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ユースフル!  作者: サツマイモ
第二章
32/38

Neutral’s 006 『……再構築のための、強制シャットダウン』

完哲ら一行は、玄関先で修と合流した。


「死体処理お疲れさん」

「死体って言うな。消えたんですよ」


この会話を、少女二人は聞いていない。

聞いていないのには訳があったことを、彼女らの代わりに反論しておこう。


彼ら彼女らの前に広がるそれは、それくらいに凄惨な状態だった。


「人、多ッ!?」

十音は、情報源である耳をふさいだ。


「これは……大変ですね」


しかし、百菜は嫌な顔をしなかった。むしろ、吹っ切れたかのような笑顔を見せた。


「一応、一乃に連絡はしておいたけど、こりゃきついかもしれんなぁ」


完哲は顔を少しゆがめるも、それでもあきらめる様子はなかった。


『こちらの準備もいいですよー』


完哲の持つ通話機に、一乃の声が乗った。


「あのー、すみません」

彼は、少し高い台に立って群衆に向けて声をかけた。


「何だてめー、ぶち殺すぞ」

厳しいなぁ、とポツリ呟く。


「話し合う気は無いのかい?」

「あるわけねえだろ」


瞬間。大砲が王宮にぶち込まれた。弾数は数十、否数百にも上り、王宮は巨大な音を立てて、面影が残る余地も与えられずに崩壊していった。


「ぎゃ、あぶねっ」


十音のまぬけな声は、あっという間に掻き消され、気が付けば少女二人の前にはがれきが広がっていた。十音の耳は、聞こえなくなっていた。百菜の眼鏡も、がれきの餌食となった。


危機一髪で彼女らを救ったのは、他の誰でもない修だった。


「大丈夫ですか?」

「は、はい」

「ありがとー」


修の迅速な動きに、完哲は「おー」と呟いた。

振り向けば、王宮は見るも無残な姿になっていた。


「こりゃ、戦う以外にないらしいなぁ」

そう呟いて、完哲は笑った。


「じゃあ、戦おうじゃないか」


彼の声に、少年少女は賛同の声を上げた。


「ぶち殺せ!」


そして、敵陣営もまた、喚声を挙げた。


十音は、視力・聴力を失ってもなお、残る3感で敵に迫る。匂いそのもので相手の性別を、匂いの広がりで相手の身長を予測する。残りは吹き抜ける風を触感で感じ取り、相手がどういった陣形をとっているのかを探る。あとは、味で何とかする。


「なんとかするって、十音。それで大丈夫なのかよ」

「だいじょーぶ。最悪、助けてくれるでしょ、完哲(リーダー)

「俺に助けを求めるな」

「あう」


いつもの通り、いつもの如く、掛け合いを楽しむ。

まるで、これが餞別と言わんばかりである。


「にしても、全然攻めてきませんね」


百菜は、相手が喚声だけをあげているのを不思議がる。ずっと攻めてこないのだ。


「もしかして、なんかしてんのかな」


完哲はポケットの中にある通信機で一乃に確認をとった。しかし、その行為に何の意味もなかったのは、彼らにとっても不思議な事だった。不可思議で、不可解だった。


『うーん。私も今困ってたところー。全然攻めてこないから、弾幕張って待ち構えていたんだよねー』

「サンキュー、姉ちゃん」

「完哲さん、漏れてる漏れてる」

「あ」


このことに関して、完哲自体はそこまで気にしていなかったが、千陽にとっては大事であり、それが原因で真実に迫っていくことになったのは、またもう少し後の話である。


「でも、どうして止まったままなんだろうな。こんなこと、一度だって無かったぞ」


完哲の疑問を晴らせる者はいなかったし、晴らせる物もなかった。


「うーん。これってさ」


十音は腕を組んで悩みつつも、ある一つ仮説を立てた。


「リーダー、つまり一人とやらがいなくなったからなんじゃないかな」

「なーるほど」


集団は、リーダーがいなければ成立しないというのは、この世の中の定説と言っても過言ではない。逆に言えば―裏を返せば、リーダーがいてこそ成立するということ。リーダーがいない今―確固たる先導者がいない今、彼らはどうしていいのか分からなくなっているのかもしれない。


完哲、修はそのように考えた。

しかし、百菜だけは別の考えを抱いていた。


「あの、もう一度通信機を繋げてもらってもいいですか?」


彼女の焦りを隠さない表情はあまりにも珍しいために、完哲は「あ、うん」とたじろいだ。 


「でも、なんで」


通信機の電源をつけた瞬間。

通信機のスピーカーが壊れるのではないかというほどの大声が響いた。


『ねえ、千陽ちゃん⁈ ねえってば、どうしたの⁈ 栄養価が足りないの、それとも風邪? 寝不足、疲れてるの⁈ どうしたの、ねえ!?』

「姉ちゃん!? 姉ちゃん!?」

『何⁈』

「どうした、何があった?」

『千陽ちゃんが、千陽ちゃんが』


彼ら彼女らは、この時抱いた感情を、忘れることはできなかった。

そのこと自体は、快方に向かっているもので。

やりたかったことで。


でも、だからと言って、その姿はひどく心を苦しめた。


『……再構築のための、強制シャットダウン』


錦塚一乃は、そう呟いた。


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