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ユースフル!  作者: サツマイモ
第一章
9/38

百菜’s 005 「だから私は、この能力を存分に発揮できるようになりたい」

翌朝。


無駄な気遣いと、無意味な気まずさの中で、私達はこの宿舎を出る準備をしました。


「忘れ物、ありませんか?」

修の確認に、「そもそも忘れるほどの荷物を持ってきていないわ」と答えます。


「そうですか」

修は、優しくドアを開け、「さあ、どうぞ」と外に出ることを促します。そういったところが、彼が王宮の護衛たる所以でしょう。


これは、彼の独断で―元からの考え方で、王宮では一切教わっていないものの類でした。


「わざわざどうも」

「いえ、レディーファーストですから」


悪戯っ子のような笑顔を浮かべる彼に、私は少し噴き出してしまいました。


「レディーファーストの意味、間違っているわ」


ドアを優しく閉める彼に、私はそっと釘をさします。


「わざとですよ」


彼は、恥ずかしそうに弁明します。

そういうことにしておきましょうか。これ以上の弁論は、野暮ですし。


「まあ、この村ならそんなことを気にする必要なんて、ないと思うけれどね」


少し暗い空。私は、それを眺めて言います。


「ねえ、修」

「なんでしょうか、お嬢様」

「今頃、彼らは何をしているのでしょうね」

「さあ。探しに回っているんじゃないですか? ちーさんがめちゃくちゃな脱出をかましましたから」


「そんなにめちゃくちゃでしたっけ?」


「とぼけないでくださいよ。あんなの、全てついた状態の電気のブレーカーを落とすみたいなもんじゃないですか」

「修の例えって、時折わからないわ」

「さいですか」


気づけば、本拠地まで歩き終わっていました。


瓦屋根に、煉瓦造り。パンの中に米が詰まっているような、不思議な建物です。


森の中にポツンと建てられたこの本拠地は、外から見つけ出すことはほとんど不可能でした。実際、私達がここに来れたのは、なるべく誰も見つけられないような場所を選んでいたからなので、そうすると、間違いではないと思います。


擬態は、完璧なのです。


扉を開けると、全員が集まっていました。

一乃さんは、電子機器を前にコーヒーを飲みながら。

十音さんは、机に盛られた煎餅を食べながら。

リーダーは、十音さんと共に机を囲みながら。

そして、百菜さんは、ベッドの上に。

それぞれ、座っていました。


「おつかれー」


リーダーの声にかぶせるように、皆さんがそろって挨拶してくれたので、私達も軽く返答をします。


「お疲れ様です。何をしているのですか?」


私の質問に、十音さんは簡単に答えます。修は、荷物の片づけをすると言って、2階へ上がっていきました。

「いまね、一乃の検索待ち」

「検索って、何をですか?」

腰を下ろしながら、私は再び尋ねます。


十音さんは、せんべいをくれました。

ありがとうと感謝を述べた瞬間、私は初めて一乃さんの声を聴きました。


「検索とは、つまり昨日(さくじつ)の事件の首謀者についての検索です。2mの大男たちといえば、ある程度察しはつきます。この国には、なかなか2m近い人を見かけませんから。そして、考えていた通り―予想通り、彼らは多国籍によって構成された、いわば賊でした。今から、彼らの本拠地を特定する作業に移ります。彼らは普通、同じ服を着ているわけではないので、服装からの特定は困難を極めますが、その体格があればある程度特定することができます。たとえば、世界中の温度認知映像録画機―海外では、サーモグラフィ映像といいますが―とこのコンピュータを繋げば、2m近い男たちの動きが一目でわかります。それを、一度地図にしてまとめたのが、こち」

「ちょ、ちょっと待ってください!」


きっと、1分間で500字は話していると思います。

それくらいの速いスピードで話されても、私には到底理解できませんでした。


「すみません、もう少しゆっくり言っていただけますか?」

「こちらこそ申し訳ない。たまにしか、人と話さないので、つい」


深々と謝罪されてしまうと、こちらも申し訳なくなってしまいます。


「では、この地図を見てください」


指差す地図を見ると、そこには黒から青、緑、赤、黄、そして白色の分類がなされていました。それが、流動しています。


「これは、いったい?」

「先ほど申し上げた、温度認知映像録画機を現実と同時に映し出しているものになります」


下の方を見ると、そこには身長別に枠が書かれていました。


『All』

『120㎝未満』

『140㎝未満』

『160㎝未満』

『180㎝未満』

『180㎝以上』

計6つです。


「すみません、この下にあるのは何ですか?」


「さすが、お目が高い。これは、私が独自に開発したものです。映像から、身長をこのコンピュータに判断させ、それを分類することで、分かりやすくするという目論見なわけです。たとえば、120㎝未満とすれば、小さな子供だけが映し出されますし」


その枠を画面内の矢印で押す(クリックって言うんでしたっけ?)と、その地図は途端に閑散とし、反対に密集していることが手に取るようにわかります。


「あそこは、確か保育園だよね」


リーダーは、ここぞとばかりに入ってきました。


「はい。まあ、身長というのはあくまで基準なだけですし。しかし、20㎝くらいで分ければ、そうとう人探しに有効なのです」

「なるほど」


ひとまず、私には使えないなと確信したところで、私は話を促します。


「すみません、先ほどの話の続きを良いですか?」

「承知いたしました。ええと、この2m以上というボタンを押すと、だいぶ限られます。これを、アリの動きのようにデータを取りながら見ていくという作業をしています」


「……すごいですね」

「いえいえ。これくらいしかできませんから」


これくらいというのが、恐ろしいほどすごいことだった時、私はなんて言えばいいのでしょうか。


「まあ、もう少しデータが欲しいところでしたけど、大体絞り込めましたよ」

「本当ですか!」


疲れたのか、まさか徹夜したのか、定かではありませんけれど、リーダーと十音さんは寝てしまいました。


「ええと、王宮前の酒屋と、あとこの辺ですね。北に2kmくらい言ったところの食堂です」

「……どっちなんでしょうね」


決めあぐねる状況に、彼女は追い打ちをかけます。


「どちらもという可能性もありますね。とりあえず、この二人が起きるまで、」


「私は、どうすればいいですか?」

途端、声がしました。


「百菜さん?」

「私は、どうすればいいでしょうか」

「どうすればって、言われても。私は特に何も言えないし。とりあえず、彼らが起きるまで待ちましょう」

一乃さんは、力む百菜さんをなだめます。


「それにしても、急にどうしたのですか?」

彼女は、下を向きながら、しかし決心を固めたような表情で私達を見つめ、言いました。


「……夢を見たんです」

「夢、ですか?」

「私が能力を使わなかったせいで、皆さんが死んでしまう夢を。私は、もう弱虫じゃないって、切り替えないとだめだって、思ったんです。皆さんが私を助けてくれたように、こんどは私が皆さんを助けられるようになりたいって」


並べられた言葉の節々から、彼女の不安と決意と意志と恐怖を、感じます。


「だから私は、この能力を存分に発揮できるようになりたい」


お願いします。


彼女は、最後にそう呟きました。


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