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ユースフル!  作者: サツマイモ
第一章
18/38

子歌’s 006 「妹―南万歌葉(なんばん うたは)は、いらっしゃいますか?」

これは、部屋を出る数十分前のこと。


「はい、これで全部印刷し終わったよ」

「あ、ありがとうございます」


私達は、彼女の持つデータを全て印刷し、隅から隅まで探し続けました。


「でも、手掛かりなんてあるのか?」

「まあ、でも探さないことには始まりませんよ」

「そうだな」


一生懸命探し続けました。

時間なぞ気にせず、ひたすらに。

こうでもない、ああでもない。

意見を戦わせ、すり合わせて、照らし合わせて。

表裏両方に印刷してもなお100枚を優に超える印刷物を、くまなく。


そして、何度も何度も登場する名詞にはチェックを入れ続けました。


「これ、圧倒的に多いぞ」


気づいたのは、子歌さんでした。


「どれですか?」

「『ひかりのおか孤児院』」


指し示す先に、その文字列はありました。


「孤児院って、どういうことですか? 妹さんは、妹さんなんですよね?」


「とりあえずこの文字が書かれているプリントだけを探すぞ」

「はい!」


1回目。王宮と姉妹で戦った結果、妹の記憶が失われた。


2回目。妹を助けようと試みるも、結局記憶は失われた。


3回目。妹を助けようと試みるも、自分の命が消された。


5回目。妹とは関わらないことを決意するが、後に一人で王宮に立ち向かったのを知った。


8回目。妹に王宮へ関わらないように促すも、失敗に終わった。


13回目。とうとう、妹はいなくなった。孤児院で一人いるところを発見。


21回目。妹との記憶が曖昧になる中、孤児院での再会を果たした。姉妹になった。しかし当日、妹は亡くなった。


34回目。断片的な記憶を頼りに孤児院に向かうと、懐かしさを感じる女性を見つけた。


55回目。妹は、いなかったのかもしれない。


89回目。今回。


全てを読み明かしていた結果、いろんな説が浮かび上がりました。


「まずは、『孤児院で働いている』という説。これが、一番有力ですよね」

「そうだな。あと、姉妹ではなかったルートでは『のちに、妹になった』というのもある」

「いわゆる、養子縁組という奴ですね」

「そうだ」


「では、この二つのどちらかが、今回のルートの結果という可能性が高いですね」

「多分そうだろう」


私の夢の話は、きっと5回目もしくは、8回目というところでしょう。

なんとなく、そう感じました。


「じゃあ、ある程度の荷物を抱えて、行くぞ。きっと、1日じゃ終わらないだろうから」

「分かりました」


こうして、私達は旅に出たのでした。


「ひかりがおか孤児院」

看板に、優しい文字で書かれたその建物は、周りの建物に浮かぬほどの、優しい色合いを加味した、ほんわかとした建物でした。


「ここに、いるんだよな」

「多分ですが、きっと」


計り知れない緊張感が、私達を包み込みます。

辺りの暗さと、昼間よりもさらに冷える世界は、私達から勇気を奪っていきそうでした。


「……やめておきますか?」


私の一言に目もくれず、彼女は決意しました。


「いや、行こう」


強い眼差しに、私は全力で答えようと頷きました。

檻のようなドアの隣のインターホンを、ぎゅっと押すと、中から声が聞こえてきました。


「はーい。どちら様でしょうか?」


私の気のせいかもしれませんが、建物の入り口から出てきた彼女は、少しだけたじろいだようでした。

一つにまとめ左肩におろす髪。淡いピンク色の縁の眼鏡の下から見える、たれ目。綺麗な手先。おっとりとした雰囲気を全身から感じます。


これが、大人の女性ってことなのでしょうか。


「あ、あの」


子歌さんが、珍しく緊張しています。

指先から、心臓まで固まっているのではないかというくらいの緊張のしようです。


「妹―南万歌葉(なんばん うたは)は、いらっしゃいますか?」

「……」


彼女は、静かに黙りました。

それは、答えに困っているような表情で、必死に考えている表情でした。


「よかったら、お入りください」


彼女は、檻のようなドアを開け、そして中へと誘導してくれました。

彼女の表情は重く、暗く。

子歌さんの表情は、少しだけ明るく。

世界はなんて残酷なのかと、この時はまだ知らなかったのです。


(とち)みなみと言います」

重い足取りで私達を誘導する彼女は、歩きながら自己紹介をしてくれました。


「あ、ええと、東、じゃなくて紫咲千陽です」

遅ればせながら、私も返します。


「説明は、要りませんよね?」

「……はい」


二人は、阿吽の呼吸で会話をします。

廊下の両側は、一人身となってしまった子供たちの遊び場になっていました。


「結構、いるんですか?」


私は、唐突に質問をしました。

すると、彼女は優しい微笑みで、「だいぶ、減りましたよ」と答えてくれました。


「里親になってくれる人も多くて。今6人だけです」

「そうなんですね」


減少する孤児に、喜びを覚えつつ、あと少しの孤児にも応援の声を。

私は、そんな風に考えていました。


「……開けますね」


一度深呼吸をして、彼女は重くドアを開けました。

ゆっくりと、じっくりと。



「……そ、そんな」


職員室のような部屋の隣の、小さな納屋のような部屋でした。

ドアを開けたその目の前に、それがありました。


「これが、南万歌葉さんの仏壇です」

恐ろしい現実を突きつけられた時、人は声すらも挙げられないほどに、受け止められずに、ただじっと立ち尽くすのでした。


「……」


覚悟は、確かに決めました。

どのような結末であれ、可能性があるのは分かっていました。


ただ、それでも。


昼間の彼女の笑顔や、徹夜で探し、見つけ出した時の達成感を感じた矢先の絶望は、あまりにも心に突き刺さりました。


「やっぱりか」


子歌さんは、静かにそう呟くと、おもむろに外に出ました。


「ちょっと、外の空気吸ってくる」



外に出た彼女のむせび泣く声は、苦しく重い空気の私達のところまで響き渡りました。


二人の静寂を切り裂く、彼女の声は、きつく心を締め付けました。


何もできなかった私は、ただじっと、その声を聴いていたのでした。


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