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ユースフル!  作者: サツマイモ
第二章
26/38

一乃’s 004 「良いでしょう。一つだけなら」

「ちーちゃ、千陽さん」

「どうかしました? 別に、ちーちゃんでもいいですけど」

「千陽さんは、誰か好きな人はいるんですか?」


時は過ぎて、夜。

いつものようにいつもの如く、私達はゴロゴロ雑魚寝をしていました。


「な、なんですか、急に」

「急だったのはあなたでしょうが」

「そ、そうでしたね」


確かに、あのフリをしたなら、次は私に来るのが当たり前ってもんでしょうか。


「で、誰なんです?」

「ええと、そうですね」


修と答えるのが筋でしょう。私は、修と共に成長し、共に生きてきたのです。愛着も、愛情もあります。すべてをささげてもいいと、私は思っています。


しかし、心の片隅で、脳のはじっこで、それは違うと言われているような気になるのです。


『お前は、修ではなく完哲に恋をしている』


そう囁かれている気になっているのです。


「修ですかね」

「……やはり、そうなんですね」


電気の消えた部屋は、静寂に包まれてしまいました。


「あの、静かすぎると私寝れないんですよね」


私は、寂しくなってついついあの頃を思い出していました。


「……知りませんけど」

冷たい態度です。まあ、その方が当たり前ですか。


「あの、なんか一つお話とかありませんか?」

「……小学生みたいなこと言いますね」

「なんか、作り話でもなんでも」

「……」


少し黙ってしまいました。


「あ、ええと、すみません。ご無理を言って。じゃあ、私寝ます」

「良いでしょう。一つだけなら」

「ほ、本当ですか⁈」

「ただし、相当長いですがよろしいですか?」

「構いません」


宣言空しく、彼女の声はとても心地よく、すぐさま眠りに入ってしまうのでした。


具体的には、昔、昔の話。というあたりでもう眠りについていました。


――――

昔、昔の話。

とある町に、互いに互いを愛しあう少年少女がいました。周りからも認められるほどのおしどり夫婦っぷりに、皆は結婚も近いと噂していました。


そんなある日のこと。


些細なきっかけから、彼女らは大喧嘩へと発展していきました。

その大喧嘩の行方は、酷く残酷なものでした。

喧嘩の最中、家を飛び出した少女は、そのまま帰ってくることはありませんでした。


「……なんてことをしてしまったのだろう」


彼は、その晩を泣き明かしました。

幸い、彼女は近くの病院へと搬送され、事なきを得ました。

しかし、彼女は色々なものを失いました。

視力。脚力。記憶力。

それらを彼女は失ったのでした。


もちろん、少年が行ったところで分かるわけもなく、彼は再び泣き崩れました。


少女の方も、それはひどく辛いことでした。

家族を思い出せない。家族を見ることができない。愛する人を、大切な人を判別できない。


彼女は、病室で一晩中泣き続けました。


「……どうしたら、この苦しみから解き放たれるのだろうか」


二人は、それぞれ考えました。


その日から数日後。

少年の元を訪ねた人がいました。

それは、少年の幼馴染でした。


「……いつまでうじうじしてんのさ」


彼女は、その日妹を失っていました。


「お前はまだいい方だろうが、生きてんだからさ」


彼女なりに、少年を励まします。

その声が彼に届くまで、そうかかりませんでした。


翌日。

少年は、幼馴染の元へ踏み出しました。


「……協力、してくれるか」

やつれた顔に幼馴染は笑い、「良いよ」と答えました。


彼の作戦はこうでした。


「同じ環境下で記憶が戻らないのなら、違う環境下に置けばいい」


つまり、彼女の脳の仮想現実―夢の世界―に入り込み、そこで記憶を呼び起こさせる。

そう言うものでした。


そんなことできるはずがない。

色んな人からそう言われた彼とその幼馴染でしたが、それでも彼らは諦めませんでした。


「もう一度、楽しませてやるんだ」


その意志と決意は、案外近くのところに届きました。


同じ病室にいた、運動大好きな活発少女。

少年の姉で、少女の親友で、引きこもりの情報少女。

そして、少女の弟。


彼らは、その計画に手を挙げてくれました。


病室にいたうち、一人はそういった技術に長けている人だったのが、さらなる幸運でした。


「一度、こういうものを作ってみたいと思っていたので」


その一言は、彼らを何倍も幸せにしました。


3か月後。

ついにそれは完成し、とうとう乗り込むことに成功したのでした。


結末?

結末は、覚えていません。

――――


「さすがに寝ましたか」


意識と夢の狭間で、私はそのフレーズを聞いたのでした。


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