子歌’s 003 「妹が、この世界にいるんじゃないかって」
「これは私のデータなんだが」
指をさすところを見ると、そこには私にも読める字が書かれていました。しかし、その事実を信じられず、私は思ってもみない声を挙げました。
鋭い目つきの子歌さんに怯えつつ、私は尋ねます。
「……妹、ですか?」
「ああ。そうらしい。もっとも、私にそんな記憶はないし、感覚すら残っていない」
腕を組みなおし、彼女は続けます。
「でも、このデータはこの前から、全て当たっているんだよ。君がここに来ることから、そのすべてが」
全てが当たっている。まるで、それは未来予知のようなものでしょうか。
「未来予知、あるいは、循環」
彼女は、下を向いて少し考え、そして前を向いた。
「それが、私の結論で、私の能力」
時間旅行。
てっきり私は、過去や未来に行くような、そんな大きな旅行を考えていましたが、実はそういう類のものではなく、ある一定期間に何度も飛べるということ。
「なんだか、時間旅行という名前が紛らわしいんだけどね。それは、私も考えてる。だから、もしかするとこの仮説も間違っているのかもしれない」
そう淡々と述べる彼女は、優しい笑顔を見せています。
「ただ、想い出巡りの旅だとしたら、意外と間違いじゃないかもって。そして、その後悔を、やり直したいことをやり直すってことをしたいのかもしれない。それが、私が願った能力なのかもしれない」
想い出巡りの旅。
妹がいた、最期の時を、永遠に繰り返す。
それが終われば、また次の分岐点へと足を踏み出すのでしょうか。
「さっきからずっと調べていたんだけど、やっぱり私の妹については何も書いてなんかなくってね。でも、君の話を―君の夢の話を聞いて、なんとなく思ったんだよね」
鼻をすすり、窓を見ます。
いつの間にか、雨はやんでいました。
「妹が、この世界にいるんじゃないかって」
避難所巡り。
唐突に、私はそれを思い出しました。
ただ、それだけのことだったのですね。
「子歌さん」
気づけば、私はそれを口走っていました。
彼女の表情を見て、私は言いました。
それが良いことなのか悪いことなのか、きっとこれが終わった後でも分からないでしょうけれど、でもやってみないことにはわかりません。
「探しに行きましょう」
たった一言。されど一言。
彼女の心には、どう響いたのでしょうか。
「あのな、簡単に言うけど、毎回のように状況が違うんだぞ? ありていに言えば、繰り返せば繰り返すだけ、別のシナリオが描かれているんだぞ? 今回だって、妹の存在を知らなかった。妹だって、きっと私の存在なんか知らない。そもそも、妹がいるのかどうかすら分からないのに」
「そういうことじゃないですよ」
絶対に見つける。
そして、再会する。
そしたら、全てを思い出す。
そんな夢物語を語っているのではありません。私は、なんとなく嫌な予感がしているだけなのです。本当だったら、一人で先に確認したい所でしたが、そうもいかないでしょう。
「一人で堂々巡りを繰り返すんだったら、いっそのこと私の所為にしませんかってことです」
永遠に回り続ける旅行ならば、それを斬る方法は一つ。
現実を受け入れて、前に進むこと。
「何があっても、私はあなたの味方ですと、そう申し上げているのです」
だったら、一歩を踏み出さなければなりません。
辛いこともあるでしょう。悔しいでしょう、苦しいでしょう。
そのすべてを、私にぶつけてください。
「だから、お願いします。もう、泣かないでください」
愛する方の涙など、見たくないのです。
「……分かった」
私には、もう一つ、懸案事項がありました。
『夢が本当なのかどうか』
それが本当だとすれば。
確かめるためにも、私達は一歩先へ進まなければなりません。
晴れ渡る空に誓いを立て、私達は握手を交わしたのでした。




