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ユースフル!  作者: サツマイモ
第二章
20/38

一乃’s 001 「完哲さんが好きって、本当ですか?」

あの日―南万姉妹が再会を果たした日の翌日から、街は滅多にないほどの豪雨に見舞われていました。


二人分のお茶を入れて、私は窓に向かって、一乃さんは窓に背を向けて、それぞれ座っています。他の人たちはどうしているのかと言えば、私にはわかりません。


何しろ、2週間前からずっと、私抜きで外に出ているんですもの。


2週間前は、私の見張りとして子歌さんを、先週は十音さん、そして今週は一乃さんのようです。


なんだか、仲間外れにされているようで良い気はしませんが、巻き込まないようにしようという意志がひしひしと伝わってくるので、これ以上の言及は避けようと思います。


ともあれ、今日。


一乃さんについて、ある重大な情報を子歌さんから聞いていたので、そのことで盛り上がろうと思っていました。


「ありがとうございます」


一乃さんは、私の淹れたお茶の入ったコップを手に取り、少し上にあげるしぐさを見せました。


私は、「いえいえ」と返します。これくらいは、できますので。


「すごいですねぇ、雨。これで、2週間連続ですよね」


私の、落ち込み交じりのつぶやきに、彼女はそっとフォローしました。

「でも、これだけの雨が降れば、万年の水不足が解決されるでしょうし、そもそもこの時期はこれくらい降るので、問題ないと思いますよ」


優しい微笑みに、私は少しお姉さんのような雰囲気を感じます。


錦塚一乃。高身長で、すらりとした体型。その身長の腰まである、白髪交じりの髪。キリっとした瞳に、柔らかい笑顔。そして、底なし沼より深い知識。人間を超えた完全記憶能力。


「過去20年のデータを振り返っても、そうですね。大体これくらいの頻度で降り続けましたし。強いてあげるとするなら、少し寒いくらいですかね。20年の平均は、23.4度ですけれど、今年は……17.2、33.6、52.2、66.4、86.5、106.3、122.7、139.2、156.5、172.1、194.4、208.7、228.2、241ですので、14で割れば、17.214。17.2度くらいですね。確かに、こうしてみると、今年は相当寒いようです」


ちゃんと時計を見ていないので正確さは欠きますが、それでもこれだけの台詞を長く見積もっても20秒くらいで言われると、何が何だかさっぱり分かりません。


目の前で―誰もいない、二人だけの居間の、机を挟んで向かい側で―、私は何を聞かされているのでしょう。


「す、すみません。今、何をしていらっしゃるのですか?」

「ええと、ですから2週間分の温度の平均気温を」

「暗算でですか⁈」

「まあ」

「……」


私の想像をはるかに超えた状況が、ここにありました。

ただでさえ、あのスピードは物事を話すにふさわしくないスピードでしたし、その上―というか、並んで―、暗算までしていたのですか。


小数第1位ですよ。

割り切れていないのですよ。

怖すぎます。


「でも、これくらいならできる人もいると思いますよ?」

「そ、そうなんですかね」


そんな化け物がいたら、とっくにここに入っていると思うのですが。


「まあ、そんなことはどうでもいいとして」

「そんなこととは」


頭の上に疑問符をいくつか並べている彼女に、私は単刀直入に尋ねます。


ぶっちゃけます。


「あの、子歌さんから聞いたんですけど」

「何でしょうか?」


きっと、彼女の頭の中では今、スーパーコンピューターもびっくりなほどの計算をしていることでしょう。あるいは、記憶を探っていることでしょう。


もしかすると、彼女はもう答えに気づいたのかもしれません。

それでも体を崩さない彼女に、私は尋ねます。


「完哲さんが好きって、本当ですか?」

「ええ。まあ」


即答でした。

あっけなく、あっけらかんと、そう答えました。


「……へ?」

「それが、どうかされたのですか?」


この人、完全に不思議そうにしている。

とぼけているんじゃない、単純に訊いている!


「ほ、本当ですか?」

「ええ」

「嘘偽りなく?」

「そうですね」

「と見せかけて?」

「何が言いたいんですか?」


少しイラついてきたみたいなので、ここまでにしましょう。


「いえ。いやあ、そうなんですね」

「もちろん。女子ですので」


まさか、一乃さんからそんなおませな言葉を聞くだなんて、思いもしませんでした。


「いつからですか?」

「出会った時からです」

「それは、本人に伝えましたか?」

「いいえ、まったく」


表情を一切変えないので、私は本当なのか嘘なのか分かりませんでした。


「……どうしてですか?」

「この関係で十分だからですよ」


これだけは、彼女の声が、少しだけ嘘を隠している気がしました。

気がしただけなんですけどね。


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