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ユースフル!  作者: サツマイモ
第一章
6/38

百菜’s 002 「戦いたく、ないのですが」

「今日は、暑いですね」


頭上の太陽は、私を溶かしにきています。

滴る汗が、土の色を変えていきます。

外に出たはいいものの、今日の天気に合わせた服を持ち合わせていませんでした。


なにしろ、王宮にはこういう時の為の薄い服などありませんので、常に着飾ったものしか着られなかったのです。


生誕祭の裏で、修は家出の準備をしてくれたようですが、そもそも持っていないのでしょうがないですよね。


しかも、私は『水筒』を持っていません。

王宮暮らしは、意外と不便なものです。


「私の服、貸しましょうか?」


百菜さんは、倒れそうな私に水筒の中の飲み物を分けてくれました。


「ありがとうございます」

「いえいえ。厚いですもんね、服。少し、休憩しましょうか」


パトロール目的ではありますが、いざという時にフラフラでは意味がありません。


「名案ですね」


私達は、数歩歩いた先の木陰にあった岩の上に座りました。


「美味しいですね、これ」

「そうですか!? すみま……、ありがとうございます」

「まさか、そんなところまで謝ろうとしていたんですか? 素直に受け取ってくださいよ、これくらい」

「すみません」

「……はあ」


空を飛ぶ烏は、なんだか覇気に欠けます。

そうでしょうね、皆暑いのですよね。


「あの、紫咲さんは、どうしてここに来たのですか?」

「ど、どうして」


……まずいです。何も考えていません。

言われてみれば、確かに不思議です。どうして、何も考えていなかったのでしょうか。

逃げ出すことに必死で、私はそのあたりを全く考えていなかったのです。


「え、ええと」


不思議そうに見つめる彼女の視線が痛いです。

生憎、今日の天気と来ています。脳が働くわけもありません。


「そうですね……。ちゃんと、敵対している組織を知っておきたいということでしょうか?」


……こ、これでどうでしょう。

考えてみれば、この発言、明らかに王宮側ですよね⁈


「そう、ですか」


……なんですかその眼。めっちゃ疑ってませんか⁈ こちらが穿った考え方をしているだけですか?


「もしかしてなんですけど」


彼女の誠実さが、今となっては恐ろしいです。

まさか、バレたら極刑とか……?


「ジャーナリスト、みたいなものですか?」

「そ、そ、そうです、そうです、それです!」

「そうでしたか」


あっぶなかったですぅ。


「あの、こちらからも、尋ねていいですか?」

「な、何でしょうか」


名前だけ聞いていましたが、彼女の能力、運命操作(フェイトコントロール)がどういったものなのか、見当がつかないのです。


幸運とか、不運とか、そういう話なのでしょうか。


「運命操作って、何ですか?」

「すみません、そうですよね。難しいですよね」

「いやいや、そういうことじゃなくて」


ふう、とため息をつき、彼女は私を見つめます。

可愛い。

つい本音が出てしまうほどに可憐な彼女の唇から発せられたのは、真面目な話でした。


まあ、もちろん、私が吹っ掛けたものですから。


「正確に語ると長いのですが、良いですか?」

「ええ」


刹那。太陽に雲がかかりました。


「運命操作というのは、簡単に言えば、幸運と不運を入れ替えることができるということです。それは、幸運や不運そのものを変形させるとかいう話ではなく、あくまでも入れ替えるという話です。


「たとえば、AさんとBさんにはそれぞれ十個ずつ、幸運と不運があるとします。

「それを、私はAさんにすべての幸運を、Bさんにすべての不運を動かして、Aさんは幸運20個、Bさんには、不運20個とすることができるわけです。


「あと、その幸運不運が使われるタイミングも動かせますが、それくらいですかね。

「むろん、幸運と不運の内容は、私が動かせる範疇ではないので、そこまで強いわけではないのですが。

「以上で、説明となります」


「ありがとうございます」


使い方によっては、という少し複雑な能力だと思いました。

吹く風が、その能力を使う機会を与えんとしていました。


「……なんか、嫌な予感がしますね」


彼女の意見に、私は無言で賛成します。


「戦いたく、ないのですが」


彼女は、自分の震える手を、握りしめました。


「そ、そんな集団で来るなんてこと、ないですよね?」

「……」


答えませんでした。

睨む先に、敵がいたからでしょう。

……2m近い男たちの、大群です。


「紫咲さんは、自分を大切にしてください」


彼女の眼は、潤んでいませんでした。


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