一乃’s 006 「では、そこに爆撃を仕掛けよう」
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気づけば、俺は、街のど真ん中の噴水の前に佇んでいた。
「……?」
周りを見渡す仕草で、俺は記憶を取り戻していった。
舘町一人。短髪はどうも嫌で、髪の毛は伸ばしっぱなしだった。荷物は何も持たず、せいぜい服を着ていたくらいだった。
取り戻す記憶のはじっこで、神の声が聞こえた。
『平等を、追求しなさい。才能を、撃滅しなさい』
どうしてそれを真に受けたのか、それは自分自身でも分からない。ただ、俺はその先にある幸せを妄想し、想像して、暴走した。腹ペコな体に鞭を打って、どうしたらみんなを先導できるか―扇動できるか、ひたすら考えた。
「ねえ、どうしたのかず君」
後ろから、声が聞こえた。
「君は?」
「……ふふっ。なにそれ。小さいころからずっと一緒だったでしょうが」
麦わら帽子に、白いワンピース。
少女は、夏のさわやかさを身にまとったかのような姿をしていた。
その姿はまさに、夏の擬人化とも言えた。
「そう……なのか」
「そうですよーだ」
彼女の見せる笑顔は、太陽そのものだった。
「なあ、」
それからというもの、俺は彼女と共に普遍的な生活を送っていた。勿論、使命を忘れてなどいない。しかし、それに彼女を巻き込むのは少々憚られる。
「何?」
喫茶店の窓際席に向かい合って座る二人の間に、少しだけそよ風が吹いた。
「もう、俺とは関わらないで欲しい」
俺は、一人で戦場へ赴かなければならない。
そう、固く決めていた。
自由なんて要らない。使命のままに、平等を手にするんだ。
「……なんで?」
笑顔を絶やさぬ彼女に、俺は少し怖くなった。
「それは、君を」
たじろぐ俺の手をつかんで、彼女は俺を見つめる。
その行為に、紅潮する。
「私は、ついていくよ?」
彼女の視線は熱くて、鋭かった。
「どうして」
「もちろん、君の親友だもの。でも、一つだけ約束」
彼女は見つめたまま続ける。
「無理はしないこと。彼らを弾圧しないこと。たとえ、あなたが正解だとしても、社会っていうのは正解だけじゃ成立しないから、否定しないこと。総合して、戦わないこと」
彼女は、俺にくぎを刺し終わると、手を離して、「私がブレーキになったげる。それが、私の使命だわ」とまたもやニコッと笑った。
太陽もうらやむ笑顔に、俺は決意した。
「分かったよ。絶対に君を傷つけたりはしない。そして、俺も傷つかない。皆が幸せになるように、頑張るよ」
それから、俺は一生懸命努力した。人を傷つけず、片っ端から搾りかすみたいな信頼をかき集めて、そしてついに、王様の隣までたどり着いた。
決して俺は王様を倒したいわけではなかった。
そのはずなのに。
「いいか、お前たち! 絶対に戦うなよ!」
数百人の喚声が、重なり合った。
「もちろん!」
「俺たちは、非暴力主義だぜ!」
「話し合ってやろうぜ!」
頭の良しあしはともかく、とにかくこれだけ集まってくれて良かった。
感極まる俺の肩を、彼女は「何泣いてんのよ」と泣きながら叩いた。
その姿に、笑みがこぼれた。
ようやく俺たちは世界を変える。
平等が、自由が。
そんなものはどうでもいいという人がいるかもしれない。
それは、才能を手にしたものだけが言えることだ。
才能は誰もが持つものだという幻想が、本当に辛かった。
0もまた存在するという数学的な考え方が、俺たちを苦しめた。
しかし、それももう最後だ。
劣等感に縛られなくてもいい。王様が、公式に認めてくれれば、それで。
「じゃあ、行ってくる」
「行ってらっしゃい」
俺は、駆け足で石の階段を昇った。
「……分かった、そうしよう」
長い、長い、会議が幕を閉じた。
俺たちは、認めてくれるだけで十分だった。
しかし。
「でも、認めるだけでは示しがつかんだろう。あのように、暴徒化する状況も免れん。わしらも地位が危ぶまれる。そうだ、西の地域は確か、才能の宝庫じゃったよな」
王様は、窓を眺めながらそう呟いた。
「ええ、確かそうだったはずですけれど」
「では、そこに爆撃を仕掛けよう」




