子歌’s 005 「どこかで休憩しますか?」
「もう少しで着くかなぁ」
子歌さんは、吐き出すため息に声を乗せながら、うなだれました。
体を蝕むほどの暑さではないとはいえ、それでも小一時間歩き続けているので、私もそろそろ疲れてきました。
「どこかで休憩しますか?」
「そうだね」
私達が、いったいどこに向かっているのか、そろそろここでその情報を開示しなければなりませんよね。すっかり忘れていました。
向かう先は、妹さんがいるかもしれないというところで、それは、この国の真反対に位置する地域です。
「あ、食事処があるぞ!」
子歌さんは見つけた瞬間、飛び上がってはしゃがむを繰り返しました。
そんなに嬉しかったのですね。
「では、そこで一度休憩しましょう」
店の外までする、甘い香り。
扉を開けると、そこは甘いお菓子などを売っている店のようでした。
「いわゆる、スイーツとか甘味処とかいうところだね」
入り口の真ん前に、多種多様な料理が並べられていました。
「ドーナツにケーキ。あんみつ、ようかん。ういろうに、月餅。色々あるねぇ」
子歌さんは、並べられたスイーツとやらをまじまじと眺め、吟味しています。
「子歌さん、こういうのお好きなんですか?」
「まあね。隣国の和菓子ってやつとか特に好きだよー」
あんみつを見つめながら、彼女はめんどくさそうに答えます。
「そうなんですね」
意外と甘いもの好きという情報を手に入れた瞬間でした。
それがどうとかは、別にないんですけどね。
「あの、この緑色のやつって何ですか?」
「ああ、それは抹茶だよ。抹茶アイスだね。良いセンスを持っている」
「そうなんですか」
まっちゃというのがいったいどういうものなのか分かりませんが、この色や雰囲気は、そそる何かを感じます。
「私、これにします」
「じゃあ、私は隣の黒糖あんみつ!」
座るところは、全席テーブルになっていたので、話がしやすく、非常に助かります。
「あ、あの、根本的な話なんですけど」
「難題?」
唐突な、ボケなのか天然なのかただの言い間違いなのか定かではないことを言い放つ康太さんを、私は軽く流します。
「いえ、そこまででは」
「あ、ごめん違った。何だい?」
分かってよこれくらいのギャグ、みたいな顔でふてくされながら、彼女は訊きなおしました。
いや、分かりませんよ、そんなギャグ。
「5人の関係って、どうなっているんですか?」
錦塚一乃さん。北三原百菜さん。東十音さん。南万子歌さん。そして、真中完哲さん。
どういう経緯で仲間になったのか、私は気になっていたのです。
「ええと、簡単に言うと、初期メンバーは、私と完哲。そこに、百菜・一乃・十音の順番だったかな。それぞれ、産まれの地域は違うんだけど、まとめて王宮の爆弾の餌食になったからね」
「そうなんですね」
王宮の、爆撃事件。
私は王宮側にもかかわらず、その事実を知りませんでした。
「この国ってさ、領土がちょうど円になっているでしょ?」
すると、彼女は背負っていたバッグからノートとペンを取り出しました。
「ええと、こうやって、こんな感じに」
標高3000m近い山を中心とした、半径30kmくらいの小さな国です。
「ここが、王宮ね」
王宮はその円の真東に設定されています。
「それで、うちの本拠地がここ」
中心からまっすぐ南に下りたところが、本拠地らしいです。
そういえば、古語や隣国の言葉、それから数学や世界公用語、科学まで教わりましたけど、こうした地理や歴史というのは、一切教わっていませんでした。
「今、ど真ん中の盛況街を抜けたところで、目的地はここ!」
ペンのついた先は、盛況街から少しだけ西に進んだ位置でした。
なるほど、ではあともう少しで着くのですね。
「そうだね。ちなみに、その先に行くと、一乃や十音、百菜の故郷だよ」
真西が、我々。
真東が、王宮。
わかりやすい対比ですね。
「ありがとうございます」
「いえいえ」
その後は、何気ない話からたわいもない話まで、一から十まで話し明かしました。
「じゃあ、そろそろ行こうか」
「そうですね」
体力は完全まではいかなくとも、相当回復し、私の足は軽くさえ感じました。
「行きましょうか」
外はすっかり冷えていました。
空を見上げればオレンジ色が広がり、太陽が帰路についていました。
「太陽のあるうちに着きたいと思っていたんだけどな」
彼女は、残念そうに言いました。
「でも、夕方って忙しいでしょうから、むしろ夜の方が良いんじゃないですか?」
「そうかな」
本当に真っ暗になるという空の中、雨も降らず雲もない、満月が美しく映えている夜。
私達は、目的地にたどり着きました。
「ここが、あの」
「そうですね」
私達の目的地。
それは、孤児院でした。




