Pre-Final’s 003 「お疲れさまでした、本当に」
一通りの挨拶を終えたところで、私は彼女に尋ねます。
「あ、あの」
「何でしょうか?」
「本当に、良いのでしょうか?」
「何がですの?」
「いや、あの完ちゃん―完哲さんのこと」
彼女は、きょとんとした声を私にぶつけます。
「私がどうこうするものでもありませんし。え、もしかして許可がいるとか思ったんですか?」
「え、ええと、まあ」
「は。面白いことを。大丈夫ですよ。あなたが亡くなった後のケアを、私がしますので」
「めっちゃ不謹慎だな、おい」
「それは冗談として」
「冗談と出来ないんですけど」
「当たり前ですよ、大丈夫に決まってます。あなたが幸せかどうかどうでもいいですけど、彼が幸せなら、私は構いません」
時折鳴らす優しい声色に、やはりお姉さんであり、心優しい人であることが窺えます。
冗談かどうかはともかくとしても、やっぱり彼女とは話すといつも劣等感を感じます。
それは才能の差とか、そういうことではなく。
人として。
「あ、あの」
「今度は何ですか? とうとう思考回路まで途切れ始めましたか?」
「ち、違います。あの、本当にごめんなさい」
「何がですか?」
「妹さんを、助けられなかったこと」
「今度その話をしたら、腕力・聴力その他すべてを壊しますよ」
私が、こうなった理由。
格好つけて言うなら、私の実力不足。
具体的に言うなら、交通事故。
「あの日に起きたあれこれはすべて、危険運転をしたあの人が悪いわけですから、あなたが謝ることではありません。それとも、馬鹿にしているということでよろしいですか?」
「いえ、そんな」
法定速度の倍近くで走ってきた車。私と完ちゃんと子歌さんの妹たちで渡ろうとした青信号。少し飛び出した妹さんを庇おうとした私でしたが、こんな私では助けることはできませんでした。
そして、バックしてくる車。私の記憶は、そこで途絶えました。
生きているということは、そこまで轢かれたわけでもないのでしょう。きっと、完ちゃんが。
「そう言えば、その犯人ですが、精神病院に入るそうですよ。無罪放免ってことですね。本当に憎くてたまりませんが、しょうがないでしょう。それが、この国の法律ってものです」
そう……なん、ですね……。急な頭痛に耐え切れず、私は意識を、失い。
――――
――――
「完ちゃんは、全っ然分かってない!」
「だから、俺達まだ学生だろ?」
「そ、そういうんじゃない!」
「じゃあ、どういうことなんだよ」
「だって、そうでもしなきゃ、私」
「何だよ」
「私のこと、何にも知らないくせに」
「俺は、千陽の為に、」
「そうじゃないんだよ、そうじゃなくって」
「何なんだよ、分かんねえよ千陽の言ってることが」
「私は、完ちゃんと」
「俺と?」
「もういいもん!」
「あ、おいどこ行くんだよ!」
「友達んち!」
――――
目を覚ますと、一乃さんが目の前にいました。そして、気づけば周りに皆がいました。
「よかった、本当に良かった」
涙を流しながら、彼女は私を抱き寄せました。彼女の涙を、頬に感じます。
「死んじゃうんじゃないかって、思った」
「皆、どうして?」
「いやあ、びっくりしたよー」
十音さんは、うつぶせに寝そべりながら、答えてくれました。
「まさか、あんな大所帯が忽然と姿を消すなんてね」
「そう、だったんですか」
「ええ。てっきり一乃さんの仕業かと思いましたけど」
「百菜ちゃん、さすがの私でもそんなことはできないよ。できるのはこれくらいだ」
そして、一乃さんは百菜さんのスカートをめくります。
「ひゃう!」
百菜さんの能力は、急なものに弱いそうです。
「よし、起きたことだし」
リーダーは、修をたきつけるように腰を叩きました。
「そうですね。ちーさん、帰りましょう」
「え?」
「お疲れさまでした、本当に」
何が、終わったのでしょうか。




