Neutral’s 003 「まあでも、その方が良いかもしれないな」
「でも、どうしましょう」
百菜に十数m落ちられるほどの度胸と能力はない。
「さすが王様です」
ふふっ、と修は笑った。
王様は、悪戯好きらしい。修はそのことを思い出していた。
「どうすんの、これ」
完全に力の抜けた十音の声を聞かず、修は少し後ろへと下がった。
「何しているですか?」
二人は本当に何も分からないと言った顔をした。
その数秒後である。
目にもとまらぬスピードで二人をつかみ、一度のジャンプで手すりに足をかけ、飛んでいった。
「ひ、ひゃあああああ!!」
「ぎ、ぎゃああああああああ!」
彼女たちの悲鳴は空しく、あっという間に降下していった。
「よいっしょ」
激しい反動を両足だけで吸収した修は、それでもあっけらかんとした顔をしていた。
「あ、あのさ、修」
完哲は、おどおどしながら、彼女らの顔を交互に一瞥して、それから真実を言い放った。
「ちゃんと宣告すべきだったんじゃないかな。両方失神しちゃったよ」
「あ」
両腕に抱えた美少女二人は、完全に意識が飛んでいた。
「すっかり忘れてました」
「ちゃんと考えてくださいよ。あなたみたいに、皆強いわけではないんすから」
「あなたに言われたくないんですけど」
「ははっ」
「わかりやすいほど棒読みですな」
二人は、彼女らを優しく端に寄せ、壁にもたれかかった。
「修、聞きたいことがあるんだけど」
「何でしょう?」
完哲は腰を壁に滑らせて座り、質問をし直した。
窓から差し込む光が、少女らを照らしていた。
「まだ千陽さんは、気づいていないのか?」
「ええ、皆、自分が王宮の人だということを知らない、そのつもりでいます」
「あと、もう一つの方は?」
「……きっと、知らないままでしょうね」
彼らには、まだ秘密があった。
それは、彼らしか知らないことであり、知ってはいけない物であった。
「あーあ、本当は救出作戦だったのにな」
「……そうだったんですか」
修は、その能力ゆえ、彼らの作戦を知っていた。
「そりゃあ、もう。動けない彼女の為に、俺たちが無理やりでも動かして、世界はこんなにも楽しいんだ! って、伝えるつもりだったんだけどなぁ」
「伝わるといいですね」
修は、窓を眺めた。
――――
「ねえ、修」
「何でしょうか、千陽様」
「だから、やめてよそのよびかた」
「では、どうすれば?」
「ちーさんとおよびなさい?」
「わ、分かりました」
「修、つきがきれいだわ!」
「そうですね、ちは……」
「ちは?」
「ちーさん」
「よろしい」
「ほんとうに、きれいですね」
――――
己の許されざる心と葛藤していた。
「あの、」修の声に耳だけ傾ける完哲。「なんだい?」完哲の反応をしっかり聞いたうえで、修は「もしも、」とだけ、呟くように言った。
「もしも、彼女が僕のことを好いてくださっていたその時は、僕が結婚を申し込んでよろしいでしょうか」
「どうして俺に訊く。俺はあいつの親か。親は王様だろうよ」
「しかし、」
「しかしも何もないよ。その時はしゃあないだろ。もちろん、良い気はしないけれど、最大級のお祝いをしてやるよ」
完哲は、目を閉じて、その姿を想像した。
――――
「完ちゃんは、全っ然分かってない!」
「だから、俺達まだ学生だろ?」
「そ、そういうんじゃない!」
「じゃあ、どういうことなんだよ」
「だって、そうでもしなきゃ、私」
「何だよ」
「私のこと、何にも知らないくせに」
「俺は、千陽の為に、」
「そうじゃないんだよ、そうじゃなくって」
「何なんだよ、分かんねえよ千陽の言ってることが」
「私は、完ちゃんと」
「俺と?」
「もういいもん!」
「あ、おいどこ行くんだよ!」
「友達んち!」
――――
「まあでも、その方が良いかもしれないな」
その呟きは、修には届かなかった。




