子歌’s 002 「あなたって、王宮の出身かしら」
「へえ、そんなことが。容量の小さい脳の中でも、それくらいの想像はできるのですね」
「やっぱり、そうでしたか」
彼女の悪口も軽く受け流し、私は思考し始めます。
彼女風に言うならば、愚考なのでしょうが。
「でも、だったらどうしてこんな夢を、見たのでしょうか」
「知らないですよ。まったく。私の時間を奪わないでくださる?」
そう言うと、彼女はまたも画面の前に着席し、先ほどの作業を再開しました。
その流れは、一乃さんとまではいかないまでも、一流の使い手と呼べるにふさわしいほどの、無駄のない綺麗なものでした。
「いやいや。これくらいのことで、褒めないでくださいますか?」
深いため息をつき、彼女はうなだれました。
「すみません」
外の天気は未だに晴れることはありません。
机の上のブドウは、静かにこちらを見つめているようで、少しだけ私は緊張をしてしまいます。
会話の無くなった二人だけの空間に、機械の駆動音だけが響きます。
「……あ、あの」
「何ですか?」
イライラする気持ちを前面に押し出した声で、彼女は尋ねます。
「先ほどから、何をしていらっしゃるのですか?」
「……」
彼女は、何も応えませんでした。
画面を見ても何も分からない私は、直接本人に聞くしかないのです。しかし、その本人が答えてくれないことには、何も解明できません。
「私から、質問させていただいてもよろしいかしら?」
唐突に、彼女は尋ねます。
画面を見つめながら訪ねる彼女に、私は困惑しながら問い返します。
「何でしょうか?」
彼女は画面を見つめたままで、その表情―感情は、読めませんでした。
「あなたって、王宮の出身かしら」
……。
もうそんなことでおどける私ではありません。
「どどど、どどどど、どうして、そう思うのですか?」
ね、言いましたでしょう?
「いや、分かりやすすぎませんか? まあ、良いですけど」
ふうっと一息ついて、彼女は回転しました。
その仕草でようやく、私は「この椅子って、回転するんだ」ということに気が付きました。
発見、大事です。
「いえ、特に理由は無いのですが。まあ、今抱えている案件について、あなたが王宮の人であると色々解けることが多いので」
そう言うと、彼女の隣の巨大な機械が急に音を出して動き始めました。
すると、小さな隙間から紙状のものが出てきました。
「ここって、凄い機械が多いですよね」
「多分凄いのは、それくらいの知識で10余年生きられたあなたの人生だと思いますけどね」
出てきた紙を手に取り、そのまま私の目の前に差し出しました。
その紙には、びっしりと文字が書かれており、逆に隙間で文字が浮かび上がってきそうなほどでした。
これを見せつけて、彼女は何をしたいのでしょうか。
「王宮の人とわかったことですし、これから丁寧語を使うのは止めます。その方が、話がしやすいと思うので」
瞳が潤んでいるのを、確認できました。
やはり、ここにいる人たちはいろいろなものを抱えています。
王宮と対立しているのも理由があり、その理由を―目的を実行するためには、自らの犠牲さえいとわない。その姿勢を感じられます。
もちろん、王宮側にも理由はあるのでしょう。
何が元で、何が引き金で、何が原因で、何が発端で。
何が起きて、何が起こって、何が始まって、何が終わったのか。
唐突に、唐突な、唐突で、唐突の。
先ほどから唐突でしかない彼女の動きに戸惑いながらも、私は静かに頷きます。




