Neutral’s 005「俺が好きなのは、対等に接することのできるお前なんだから」
「ダラダラしていますけれど、君たちは王様の安否を確認しなくてもよいのですか?」
一人は、ニヤつきながら馬鹿にするように提案した。
「確かに。修、あと二人も、ちょっと王様を探しに行ってもらってもいいかな?」
「え、でも」
「良いからさ。二人だけにしてもらってもいいかな」
修と少女二人は、渋々ながらそれを了承し、部屋を出た。
少女二人の心配そうな表情を見て、「任せろ」と完哲は小声でつぶやいた。
「これで、ようやく二人きりですな」
窓際に立っていた一人は近くの王様の椅子へと腰かけた。
「それで」
完哲の目的は、最終局面までたどり着いていた。
元の目的は、簡単に言えば、王様の説得。つまり、彼ら同様、自由気ままに好き勝手、自分勝手に運命にのっとって、正々堂々とズルを働きつつも、生きていくという考え方の共有を果たそうとしていた。勿論、それは彼の単なる押し付けではなく、王宮陣営はむしろその考え方だった。
全ては運命によって定められている。
産まれた環境、産まれた体。それを受け入れてこその人生だ。
そういった部分で、彼らはつながっていた。
しかし、世界は違った。
世界は少しずつ、完全な平等へと動いていた。
世界平等結社。
彼らは、そう名乗っていた。
そこら中に引かれていた国と国との境界線はあっという間に消え去り、適材適所なんて言葉は知らないと言わんばかりに、全ての土地で全く同じことをさせる。同じアメと同じムチを同タイミングで与える。完璧で、完全な平等の完成。それが、彼らの目的だった。
「君はさっき、それが使命だと言っていたね」
完哲は未だ椅子の上で胡坐をかきながら、楽しそうに確認をした。
「それがどうかしたんですか?」
不思議そうに首をかしげる一人に、完哲は「いやいや」と手を横に振った。
「それは、勝手に思ったのかな。それとも、誰かに言われたのかな」
ふと、一人は考え始めた。
どうして、そんな使命を受けたのだろうか。使命と疑いもせずに、生きているのだろうか。
彼は、覚えていなかった。
「物心ついた時には、もう」
彼は、形勢逆転に気づくが、もうそれは遅かった。
「そうかそうか。じゃあ、君は才能を持つ者に恨みでもあるのかい?」
完哲は、面白そうに笑顔を振りまく。
「……」
一人は黙った。黙考した。
「でも、俺は」
気づけば、彼の素が出てしまった。もしかすると、それが完哲の能力なのかもしれない。
「俺には、何もないから」
もう完全に完哲のペースに呑まれてしまった。一人はそれすら気づけないほどに、落とされてしまった。彼に勝てる者はいなかった。
「頭もよくない。運動ができるわけじゃない。芸術的センスに富んでいるわけでもない。見た目が良いわけでも、性格が良いわけでもない。だからこそ、俺は平等を望む」
「……お前だって、自分勝手に生きてんじゃんか」
完哲は、一人の居間にも崩れそうな顔を見るや否や、「来いよ」とだけ言った。
「大丈夫だ。俺が好きなのは、対等に接することのできるお前なんだから」
完哲の笑顔に、勝てる者はいなかった。
彼の抱擁をただじっと感じるだけの一人は、あっさりと、何の前触れも兆候もなく、消えた。
「ありがとう」
ただ、それだけをつぶやいて。
「ふう。これで、やっと一つ片付いた」
彼には、もう一つやることがあった。
それこそが今回の目的で、最大の課題だった。
「いやあ、そろそろ気づいてほしいんだけどなぁ」
彼は、孤独になっただだっ広い部屋で一人、呟いた。
「まあ、思い出したところで、なんて言ったらいいか分かんねえけどな」
自己完結する完哲。
孤独にそろそろ飽きてきたころ、ドアが開いた。
「あのー、見つかりましたよー?」
十音だった。
十音の腰にしがみつくように、百菜が付いてきていた。先ほどとは逆の体制に、彼は少し笑った。
「分かった、ありがとう。もう十分だよ」
「……そ、そうなんですか?」
「ああ、百菜ちゃん」
だからといって、その方向―平等か、自由か―の問題は終わっているわけではなかった。
主軸が抜けたからと言ってすぐに瓦解するほど、世論というのは甘くない。
「ここから、戦闘が始まるけれど、大丈夫かい?」
「……」
少女二人は、不安そうに目を合わせ、互いに意思を疎通しあい、しまいには笑顔で、
「勿論です」
と宣言した。
「あれ、修は?」
どこにもいないことに気づいた完哲の疑問に、十音が「あ、あの人なら王様のお世話だよ」と返答した。
「そっか」
彼らは、暴徒化した国民の前に、向かおうとしていた。




