこの階にきている。体も限界のはずだ。けど最初に会ったとき、佐久間先輩は特に体に傷もなく、絶望してる様子もなかった」
「それは……、君たちが来たから安心して……」
「それと、さっきのアナウンスも俺は気になっていた」
「アナウンス? けど、いつもの声に聴こえたけど……」
岬は、頭を傾げる。
「アナウンスの声は変わらない。受け応えがおかしいと思った」
「受け応え?」
「今までのアナウンスは、俺たちの問いに関してしっかりと受け応えをしていたが、今回のアナウンスは一方的に話しかけていた」
「それって、何か引っかかる?」
岬は、俺に問いかける。
「あれは、録音を再生していたんだと思う。今までは離れたところだからリアルタイムで話していたが今回はそれが出来なかったんじゃないかな?」
「確かに……そんなアナウンスだったような……」
「しかし、それが小生を疑う理由にはならんぞ。隼人くん」
「佐久間先輩……。俺たちの名前、どう呼んでますか」
「何をいっているんだ? さっきから隼人くん、岬くんと呼んでいるではないか」
その言葉を聞いて、岬は口を抑える。
「佐久間先輩、いつから俺たちを名前で呼ぶようになったんですか? いつも、水野くん、姫野くんって読んでましたよね」
俺は、握った剣の柄を強く握り、剣の切っ先を佐久間先輩の喉に近づける。
「……あはは」
「佐久間先輩……」
岬は、様子のおかしい佐久間先輩に話しかける。
「あはははハハハハハハハハハハ。まさか、ばれてしまうなんて」
部屋中に、佐久間先輩でない誰かの声が響き渡る。
「あんたは、あのアナウンスの女性か?」
俺は、問いかける。
「えぇ。私が、アナウンスの主でこの病院の指定医です」
「そんな……佐久間先輩は……」
岬は、先輩の安否を確認する。
「いますよ。この先に……まだ、生きていますよ」
「まだ……ってどういう事だ」
「貴女方が、ここで手を子招いていたら死ぬでしょうね」
「そんな……」
岬は、顔色を青くする。
「おい、ここから出せ」
「フフフ。書いてある通りですよ。誰かを犠牲にシナイトここからは出られませんよ」
「じゃあ、お前が犠牲になれ」
「いいんですか? 私で。後悔するかも知れませんよ」
「どういう事だ」
俺は、怒りの感情を込めて指定医に問いかける。
「それは、岬さんの今の状況が物語ってますよ」
「岬の状況……。もしかして入れ替わり……」
「その通りです。私は、あの男の体を借りてここにいる。つまり私がここに残れば私はこの場に留まることになり、あの男は一生助からなくなります」
「そんなのって……」
岬は、その場で崩れ落ちる。
「うるさい。そんな事信じるか」
「信じるも、信じないも貴女方の自由です。今なら私をそこの手錠に繋いで出ることが可能ですよ。そうすればお二人が出た後は、この扉は締まり脱出できますよ。さぁどうしますか?」
「どうする……隼人……」
「……」
「さあ、お選びください。誰を犠牲にするのか」
「決まってるだろ……お前を繋いで先に行く」
「隼人、けどそれじゃ先輩は……」
「俺に少し、考えがある。信じてくれないか?」
「……わかった」
「それでは、私を繋ぎますか?」
「あぁ」
俺と岬は、佐久間先輩の姿をした指定医を剣で牽制しながら鎖の場所まで誘導する。
「ガチャ」
指定医は抵抗する事もなく、壁の鎖に取り付けられた手錠に繋がれる。
「ガチャン」
扉から、音が聞こえる。
「扉から音が……」
俺は、扉の前に向かう。ノブに手を回すと扉が開く。
「開いたね!! 隼人」
「あぁ」
扉を開けると、鎖に繋がれた指定医が、
「あはははハハハハハハハハハハ」
大声で笑い始める。
「さぁ、犠牲にして、その扉から二人で出てください。その後は、後悔しか残らないデショウガ。あぁ、貴女の絶望が見れないのが残念です」
「いや、ここから出るのは今は、俺一人だ」
「ナニヲいっているのですか? あなたは……」
「岬。ここで待っていてくれないか?」
「……どうして……隼人」
「さっき指定医が言っていたろ。俺たちが出たらこの扉は閉まる。それって裏を返したら一人で残っていたら閉まらないんじゃないかと思って。今までの扉も俺たちが二人で出たら閉まってたし」
「そんな事はありません。貴方だけ出たら、私と岬さんは出られなくなリマスよ」
「じゃあ、試してみよう」
俺は、ついさっき開いた扉を潜る。
「隼人」
岬が心配そうに眺める。
「心配ないよ」
俺はそう告げるとやはり扉が閉まることはなかった。
「隼人。閉まらない」
「よし。それじゃあ俺は先輩を探してくる。少しの間、指定医と一緒の部屋になるが大丈夫か」
「わかった。気を付けてね……隼人」
「あぁ」
「ククククク」
指定医は、手錠をかけながら笑いだす。
「何が可笑しい」
俺は、指定医に問いかける。
「いえいえ。ここまでは私の思う通りになっているので」
「どういう意味だ」
「アナタタチのゼツボウの顔が目に浮かぶのでタノシミデス」
「負け惜しみか。言ってろ」
「ククククク。タノシミデス」
「岬。行ってくる。何か指定医に不振な行動があったら大声で叫んでくれ」
「分かった」
俺は、岬を残して扉からのびる通路を走り出した。




