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詳しい説明、でしたよね?

 うん? え? ツンデレパンデミック? 何それ? みんなツンデレ病にでもかかってるって?

 突然出てきた変な言葉に、頭が回らなくなる。

 すると何を思ったのか、ミスXちゃん(?)は胸を張り直し、


「ずばり! 今、あなたを中心に『ツンデレパンデミック』が起こっているのです!」

「それもう聞いたから! 二回目だから!」


 なんの反応もできなかったし、何かリアクションでも欲しかったのかな。

 でも、いきなりそんな造語を聞かされてもどう反応しろっていうんだ……。


「……? ずばり! 今、あなたを中心に『ツンデレパンデミ──」

「だから聞いたって言ってんだろ!!」


 思わず口調が荒くなる。

 いやいや、落ち着け落ち着け。相手は子供じゃないか。大人気ないぞ、僕。

 とはいえ、このままじゃ僕が何か反応を見せるまで続ける気だろうし……。


「えっと、詳しく教えてもらってもいいかな?」

「ええ、構いませんよ」


 近くにあった椅子に腰を下ろし、落ち着いて彼女から話を聞くことにした。


「えーっと、ツンデレパンデミック……だっけ? それって結局なんなの? パンデミックってことは、ツンデレウイルスとかが発生してる? 相当ヤバいやつなの?」

「ああ、それですか? 別にそんな危険なものではありませんよ? わたしが適当に名付けただけですし」

「え? 適当なの?」

「はい、そうですよ? あ、もしかしてこの名前が重要そうだなとか思っちゃいました? そこに解決のヒントがあるはず、とか思っちゃいました〜?」


 途端に、意地の悪い声を上げるミスXちゃん。仮面の奥でニヤニヤしているのが目に浮かぶようだ! はっ倒すぞ。

 すると、彼女は僕が顔に青筋を立てているのに気がついたようで、


「こ、こほん。それはさておき、詳しい説明、でしたね?」


 あ、ごまかしたな!


「ツンデレパンデミック、と言っても正確には『対象への好意を爆上げする代わりに、素直になれなくなる症状が広範囲にわたって起こっている』ってあたりでしょうか」

「えっと……つまり?」

「ツンデレが大量発生した、ってことです」


 なるほど、わかりやすい。

 でも、なんでいきなりこんなことになったんだろう? そもそもみんなを前の状態に治せるのかな?

 なんて頭をひねっていると、ミスXちゃんは僕の考えを見透かしたように、満面の笑みで言った。


「まあまあ、安心してくださいよ、春人さん! そのためにこの学校にわたしがいるんですから!」


 胸を張って自慢げに言うのはいいんだけど……うさんくせー……。


「ミスXちゃん、本当に任せて大丈夫なの? もしよかったら僕も協力──」

「いやいや、治し方は企業秘密なので教えることはできないのですよ! なので、とても残念ですが私一人に任せてください!」


 一体なんの企業なのか。

 そんなツッコミはさておき、この子絶対残念に思ってない。妙に声が弾んでるし。

 悪い子ではないんだろうけど、どうにも信用しきれない。

 けど、今のこの状況、彼女の方がよく知ってるのは確実だろう。任せるしかない……のかな。


「だいじょーぶです! 時間さえあれば、わたしが治してみせますから!」


 それじゃあ任せようかな。そう言いかけて、思い出した。


「時間があれば、ってどのくらいかかりそうなのかわかる?」

「へ? そうですね……おそらく一週間くら──」

「うちの学校、近いうちに運動会あるんだ。だから、最悪そこに被るかなって……」

「ほほう? それはそれは」


 保護者は呼ばないからまだマシとはいえ、そこまでに治せなかったらと思うと……正直ゾッとする。もしミスXちゃんが本当にうちの生徒だったら、彼女も困るだろうし。

 できればそれより早く治してほしいなあ、という意思を込めて彼女に視線を向ける。

 すると、彼女は大きく頷き、非常に軽い声音で、


「いやあ、ひっじょーに残念ですけど、少なくとも一ヶ月はかかりそうですね〜。なので、ひっじょーに不本意ですが、運動会はこのまま挑戦するしかないかもですね〜」


 いや、あの。声が残念そうに聞こえないんだけど。


「あ、あの。本当にそんなにかかるの? 言い方がやけに嘘くさ──」

「ほんとほんと! 大マジですよ! いやあ、この状態で運動会やるとかほんと、嫌になっちゃいますよね! もうなんでだってくらいですよ! おおっと、そういえばもうこんな時間になってしまいました! わたし、まだやることがあるので、春人さんまた今度お話ししましょう!」


 そうして、ミスXちゃんは口早に呟いたかと思うと、何かを誤魔化すように僕を席から立たせて、


「え? あの、ちょっと!」

「では春人さん。ごきげんよう!」


 抵抗させる暇すら与えられず、僕は無理やり化学室から追い出された。


「ちょっと、ミスXちゃん? まだ聞きたいことあるんだけど!」


 扉を叩き、開こうと試みるも、すでに鍵がかけられたようでびくともしない。

 何言っても反応ないや。参ったなあ……。


「仕方ない、また明日尋ねてみるか」


 そうして、教室に戻ろうと歩き出したところで、


 ──ピンポンパンポーン


 ん? もう五時間目始まるのか……あ!


「お昼ご飯忘れてたああああ!」


 お昼ご飯を食べられないまま、五時間目の授業を受けるハメになったのだった。

 僕の昼休みを返せええぇぇぇ!

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