一乃’s 007 「……お前だって、自分勝手に生きてんじゃんか」
…………………………。
どうしてだ。なぜ、そうなる。違う、俺たちは。そういうことではなく。
「王様、それは何も」
「もう遅い。じゃあ、君は帰りたまえ」
合わない。考えが、合わなかった。
会わない。もう二度と、こいつになんか会わない。
「地獄に落ちろ、優柔不断野郎」
頭の中でそう呟いて、俺は部屋を後にした。
その後のことは覚えていない。
というか、思い出せない。
ただ一つ、救出作戦の際に爆撃に巻き込まれた彼女が死んだというニュースだけが鮮明に記憶されていた。
気づけば、彼女のいない町に戻っていた。
服には血しぶきを浴びたかのような跡がある。
「何が才能だ。何が地位だ。そんなものは、」
俺がぶっ壊す。
それ以来、俺はどちらが先に壊れるか勝負していた。
格差社会と、俺と。
そして、その日がやってきた。
「君が、真中完哲か」
俺は、侵入した王宮の窓から、彼らを眺めた。
「二人きりで話がしたい」
狂った俺に、敵などいるはずもなかった。
はずなのに。
「君はさっき、それが使命だと言っていたね」
彼は未だ椅子の上で胡坐をかきながら、楽しそうに確認をした。
その笑顔に、見覚えがあった。
「それがどうかしたんですか?」
彼は「いやいや」と手を横に振った。態度がまさに、見覚えそのものだった。
「それは、勝手に思ったのかな。それとも、誰かに言われたのかな」
ふと、俺は考え始めた。
どうして、そんな使命を受けたのだろうか。使命と疑いもせずに、生きているのだろうか。
俺は、覚えていなかった。
「物心ついた時には、もう」
俺は、もう負けていた。
完哲の笑顔が、彼女の笑顔に思えてならない。
あの日。あの爆撃に呑まれた彼女の、輝く笑顔に。
「そうかそうか。じゃあ、君は才能を持つ者に恨みでもあるのかい?」
完哲は、面白そうに笑顔を振りまく。
「……」
この人たちだって被害者だ。原因を作ったのは、俺だ。なのに、彼は笑顔のままだった。
「でも、俺は」
彼女を一人にしたことが、そもそもの間違いだったのだ。心優しき彼女なら、爆音を聞いて救助に向かわないわけがない。その先で巻き込まれるなんて、分かっていた。
「俺には、何もないから」
謝りたくて仕方なくなった。俺は、なんてことを。
「頭もよくない。運動ができるわけじゃない。芸術的センスに富んでいるわけでもない。見た目が良いわけでも、性格が良いわけでもない。だからこそ、俺は平等を望む」
才能なんて要らない。地位なんて、くそくらえ。
俺は、ただ。
彼女の面影が目の前に映る。
「……お前だって、自分勝手に生きてんじゃんか」
完哲の―こいつの笑顔は、本当に彼女にそっくりだった。
「大丈夫だ。俺が好きなのは、対等に接することのできるお前なんだから」
完哲の笑顔に、勝てる者はいなかった。
「ありがとう」
彼女が、笑っている。
神様、俺にこの使命を与えてくれありがとう。
でも、神様も分かったんじゃないか。
平等じゃなくたって構わないってことに。
こいつらも、王宮も、俺らも。
全員好き勝手に生きてんじゃんってことに。
なあ神様。
もうムキになることは無いんじゃないのか。
わざわざ対立勢力を作らなくてもいいんじゃないか。
互いに許してやろうぜ。認めてやろうぜ。
俺は、才能に勝てないことを認める。
俺は、地位に勝てないことを認める。
だから俺は、平等が全員の幸福であると認めない。
彼女を助けられたらとは思うけどな。
あーあ、俺に能力があればなぁ。
俺は、消えた。
――――
ん?
なんですか、この夢。
イライラする夢ですね。
私―東条千陽は、とうとう夢にまでイラつくようになってしまったのでしょうか。
「あ、起きた」
一乃さんの声で、私は起きます。
「いやあ、びっくりしました。会議の途中で急に寝てしまうんですから」
もう、と頬を膨らます一乃さん。
すると、画面が急に点滅し始めました。
「な、なんですか?」
「おや、これって」
画面を見ると、リーダーの名前が記されていました。
「こりゃ、大惨事かもね」
私は、固唾をのんで、画面を見つめました。




