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ユースフル!  作者: サツマイモ
第二章
27/38

Neutral’s 004 「天才ってのは、可哀想なものですねぇ」

「やあ、よく来たね」


中肉中背の男が、庶民には無駄に見えるほど大きな会議室ともいうべき部屋の中央奥に鎮座していた。


「どうも」

修は、その男に対し、形式ばった会釈をする。


「お久しぶりです」

完哲の心がこもったお辞儀につられるように、少女二人もお辞儀をする。


「まあ、座りなさい」


目の前にある一列に並べられた椅子へ、その男は誘導した。まるで集団面接のような並びに、彼らは少し戸惑いを見せたが、間もなく座った。


緊張と静寂が、だだっ広い部屋を包む。


「では、始めようか」


かの男の掛け声と共に、その会議の幕が上がった。

百菜は眼鏡をかけ直し、十音は喉を鳴らして背筋を伸ばし、完哲は若干カジュアルに、修は昔のような素晴らしい姿勢で、そしてかの男は服を整えて、それぞれの態勢を定めた。


「はいはい! 王様!」


元気いっぱいの十音は、彼女のスタンスを崩さずに真っ先に手を挙げた。


「なんだい?」

「王様は、どうしてこの町に爆撃するのですか?」


姿勢正しく、礼儀正しく、彼女は単刀直入に質問をした。


「それは、国民の意見を尊重した結果です」


完全な逃げである。

それは、この男には十分に十全に分かっていることだった。


「そうですか」


残念そうな表情を浮かべる、ツインテールの少女。


「あ、あの」


続いて、おどけた眼鏡少女が、残滓のような勇気をかき集めて手を挙げた。


「国民のどういった意見なのでしょうか。と、というのも、一応私達も国民でありまして、だ、だから……その、こちらの意見も反映して頂かないことには、フェアではないと言いますか……。国会があるとはいえ、一応元首は王様であるあなた様にあるわけでして……」


喋れば喋るほど声が小さくなっていく癖は直っていないが、それでも彼女にしては良くしゃべった方である。完哲は、隣で聞きながら、十全だと感じていた。


「現在、国民の9割は『世界はすべて、等しくあるべきだ』という考えを持っています。我々も、その意見に概ね―理解を示しているつもりで、たとえ間違っていたとしても、それが民意だというのであれば、従うまでです」


何とも、自らの意見を持たない男である。


「……それって、どうなのでしょうか」

完哲が、ついに口を開いた。


「どういうこととは?」

「国民の意見を取り入れるというのは、間違いではないと思いますし、むしろそれが当たり前といってもよいかもしれません」


彼には珍しい丁寧語が、この部屋にちりばめられていく。


「しかし、それではあなたの意見が全くないということになります。それは、さすがに間違っているのではないでしょうかということです。それは、国民に責任を押し付けているだけです」


「そもそも、一個人が意見を持って何になるというのでしょうか」


少女二人は、驚きを隠せずに、男の眼をぎゅっと見つめた。


「そんな風に見つめられてしまうと、少し胸が高鳴りますね」


この男は、気味の悪い―気持ちが悪い言葉を吐き捨て、完哲を見つめた。


「で、答えは?」


修と完哲は、初めから感じていた違和感に―不整合さに、ようやく見切りをつけた。


「当たり前でしょう。人間、意見を持たなければ生きてなどいけません。それはもはや、家畜も同然です」


修のとげのある言葉は、この男には届かなかった。


「互いの為に働き、互いの為に消費する。それのどこに、家畜のような残酷性があるのでしょうか」


それが、この男の考え方だった。

この男の思考にして思想にして幻想。理想、妄想、その他もろもろ。

想像の根本にして、頂点。


「All for All.素晴らしい考え方でしょう?」


皆は、皆の為に。

それこそがこの男の―男たちの、思想だった。


「やっぱり、お前は王様じゃねえな。変装と声真似が上手かったところだけ評価してやる」


完哲は、態度をがらりと変えた。

礼儀正しく姿勢よくしていた先ほどの彼とは別人のように、元の態度に戻った。


その姿に、修は納得する。

その姿に、少女二人は衝撃を受ける。


「ちょっと、何してんの!」

「相手は、王様ですよ⁈」


二人の制止は無駄に終わる。

両足を椅子の上で組みなおし、彼は笑った。


「で、お前どうやってここに来たんだ? 世界平等結社(ワールドイコール)舘町一人(たちまちかずひと)


それが、この男の名だった。

世界平等結社の創設者。舘町一人。


「単純に気になってさ。変装の上手さだけは褒めてやる。たぶん、王妃様はこのことに気付いていないみたいなんだけどさ」

「あの人は、気づいていないのではなくて、気づく気が無いのだと思いますよ」

「なるほどね」

「それで、何もしないんですか?」

「何が?」


彼らのキャッチボールは、意外にもテンポよく進んでいった。

まるで、自らとお互いに話しているようで、他3人は置いてけぼりを食らった。


「てっきり私は殺されるものかと思っていましたけれど」

「殺せるわけないだろ? 下にこんなにお前の信者がいて」


ここで、少女たちと修は耳を澄ます。

巨大な部屋に付きものな巨大な窓から、少しだけ声がした。

その声は次第に大きくなり、やがて澄まさずとも聞こえるようになった。


「異常者は、この国から出ていけ!」


彼らは、平等を、常識を、正常を、統一を、同一を求める人々で。

そして、格差を、差別を、異常を、分散を、才能を嫌う者たちだった。


「能力、もっと言えば才能というのは、生まれ持った物であって、努力では到底届くこともないものだというのに」


一人は、席を立ち、窓の方を眺めた。


「天才ってのは、可哀想なものですねぇ」


そして振り返り、4人へ嘲笑を送った。


「……こいつ、ウザい!」


十音は、高まる感情を抑えらずにいた。


しかし、男二人は彼の言葉に納得せずとも理解はできていた。そして、百菜もまた、そのことに理解を示した。


いくら殺人の才能があったとしても、それを使えば社会を乱す。乱すものは処分される。それは、決してどんな国でもどんな主義でも起こる話である。


社会の安全を危ぶむ才能は、決して許されない。


そして、その尺度は、社会の状態によって簡単に変えられる。


社会というものは、確固たるものがあるように見せかけて、非常に流動的である。今日の常識が明日の非常識であるように、「ここまでOK」というラインは、常に揺れ動く。


「お前たちの目的は、才能のあるものを潰す、それだけなんだな?」

完哲は体勢を崩さない。


「ああ、もちろんだ。それが、私に与えられた使命だからな」


一人もまた、体勢を崩さなかった。


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