第三話 立て、並川譲!悪を許さぬその心、正義の炎!!
「ううっ、ぐすっ、ひっぐうぇえぇぇぇぇ!!」
冒頭から汚い泣き顔をさらす譲。みじめである。
「僕の、僕の心の支え……」
かつてのかおるさんの写真を舐めさすりながら泣きじゃくる姿は決してこれから世界を救うであろう若者の姿ではない。正直気持ち悪い。
「並川さん、こんな所で何をしているんですか!?」
学校のトイレである。
「か、かおるさん……僕はただ悲しみを癒したくて……」
「しっかりしてください!それは私なんですよ?」
「し、信じたくない!」
信じてしまうときれいな声のおじさんを舐めているような錯覚に陥り彼は吐いてしまうだろう。絵面的にもひどい事になるのでそのまま信じないでいてくれ譲!
「信じても信じなくてもいいので授業には出てください。ただでさえ貴方は日常の行動に問題が多すぎて志望校への進学すらこの時点で危ういというのに……」
彼の志望校にはアニメ研究会がある。ただそれだけである。ちなみに偏差値はそれほど高いわけではなく、日々しっかりと勉学に励んだ者ならすんなりと合格が出来る程度である。しかしこの男、二年生になったばかりで進学が危ういとは相当である。
「はい、ごめんなさい……」
かおるさんに連れられて静かにトイレを去り教室へと向かう譲の背中には哀しみが満ち溢れていた。
――救星機神 鉄神王――
第三話 立て、並川譲!悪を許さぬその心、正義の炎!!
時は移ろい午後の授業も終わり各々が帰る準備を始める頃。
「ふわぁあ、今日も疲れた。ねえ、成田、羽田、今日は帰りに買い食いしたいからついて来ておごって。」
「いいよ、ありがとう羽田君。」
「なんだよー。まったくしょうがねぇなー。」
いつもの三人組がいつものやり取りをしている。そして当然そこに
「ま、待ってよ。今日はいつものゲーセンにオナラーズのプライズが入ったかを確認しに行く予定が……」
譲の譲による譲の為だけの予定が開示される。当然そんな予定はないし誰も行く気はない。そもそもそんなもののプライズがゲーセンに入る予定すらない。何の根拠もなく否定しているわけではない。ここ数ヶ月、彼はゲーセンに行くたびに店員に絡みオナラーズの布教を試みているのだ。もちろんそんなことをしても嫌われる一方であるし、そもそもあそこの店員はそのアニメ嫌いなんだよ気付いて譲。
「それよりアンタ、あの変な棒人間のパイロットなんでしょう?かおるさんはアンタを特訓するって張り切ってたのに行かないつもり?」
「え、いや、うん、いくよ……」
あからさまに目を逸らしてとてつもなく嫌そうな顔をしている。
「うわあ、並川君ってそんな顔もできるんだね」
「なんだよお前巨大ロボに乗るの憧れてたじゃんよー」
「いや、僕が乗りたかったのはオナラー1だったというかなんというか……」
正直行きたくない。そうはっきり言いきれない彼のもとに忍び寄る一つの影が!まあ、かおるさんである。
「並川さん、ここにいたんですね。さあ、行きますよ。」
かおるさんの小脇に抱えられ力なく「はい」と答える譲。三人に見送られながら秘密の基地に連行されるかと思ったその時!
「な、何だあれは!?」
前回と同じように窓から空を見上げ『青春』もしくは『黄昏』という行為に勤しんでいた前回と同じ男子生徒が突然前回と同じように叫んだ。それにつられるように前回と同じように窓辺に生徒が殺到し、誰もが前回と同じように空を指さし同時に叫んだ!
「な、何だあれは!?」
それは前回と全く同じ叫びであった!唯一の違いは空に現れた戦闘機の中に漆黒の騎士のような機体が一機紛れ込んでいることだろう。間違いない、あれがライバル機だ!そうなる!私は信じている!
「もう、来てしまったのですか……。急ぎますよ並川さん!」
垂れ下がる譲に声をかけながら走り出そうとするかおるさん。しかしその時、上空の機体から宣戦が布告された!
「先日の反撃、見事であった!だが、あれは様子見にすぎない。我々惑星メティエの民はこの星を新たな居住地にすると決定した。抗うことは無意味だ。降伏しないのならば地上全てが焼け野原になり全ての命が息絶えることになると思え!」
自らの星の民以外の命は全ていらない、星さえ手に入ればいい。それでも生きていける根拠があるのだろう。なんと恐ろしい宣戦布告!しかし、海は干上がらないようなので海の生き物には安心していただけるだろう。
「そして、先日見かけた気持ちの悪い物体!」
気持ちの悪い物体呼ばわりに譲の身体がピクリと反応し、さめざめと泣き始める。かわいそうな譲。
「あの物体は元々我らの開発した万能球体!さらにはそれを持って逃げだしたオルカ姫、草の根分けても捜し出し連れ帰らせてもらう!」
「それだあああああああっ!」
突然、譲が叫び走り出した!
「かおるさん、僕は勝てます!勝てますよ!」
いきなりやる気に満ち溢れる譲、ついに精神が壊れてしまったのか!?
「え、あ、はい、それは良いんですが秘密基地はこっちですよ!」
「し、知ってますし……!」
赤面しながらトボトボと歩いて戻ってくる譲。流れるように再びかおるさんの小脇に抱えられるとゆらゆらと揺れながら秘密基地へと運ばれていった。
「二人とも頑張ってねー。」
「応援してるぜー。」
「まあ、頑張りなさいね。」
三人の声援に送られながら譲は行く。何故か不敵な笑みを浮かべながら。
「さ、着きましたよ!」
「わかりました行ってきます!救星オォォォォォォンッッッ!!!!妄想が今、僕の力になる!唸れ!鉄ッ!神ッ!王ォォォッ!」
MGユナイトはやめてそれらしい掛け声でいくことにしたようだ。きっとこれで彼の求めた救星機神の姿へと
「あぁぁぁぁぁぁぁなんでえぇぇぇぇぇぇぇっ!」
ならなかった。残念である。
「もう!帰ってきたら絶対特訓ですからね!」
「はい!とりあえずこれで行きます!」
やはり棒人間のままだったが行くしかない!しいて言えば若干角ばってきてるぞ!
がんばれ譲!
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
雄叫びをあげながら気持ちの悪い物体、失礼、救星機神・鉄神王(仮)を駆り譲が空へと飛び出す!その勢いのまま敵のライバル機(仮定)へと掴みかかった。
「来たか!よくも我らの星の希望をそんな気持ちの悪い物へと変貌させてくれたな!我が名はルイヴァル・グロッソ、メティエ軍第一小隊の隊長である!貴様の名、聞いておかねば気がすまん、名乗れ!」
「僕の名は並川譲!僕の話を聞いてください!」
対話による和平を求めるというのか譲よ!なんという清らかな心!
「あなたの捜しているオルカ姫は武田かおるというおじさんになってしまったんです!」
沈黙。誰もが訳が分からなくて口をポカンと開けていた。いきなり何を言っているのだ?やはり譲の精神は壊れてしまったのだろうか?……そう、かおるさん=オルカさんだと知っているのは二人だけなのだ!突然その事実を告げても誰も信じるはずがないのだッ!
「……は?貴様は一体何を言っているのだ?馬鹿にしているのか!?どこのおじさんだそいつは!?」
当然怒る。ごめんね変なのがパイロットで。
「う、ウソだ!僕の考えた最強の精神的揺さぶりがきかないなんて……ありえない!」
つまり、彼はオルカ姫を捜しているというワードだけでおじさんになったと言えば敵が動揺し隙をついて勝てると思って走り出していたのだ!愚かである、知ってたけど。
「久しぶりですね、ルイヴァル。私です。」
突然通信に割り込みかおるさんの顔がどアップになる。すごい迫力ある!
「そ、その声は!?まさしくオルカ様!何故、何故そのようなお姿に!?」
目に見えてうろたえる敵。ここにきて女性の様だと思っていたかおるさんの声が、完全に女性のものであることが判明してしまった!かおるさん、何故あなたは声を変えてしまわなかったんだ!?
「やった!きいた!ぬおぉぉぉぉぉぉ!!!!」
かおるさんが顔を出さなければ確実に攻撃を受けていたであろう譲が自分の手柄だと勘違いして喜び勇みながら敵を殴りつける。
「うおぉっ!卑怯な!ふんっ!」
不意を打たれたが敵も負けじと反撃開始!激しく金属がぶつかり合う音が一体に響き渡る激しい肉弾戦!がんばれ譲!負けるな救星機神・鉄神王!!
「な、何故だ!?何故ここまで戦える!?私は幼い頃からこの機体を扱えるように厳しい訓練を積んできたというのに!何故貴様は私と同等に戦えるのだ!?」
「僕は誓ったんだ!この星を守ると!」
「並川さん!」
かおるさんは喜んだ。彼に固い決意が生まれていたことを!
「昔のかおるさんに!誓ったんだ!」
「な、並川さん?」
かおるさんは戸惑った。何か妙なことを口走りそうな様子に!
「ほら、見てよ!昔のかおるさん、すなわちあなたの捜しているというオルカ姫の写真ですよ!かおるさんからもらったんだ!僕の家宝ですよもう、おほっ!かわいい!めっちゃかわいい!もう誰にも渡さないからね!君もこの星もあの星も守ってあげるからね!」
「並川さん……うぅっ……」
かおるさんはむせび泣いた。あまりにも譲が気持ち悪かったから!
「き、気持ち悪い。なんなのだ貴様は!」
敵もドン引き、大したもんだ譲!
「並川さん、後でその写真返してください……」
「それだけはやめろおおおおおおおっ!!!!もうこれ以上僕から心の支えを奪っていくなあああああああああっ!!!!!」
響き渡る絶叫。ちなみに鉄神王の中の声はしっかり外まで聞こえる素晴らしい仕様になっております。
「くっ、こいつは一体……駄目だ、どうすればいいのか分からん……」
諦めるな敵!たぶん思いっきりぶん殴れば君は勝てる!やってしまえ!ためらうな!ひと思いに!
しかし、彼が戸惑っている間に天空から謎の声が響いた!
「何をしているのですか、私の羽蟻。」
そして空一面に映し出されるオルカ姫と瓜二つの女性の顔、彼女は一体!?
「ええっ!?昔のかおるさんそっくり!かわいい!なんで!?」
荒ぶる譲。落ち着くんだ譲!このタイミングで出て来るということは敵に違いないぞ!
「たかが小バエ一匹に何を手こずっているのですか。」
「姉さん!?」
「何ですかあなたは?大きいですね、ゴキブリと呼んであげましょう。何者ですか?いえ、その声愚妹の声にそっくり、あなたオルカなのね。そうに違いないわ。」
敵サイドが声だけで察しすぎて恐ろしいが、話が早くて助かる!このまま色々察して帰ってほしい。
「まさか逃げた先でゴキブリになっているなんて思わなかったけど、まあいいわ。あなたが居るということは一筋縄ではいかないということ。地上のウジ虫たちよ聞きなさい、この星はいずれ私が支配してあげます。せいぜい足掻くといいでしょう。羽蟻、帰還しなさい。その小バエを動かしている頭のおかしいウジ虫はあなたには荷が重い。」
「はっ!帰還致しますメルク様!……ナミカワジョーと言ったな?そのテッシンオーとやら、いずれは我々に返してもらう!覚悟しておけ!」
やった!帰って行った!譲、君の異様さが世界を一旦救ったのだ!
「ぇええ、他人を虫呼ばわりとか駄目でしょう……ないわぁ……」
さっきまでかわいいとか言ってた奴が掌を返す瞬間である。
「並川さん、敵は撤退しました。貴方も帰還してください。あと、写真返してください。」
「イヤだっ!僕は返さないぞ!帰って一緒にDVD鑑賞するんだ!それからペロるんだ!」
頑なに返さないとごねる気持ち悪い譲だったが、それでも時は過ぎ夜になってお腹が空いてきたので渋々帰還するのであった。
次回予告!
深夜、響き渡る悲鳴。
「ち、違うんだ!これは!!」
嘆きの声は昼間に響き。
「貴方を信じていたのに……」
そして夕方、絶望が彼を包む!
「僕じゃ……ないのに……」
その先に彼は何を見るのか!?
「正直いいと思う。好みのタイプだなぁ。」
次回、救星機神・鉄神王
第四話 僕じゃない!懐疑の瞳、絶望の中の特訓!!
「僕のご主人様になってほしい。いつかそう伝えたいなあ。」
救星の使命に、熱血の爆風が迸るッ!