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ユースフル!  作者: サツマイモ
第二章
34/38

Pre-Final’s 002  「完ちゃんが、最後の希望なの」

「え、いや、でも俺達まだ学生だし」


彼の声が震えます。


「分かってる、だめ、だよね」


私のわがままであることに変わりはありません。最初からわがままな私の、最期のわがままなんて、そうそう聞いてくれるはずがありません。そんなにこの社会は甘くないことくらいは分かっています。


「いや、そんなことは。なんか急いでるんじゃないか? 別に、すぐに悪くなるとか、良くなるとか、そう言うことじゃないんだし」

「そうじゃないの」

「じゃあ、何だよ」

「急いでるんじゃない。本当に私は、君じゃないと」


私には、たった一つの揺るがない希望。

家族の記憶が持たない。顔さえ分からない。そんな私を最後まで見届けてくれる最後の希望。


だから、私は。


「完ちゃんが、最後の希望なの」


いつ死ぬか分からない、だからそばにいてほしい。


そんな甘くて、優しくて、柔らかくて、気持ちが良い物じゃない。

私は、最低な奴でした。


産まれてから数年は、そんなつもりではありませんでした。それから数年も、それなりに真人間として生きてきました。


でも、思い返せばそんなことは無かったのかもしれません。あの事故以来、私は変わったのかという問いに、私はちゃんとYESと答えられる気がしません。


初めから最低で、途中から最低で、最期まで最低。


周りの優しさも考えられない。周りの人に八つ当たりまでして、傷つけて。それでも世話してくれる彼らを、また突き放して。そして、自分の愛する人だけにしっぽ振って。


「なんか疲れてんじゃない? また徹夜して小説聞いてたんでしょ」

「違うもん、本当に、違うもん」


せめて、最期まで。


「じゃあ、変なもの食べたとか?」


わがままに、生きさせて。


「病院食以外は食べてません」


彼のため息が、私の心をかき混ぜて、ぐちゃぐちゃにします。


「まだ早いです。せめて、高校卒業してから」

彼の断定する声が、心地よかったです。


「そんなぁ」


それでも、私は嬉しかったのです。ちゃんと考えてくれることに、感動を覚えるのです。


「でも、ちゃんと償いをするというのなら、そうだなぁ。大学卒業くらいに結婚しよう」


現実的な提案に、不覚にも胸がうずきます。


「ほ、本当?」

「約束する」

「……」


これ以上ない幸せに、私はどっぷりとつかるのでした。


「……ってか、大学受験大丈夫なの?」

「うっ」

「その反応、まさか」

「良いんだよ、本番に強いタイプだから」

「君は、子歌さんみたいに才能があるわけじゃないんだから、ちゃんと勉強しなきゃ」

「身もふたもない例を挙げるなよ……」

「まあ、まだ夏だし。頑張ってくださいよ?」

「りょーかい」


少し間が空いて、彼は「あ、そういや今日子歌来るんだったかな」と言いながら部屋を出ていきました。


「どこ行くの?」と尋ねると、「ちょっとロビーまで」とその場で足踏みしながら答えてくれたので―まあ、考えればそりゃあそうなんですけど―、私は「行ってらっしゃい」と返します。どんな表情をしていたのか私にはわかりませんが、きっと嫌な表情はしていないでしょう。そう、信じています。


少しだけ窓から風が吹き、髪の毛の揺れる感触に身をゆだねていると、突然左側から「こんにちは」という声が聞こえました。慌てて「こんにちはです!」と返すと、「まあ、こんなものかしらと」と鼻を鳴らしながら嘲笑するようなことを言われました。


そんなことを言う人は、この人しかいません。


「子歌さんですか」

「あれ、なんだか嫌そうな顔ですね。まるで、私に会うと劣等感に苛まれると言わんばかりじゃないですか」

「言わんばかりではありません」


別に、嫌いではないのですが。

恋人の幼馴染って、なんだかやり辛いんですよね。


「今日は、どうしたんですか?」

「久々に人を笑いたくなりまして」


前言撤回。凄く嫌いです。


「では、漫才や落語を聞けばよいのでは?」

「だから、何度も言わせないでくださいよ。笑わせてもらうんじゃなくて、笑いに来たんですよ」

「……すごい発言ですよね。本当、元の性格を知らなければ今頃喧嘩ですよ」

「元の性格を思い出せるほど、記憶力が良くなったんですか?」

「少なくとも、どれだけ記憶喪失が続いたとしても、あなたを忘れることは無いでしょうね」

「お褒めに預かり光栄の至りでございますわ」

「素晴らしい性格をお持ちで」


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