百菜’s 008 「私の、友達(かのじょ)に、手を出さないでください!」
「美味しかったよ」
ドアを開け、外に出てきた二平御舟は、歯の隙間につまようじを挟んでいました。
「さあさあ、帰りましょうぞ、お嬢ちゃん」
「私は……帰りません」
「そうですか。なら、仕方ありませんね」
瞬間でした。一瞬でした。刹那よりも刹那で、瞬きすらも遅く感じるほど迅速でした。
「はぐっぁああ!」
突然、修はその場に倒れこみました。
「修⁈」
修を見ると、そこには両目につまようじが突き刺さっていました。
「だ、大丈夫?!」
明らかに大丈夫ではない状況なのに、私はこれ以上の語彙はありませんでした。
「……これくらいなら」
自らつまようじを抜いた修は、そのまま立ち上がりました。
「でも、それじゃ」
「……すみません、全く見えません」
二平御舟は、それだけで済むような人間ではありませんでした。
駆け寄った私の足につまようじを投げ込みました。
痛みで立ち上がれない彼は、私に近づくや否や、
「多少の怪我も、良しとしてくれるじゃろう。むしろ、お嬢ちゃんには死んでいただいた方が良いかもしれん。そうすれば、民意も味方に付けて、青春結社を今度こそ叩き潰せるじゃろうなぁ」
とつぶやきながら、首に何かを巻き付けます。
なにこれ?
なんですか、これ?
嫌です、嫌です。
まさか。
「爆弾……ですか?」
「大正解じゃ」
ニカッと笑い、彼は手元のスイッチを見せつけます。
「いつでも、押してもいいんじゃよ。帰ってくるというなら、外してやってもいい」
「……いい加減に、してください」
「ん?」
声の主は、百菜さんでした。
しかし、その表情、雰囲気から、百菜さんと推測するのはほぼほぼ不可能でした。
「……百菜さん?」
恐怖のあまり零れる涙を拭いて確認しても、やはり百菜さんでした。
「私の、友達に、手を出さないでください!」
……彼女?
彼女って、その彼女ですか?
百菜さんの怒りは、そのまま地面へと伝い、やがて二平御舟の足元へとたどり着きました。
「地獄へ落ちろ‼」
彼の足元まで伝った怒りのエネルギーが、その地面を真っ二つに割かせ、そのまま彼を突き落しました。
そして、彼は何も言うことなく―何の感情も残さず、その穴へと落ちていきました。
「……はぁ、はぁ」
ようやく、彼女は打ち勝ったのでした。
奇跡的に穴に落ちなかったスイッチを手にした彼女は、私に向かって、
「……どのボタンなのでしょう」
と尋ねてきました。
「いや、分かりかねるんですけど……」
「貸してください」
修は、自らの能力で両目を治し終わったようでした。
「ありがとう」
無事、爆弾は外れました。
「……カッコ良かったです、百菜さん」
「いえ、好きな人には生きていて欲しいですし」
彼女の笑顔は、青空よりも清らかでした。
「好きだなんて」
「知ってましたか?」
彼女は、楽しそうに言います。
「何が無くても、気づいたら友達になっているように、何が無くても、好きになることもあるんですよ?」
何かに気づいたかのような笑顔で、そう言いました。
「ありがとうございます、千陽さん」
「……」
何もしていない私は、純粋で無垢な彼女の笑顔に、ただ笑顔を浮かべることしかできませんでした。
リーダーなら。
彼なら、何と言ってあげるのでしょうか。
「では、食事に戻りましょうか」
食事中、彼らから連絡が来ました。
「あ、修、百菜さん。解決したようですよ」
「そうですか」
「なら良かったです」
贈られた写真は、十音さんが勝手に取ったのでしょう、彼の昼寝姿でした。
「……さすがですね」
おまかせの味と昼寝姿に懐かしさを覚えつつ、私は食堂を後にしたのでした。




