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ユースフル!  作者: サツマイモ
第一章
19/38

子歌’s 007 「じゃあね」

「あの、みなみさん」


「……なんでしょうか」


「どうして、こんな嘘を吐くのですか?」


これはきっと、私じゃなくても気づいていたと思います。

例えば、リーダーだったら、綺麗に解決するのでしょう。

一乃さんだったら、対面前にばっさり言うのでしょう。

それくらい簡単なことで、単純な事でした。


「……鋭いですね、あなた」


職員室に移動し、私達は緑茶を飲みながら、話すことになりました。


「あなたが、歌葉さんなのですよね?」

「ええ。そうです」


つまり、選択肢の一つ、『孤児院で働いている』が正解だったのです。


「どうして、分かったのですか?」


「一番最初に対面した際、一瞬だけたじろいだ時に、少し怪しいなと思っていたのです。彼女は、緊張で気づかなかったみたいですけど」

「まさか、見つかるだなんて、思ってもみませんでした」


「そして、あなたのお名前で、確信しました」


栃みなみ。

栃は、つまり十千。Ten thousand。一万。

みなみと、一万。

すなわち、南万。


「どうして、あの時に言わなかったのですか?」


未波さんの質問に、少しだけ詰まりました。

何が正解か、分からなかったから。

言ってしまえば格好いいですけど、きっとそんな事ではないのでしょう。

口をはさんで間違えたら怖かったから。


「……きっと、合っていたとしても、あなたは嘘を貫き通したでしょうから」

「そうですね」


彼女は、そう言って、優しくうなずきました。

耳をくすぐるような吐息が、職員室中に広がります。


「どうして、そんな嘘を吐いたのですか?」


私は、再度問いかけました。


「そうですね」


お茶を置いて、彼女は答えました。


「もう、お姉ちゃんを困らせたくなかったから、でしょうか」

「どういうことですか?」

「きっと、お姉ちゃんは、私と再会するまで何度でも、能力を使うでしょう?」


そんなことは無い、わけがありませんでした。


「だから、これで終わりにしてほしかったのです」

「……そうだったんですか」


彼女の真意に、私は口をつぐむしかありませんでした。


「一応、これだけ渡しておいてもらえますか?」


彼女は、机の中から手紙を取り出しました。


「証拠ってやつです」

今の彼女ほど、笑顔が悲しい人も、そういないでしょう。

自分を忘れてもらうために、姉を突き放す。

そんな悲しく、辛いことがあって良いのでしょうか。


「分かりました」


それでも、私が何かをしていいわけがありません。

姉である子歌さんが悲しんでいるのも重々承知で、妹さんの方も辛い思いをしているのを分かったうえで。

何かをしていいはずが無いのです。

これが、妹さんの答えなら。


「渡しておきますね」


孤児院を出た後、私達は夜中の街をゆっくりと歩きました。


「……大丈夫ですか?」

「……だいぶ落ち着いた」

小さい声で、彼女は呟きました。


「そういえば、これを渡してくれと言われていたのでした」

本当は、タイミングをうかがっていたのですが、もう落ち着いてきたというのであれば、問題はないでしょう。


「手紙?」

「妹さんが亡くなる前に、綴ったものだそうです」

「ふーん」


彼女はそう言うと、ゆっくりと開けて、中身を見るや否や、私に突き返しました。


「この、クソ妹が」

そう、残して。

「これ、読んでいいぞ」

子歌さんは、そう言いました。

「え、でも」


私がたじろぐと、彼女はそっと優しく呟きました。


「私の妹は強い。それを、自慢したいだけだ」


渡された手紙には、彼女の妹らしい台詞の数々が、ちりばめられていました。


――――――

私の大好きなお姉ちゃんへ。

お元気ですか? なんか、こういう手紙を書くのは久しぶりで、とても恥ずかしいです。

これを手にしたってことは、私の存在に気づいてくれたのかな? そう信じて書いています。

私は、記憶があるその時から、姉がいるってことは知っていました。

全ての記憶が、私の中にありました。

私の姉は、不器用で、言葉が悪くて、態度が悪くて、意地が悪くて、往生際が悪くて、勇敢で、格好良くて、可愛い、少女です。

優しく、友達思いで、妹思いな、その辺の少女なのです。

そのことを、思い出してほしいのです。

きっと、あなたのことだから、これまでのデータをあら捜しして、敵を見つけては、妹の居場所を探すのでしょう。何回も見ましたし、何回も巻き込まれました。

自分の命まで投げ捨てて、あなたは何度でもこの時を過ごしましたね。

もう、良いんじゃないですか?

私は、どちらにせよこの日に死ぬ運命なのですよ。

確かに、怖くないと言ったら嘘になります。とっても怖いです。

殺されるのか、病気なのか、自殺なのか、事故なのか。

全然分からないから、本当に怖いです。

本当は、助けてほしいと、思っています。

でも、それと同じくらい、お姉ちゃんには迷惑をかけたくないという気持ちもあります。

だから、私は、今度こそ後者を選びます。

なぜなら、私はお姉ちゃんに生きていて欲しいから。

殺されては運命に抗おうとするお姉ちゃんを見るのは、もう嫌なんです。

ついこないだだって、あなたはあなたの為だけに、千陽さんに殺してもらいましたよね?

もう、そういうのは止めましょう。

大丈夫です。私はもう、大丈夫です。

運命に、従う準備はできています。

だって、私はお姉ちゃんの妹ですから。

もし。もしも、来世というのがあったとしたら、勇敢なお姉ちゃんが、きっとまた見つけてくれるでしょう。その時、私が困っていたら、またいつものようにお姉ちゃんをしてください。

最後に、一言だけ。

本当に、ありがとう。大好きだよ。じゃあね。

――――――


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