子歌’s 004 「私達はね、自己中心(ヒーローまがい)の集まりなんだよ」
「王政反対! 滅べ、王宮! 守れ、我らの平等!」
世界は、回る。
誰もが平等の際果てまでたどり着こうとし、そして階級の限界にたどり着く。完全な平等など、完全な階級制ほど存在しない。それでも、人間は限界のその先を見ようとする。
希望の光と信じて疑わない。
それが、絶望の始まりでも。
ここは、王宮に最も近い運動公園。程よいほどに整地された、だだっ広い広場は、いつもスポーツを楽しむ子供たちや、お金の足しにしようと屋台を営む人々の憩いの場となっていました。しかし、今日はその『いつも』ではありませんでした。
特別で、特異な日のようです。
あれから。
私と子歌さんが握手を交わした後、さっそく動き出しました。
「あの、データはこれですべてですか?」
「いや。本当はもう少しあるんだけど、あんまり関係ないことだろうから……」
「それもください」
「え? 別に、良いけど」
それから、二人で隅から隅まで、重箱の隅を楊枝でほじくるように、微に入り細を穿って、妹の存在を調べつくしました。
結論から言えば、残る可能性は二つということ。
それらを潰すためには、やはりフィールドワークを要するようです。
その可能性の一つは、一つの家族の中にいるということ。ちゃんとした親の元にいる、娘ということです。
そして、もう一つは孤児になっているということです。
そのどちらの可能性も受け入れる覚悟を、彼女と共にして、私達は本拠地を出ました。
歩く道のりは優しく、私達をそっと抱きしめます。
暖かい太陽の日差しに、優しいそよ風。
幸先のよさそうな、いい天気です。
「にしても、君がそんなに活発な人だったとはね」
元気に笑う彼女に、私は少し照れて、「いえいえ」と頷きました。
「てっきり、もっと受け身な人なのかと思っていたけれど」
「ずっと、抑え込まれていましたから」
牢獄みたいな王宮。
翼を手に入れた私は、皆さんの為に働きたいのです。
「ちなみになんだけどさ」
手を頭の後ろで組んだ彼女は、少し照れくさそうに尋ねてきました。
「完哲のことどう思ってんの?」
「……へ⁈」
余りにも唐突な質問に、私は彼女を見つめてしまいました。
「え、ああ、ええと、別にそんな深い質問じゃなかったんだけど……」
「別に、人としては尊敬していますが、これと言って特別な気持ちがあるわけではありません」
とっさに否定しましたけれど、否定しましたけれど。
「私には、修がいるので」
「おお」
口笛を勢いよく鳴らして、彼女は微笑みました。
「上手くと良いな」
小鳥が、爽快に囀っていました。
「……あれ」
そろそろ疲れたな、とか言い合い始めた矢先のこと、目的地の付近にその姿がありました。
まっしろの鉢巻きに、赤字で『平等』と書かれています。ところどころ穴が空いている服を身にまとう彼の眼は、鋭くとがっているような気がしました。
「大丈夫?」
両肩を抱いて宥めてくれたのは、子歌さんでした。
「最近、また激しくなってきたんだよね」
「なんですか、これは」
見たことも、聞いたこともない、それでも統制の取れた人々が、ある一点に向かって歩いている図は、恐怖すら感じました。
「これはね、『世界平等結社』なんだよ」
それから、簡単に説明を受けました。といっても、あくまで秘密結社で、初めから秘密で、最後まで結社なので、外部に情報は漏れず、「そんな感じ」くらいにしか分からないそうです。
「……でも、そのフレーズに聞き覚えがあります」
あの夢。
そこに、その単語は出ていました。
「あれは、敵なのでしょうか」
「……まあ、やっぱりそこは、王族の血っていったところかな」
彼女の言っていることがよく分からず、私は問い直します。
「どういうことですか?」
「王族ってのは、国を―もっと言えば、国民を守らないといけないだろう?だから、ある程度敵か味方か見切りをつけた方が良いっていうのは確かにある。それ自体は間違いじゃない。でもね、その考え方は良くないんだよ」
「……詳しく、お願いしてもいいですか?」
「分からないこと、知らないことに対する態度、完璧だね。大好きだよ。で、その話なんだけどね」
彼女は、少しだけ間を空けて、それから色々なところに配慮するように、慎重な言葉を選びました。
「それを、善と考えている人、もっと言えば、社会の為だと本気で思っている人もいる。
「ましてや、私達なんか自分のことしか考えていない。
「どちらが社会にとって大切なのか。火を見るよりも明らかだよね。
「でもさ、両方間違っていて、両方正解なんだよ。
「私は、そう思う。だから、暴力的に対立するべきではないと思うってこと。
「なんか、難しい話になっちゃったね。忘れて」
「いえ。すみませんでした」
「いいのいいの」
世界には、いろんな人がいる。
その全員が間違っていて、その全員が正しい。
そういうことのようでした。
「これだけは言っておこう」
くるっと体を反転させ、私を見つめます。
綺麗な鼻筋に見蕩れていると、彼女は冷たい言葉を投げかけました。
「私達は、英雄でも、人気者でもない。正義の味方でも、悪の敵ですらない」
牢獄のような王宮を抜け、たどり着いた希望の光。
私の理想は、幻想でしかないと言われているようでした。
心に刺さり、苦しいです。
「私達はね、自己中心の集まりなんだよ。勝手に助けようとして、勝手に反抗しているだけ。反抗期の野郎どもってところなんだよ」
冷たくも、熱い言葉を、彼女は笑顔で私にぶつけたのでした。




