プロローグ
整備されていない土道を歩いている。
雨が前日に降ったせいか、足が泥に絡み付き滑り歩きづらい。
季節は夏。蒸し暑さがその場を支配していた。
そこを歩くのは男子学生と女子学生の二人。
俺は、水野隼人。
ごくそこら辺にいる男子高校生だ。
特徴もなければ、特技もない。
何かあるとすれば少しばかり変わった趣味があるぐらいだ。 そんな土道を、俺ともう1人の女子学生が夜に懐中電灯を持って歩いていた。
「ねえ、行くの辞めようよ。隼人」
幼なじみの、姫野岬が俺の腕をつかむ。
髪は肩まで伸ばしており、化粧っ気などない綺麗な顔立ちと肌はどの男子生徒から見ても心を奪われるだろう。
「だったら、来なきゃよかったのに」
俺は、懐中電灯を岬に向ける。
「だって、オカルト研究部の企画でしょ。私も部員だし、行かないと変でしょ」
「別に、強制じゃないし。それに今回の場所は今までの場所より……」
岬に言いかけて、俺は言葉を止めた。
そう、すこしばかりの変わった趣味とは、俺はお化けや呪い、はたまた噂話が大好きである。
俺と岬は同じ学校に通っていて、俺はすぐにこの部活にはいった。岬は俺にくっついて同じ部活動に入部している。
『オカルト研究部』
この部活は、地域の様々なオカルトを調べる部活動である。
今までに行った場所を話すと、
『呻き声のする、トンネル』
『事故車者多発の山道のカーブ』
『泣き声のする空家』
など、多くの場所を調査していた。
それを、俺たちはまとめて新聞にし学校の掲示板に張りだし報告していた。そして、今回向かっていた場所は、
『神隠しの、廃病院』
森の中に、ポツンとあるその病院は、10年前に廃病院となりその後、購入先も見つからずそのままの状態になっていた。
そして、この街でこんな話が噂になった。
『この廃病院に夜に行くと帰ってこられなくなる』
それを、知った部長が、
「皆、今日の夜、ここに行くから。準備して廃病院の立ち入り禁止の看板前に現地に集合」
と一言残して部室を去っていったのだ。
その集合時間にあわせて俺たちは目的地に向かっていた。
「やっぱり、岬は辞めといたら。俺もあんまり気が乗ってないし、何かあったら……」
「まさか、隼人。私にここから帰れって言うの。1人じゃこんな暗い道帰れないよ」
「はぁ、わかったよ。じゃあこのまま袖掴んでいていいからはぐれるなよ」
「うっ、うん……」
俺たちは、目的地に向かって歩き出す。
そのまま道なりに歩いていると、2つの灯りが左右に振られているのがわかる。俺たちは振られた光に向かって歩みを早める。
光の元に到着すると、見覚えのある顔の男女が待ちくたびれた顔でその場に佇んでいた。
1人の男子は佐久間啓太先輩。大きな眼鏡が特徴的ないかにもオカルト大好きですと言うばかりの風貌だ。オカルト研究部の部長である。
そして、隣にいる女子は須賀美里先輩。岬と同じく髪が長く、特徴的な胸が女性の色気をぷんぷんと匂わせていた。
須賀先輩はUMAとかUFOだとか科学で解明出来ないものを好んでいた。
「遅いよ。水野くん」
丸眼鏡の佐久間先輩が俺たちに向かって叱責する。
「少し……待ってただけじゃないですか。佐久間さん……」
「すいません。佐久間先輩、須賀先輩。岬がへばりついて遅くなりました」
「わっ、私のせいなの? 隼人」
そんな言い合いをしていると、佐久間部長が、
「それはそうと、諸君。よく集まってくれた。今日は話をしている通り、廃病院の調査と神隠しについて調べようと思う」
「神隠しにって実際にあったんですか?」
岬が佐久間先輩に訪ねる。
「実は、ニュースにはなっていないがつい二週間前にテレビの撮影で入った取材班3人が行方知れずになったらしい」
部長がニヤニヤと笑いながら話す。
「!! それってまずいんじゃ。警察は勿論調べたんですよね」
「調べたが、病院内には痕跡があったらしいんだが忽然とある場所で痕跡が無くなっているらしい」
「無くなっているって……。どこで……」
須賀先輩が部長に訪ねる。
「閉鎖病棟付近らしい」
やはり、佐久間先輩は楽しそうに話をしている。
「閉鎖病棟……」
この廃病院は、内科、外科などを設けていたが、その他にも精神疾患を患った患者を収用していた病院である。
かなりの精神重篤患者を収用していたせいか、通常の病室から隔離されていたと聞いている。
「ちょっと、本当にまずいですよ。先輩。やっぱり辞めませんか」
岬は、その話を聞いて佐久間先輩を止めにはいる。
「勿論、辞めるのも自由だが、いいのかい。このまま姫野くんは帰れるかい」
岬は後ろを振り返る。暗い森の中を帰る勇気は無さそうだ。
「それでは諸君。今からこの立ち入り禁止のロープを越えて出発だ」
佐久間先輩は、先陣を切ってサクサクと廃病院に向けて歩き出す。
「じゃあ……私も」
須賀先輩も佐久間先輩に続いてロープを越えて歩き出す。
「もう、引き返せないぞ。行くぞ。岬」
「分かったよ……隼人」
俺たち二人も立ち入り禁止の札の張られたロープを越えて佐久間先輩たちを追った。
10分ぐらい歩くと、俺たちは廃病院の入り口でその場な止まった。
入り口はまるで西洋風の門がしっかりと閉まっており行く手を阻んでいた。
「部長。門がしっかり閉まっていて入れそうにないのですが……」
俺は、佐久間先輩に話しかける。
「そうですね。閉まっているなら入れないですよね」
岬は帰りたい一心で同じく佐久間先輩に話しかける。
「ふふふ、諸君。私がそんな準備ができていないとでも。こっちだ」
佐久間先輩は門とは違う方向に歩き出した。
「?」
須賀先輩も疑問を浮かべながら、壁沿いに歩き出す佐久間先輩を追いかける。
「ここだ」
佐久間先輩は、壁に1人分が余裕で通り抜けられそうな穴を指差す。
「ここから入るんですか」
岬は佐久間先輩に訪ねる。
「入らなくてどうすんだ。姫野くん。調べられないだろ」
「うぅ……」
入ることが決まったことに、岬は頭を項垂れる。
「それでは諸君。行こうではないか」
佐久間先輩はそのまま穴を通り抜ける。
その後に続いて須賀先輩、俺と岬が続いて壁の穴を潜った。
少し歩くと、廃病院の全貌が明らかになった。
廃病院は、四階建てで一階の硝子は叩き割れ、建物の外壁には緑の蔦が壁の色を緑に侵食していた。
「ここから入るよ。諸君」
佐久間先輩が指し示す方向を見る。自動ドアの入り口だった。
今は、叩き割れて誰でも入れるようになっているようだ。
俺は、壁に張られた看板に目をやる。
「 貝病院」
どうやら、ここの看板のようだが、文字が崩れて文字が読めない。
「じゃあ、入るぞ。諸君」
やはり、佐久間先輩が先陣を切って中に入っていく。
俺たちも続いて中に入ると、そこは広いロビーだったのだろう。
腐った椅子がその場で朽ち果てている。
佐久間先輩は正面にある受付付近に張られた病院の配置図を確認する。
この病院はO字の構造になっている。病院の内側はテラスのようになっており、その中心に四角い建物がある構造だ。
どうやら病院の内側にある建物は四階からしか行くことができないらしい。多分ここが閉鎖病棟だろう。
「よし、それじゃあ諸君。四階に向かおう」
それを見て気づいた佐久間先輩は率先して歩き出す。
その後、俺たちは二階、三階と登り、ついに四階に到着する。
「はぁ、はぁ、諸君ついてきているか」
「はい……佐久間さん……」
「いますよ。佐久間先輩」
「……」
俺と須賀先輩は返事をしたが岬は恐怖のせいか震えながら声を出せていない。
「大丈夫だよ……岬さん。私が一緒にいるから」
「うん……ありがとう須賀先輩」
そうして俺たちは、四階の閉鎖病棟に通じる通路に着くと、
「ぜぇ、ぜぇ、水野くんこの先は君に譲る。見てきてくれ」
どうやら階段登りが疲れたらしく俺に先導してほしいようだ。
「かわりました。佐久間先輩」
俺は、先頭を歩こうとするが、
「ぎゅっ」
服の裾を握りしめてくる岬がいた。
「歩けないんだけど……」
「……」
岬は返事をしない。
「はぁ、分かったよ。ゆっくりいこう」
俺は、岬に歩みを抑えられながら、閉鎖病棟の扉に到着する。
扉はこう書かれていた。
『関係者以外立ち入り禁止』
鎖が巻かれ、南京錠もつけられて入れそうがない。
「ここからは入れないな。別の方法を……」
と思っていた矢先だった、
「ドサッ」
誰かが倒れる音が背中から聞こえる。
音のした方向へ俺は振り返ると、佐久間先輩と須賀先輩が倒れている。
「先輩達。大丈夫ですか?」
俺は、先輩たちを揺さぶる。どうやら気絶している。
「いっ……、いやぁぁぁぁ」
岬は叫びだし、下へおりる階段へと走り出す。
「岬!!」
俺は、先輩達をそのままにして岬を追いかける。
「おい、1人で動くな。岬」
「いやぁぁぁぁ、これは呪いよ。私帰る」
俺は、岬の腕をつかむ。
「離してよ。隼人。私帰る」
「落ち着け。一先ず先輩たちを連れて帰らないと」
「いや、帰る」
岬は泣き叫び、動きを止めない。
「岬。俺が絶対に一緒にいるから落ち着け」
「グスン……。隼人……」
「ここで別れるのは得策じゃない。一先ず先輩たちの所へ行って俺たちがここから連れだそう。できるな岬」
「うん……」
岬は少し落ち着きを取り戻す。
「よし、じゃあ今から先輩たちの所へ……」
そう伝えようとした時だった。
「ドスッ」
俺の首に強い衝撃が響く。
「がぁ……」
俺は、その場に倒れ込む。
「隼人!!」
俺は、意識が朦朧としながら、
「岬……逃げろ……」
そう言葉を残すが、岬は驚きの状況を顔に出し震えていた。
「何……で……」
そう言葉を残すと、
「ドス」
鈍い音がして岬は倒れる。
そして、俺は岬が倒れたのを確認しその場で意識を失った。