聖女と魔女
聖女は無から有を生み出し、
魔女は有を無に還す。
聖女は全てを等しく愛し、
魔女は誰も愛さない。
――聖女は全てを愛さなければならず、
――魔女は誰も愛せない。
***
かつて、神の子の涙がこの世界に降り注いだときよりも古くから、この世界には聖女と魔女が存在した。
聖女と魔女。
祈るものと呪うもの。
奇跡を起こすものと災厄を起こすもの。
生み出すものと無に帰すもの。
ある聖女は疫病の蔓延した国をその祈りのみで救済し、
ある魔女は逆鱗に触れた国をその呪いのみで傾けた。
ある聖女は今にも滅びそうだった小国をその祈りのみで勝利に導き、
ある魔女は栄華を誇った大国をその呪いのみで気紛れに滅ぼした。
他にも、ある聖女の祈りによって大国の王子の不治の病が治っただとか、黒の森には致死の魔女の呪いが未だに残されているだとか、そういった聖女と魔女に纏わる話題は、大陸中探せばいくらでも出てくるだろう。
そして現在、聖女を纏う神聖なヴェールがいくらか取り払われ、魔女に付き纏った負のイメージがいくらか拭われ、火器が普及して戦争の常識が一変しつつある今では、聖女と魔女は戦争の勝敗を分ける大きな要因として国によって庇護され育成され、戦場に投入されている。
その国の聖女と魔女の出来不出来は、戦争の勝敗を分けるものでもあるのだ。
聖女は味方の陣営全てを癒し、鼓舞するために。
魔女は敵の陣営全てを呪い、その魂を刈り取るために。
それでも実は、どちらも正反対でいて結局は似たようなものなのだ、と魔女見習いのミーシャは常々思っていたし、この合理化の進んだ時代、著名な研究者にもそう公言する人は多い。
国に属する聖女と魔女は、どちらも大きな力を持ち、公に力を振るうことが許され、その代償として国に縛られている。
そして、昔はどうだったか知らないが、今では聖女も魔女も高給取りの役人と待遇は変わらず、結婚だって子どもを作ることだって一般的だ。
この養成機関だって、お見合いの場として機能している側面すらある。
そもそもそうでなければ、聖女と魔女の養成機関が一緒なんて馬鹿げたことがあるはずもない。
「結局、見え方次第ね」
ミーシャの親友の聖女見習いだって、そう言って笑ったのだった。
だから、どちらも似たようなものなのだ、とついさっき前までならそう言えたのだが。
――それでもやはり、こうして真正面から向かい合ってみれば、それは根本から違う生き物なのだった。