第135.5話「一番の早撃ちは」
廊下は走っちゃだめなんですが……足音からしてレッドですね。
保健室の引き戸がカラカラ音を立てて開かれます。
「てんてー!」
笑顔レッド、登場です。
手に輪ゴム銃持ってますよ。
「保健の先生! 保健の先生!」
「何、ポンちゃん?」
わたし、保健の先生に報告なの。
「何、ポンちゃん?」
「保健の先生はポワワ銃持ってますよね」
「ええ、それが?」
「シロちゃんが狙ってます!」
「え?」
「シロちゃんは撃ちたがりなんです」
「その撃ちたがりは知ってるけど、このポワワ銃を狙ってるの?」
「はい」
保健の先生、白衣の下からポワワ銃を取り出すと、
「これをねぇ……」
「あの警察の犬は撃ちたがりなんです、その銃を狙ってるんです」
「しかしねぇ」
「わたしの言ってるの、信じてませんね」
「いや……いい?」
「?」
保健の先生、ちょっとキョロキョロ。
ペットボトル持ってきて、診察用のベットに置きます。
それからポワワ銃で狙いをつけて「ポワワ」。
命中してペットボトル倒れます。
「今の見た?」
「はい、見ましたよ」
「ペットボトル、倒れたでしょ」
「はい、それが?」
「どうだった?」
「どうだったって……別に」
「でしょ」
「なにが言いたいんです?」
保健の先生、ポワワ銃をわたしに手渡すと、
「コレ、おもちゃみたいでしょ」
「ですね、ですね」
「それに、撃った感じも『ポワワ』なのよ、ポワワ銃なだけに」
「迫力がないと?」
「そう」
それを言われると、シロちゃんがポワワ銃を狙う事はなさそうです。
あの警察の犬は銃の感触や反動が好きっぽいの。
「ほら、私もプラモデルで作ったのよ」
白衣の下からまた銃を出しました。
シロちゃんの持ってる「スプリングガン」と同じようなのです。
見た目は本物っぽい。
「あ! 保健の先生も持ってるんだ!」
「最近のプラモデルはよく出来てるわね~」
「ですよ、なんだかコワイです」
保健の先生、スプリングガンを眺めてぼんやりしてます。
と、わたし、手にしている「ポワワ銃」を見ます。
今!
わたしの!
手の中に!
ポワワ銃!
そう、得物があるんです。
保健の先生には今までいろいろやられているんですよ。
「復讐するはわれにあり」なんです。
ついついにやけちゃうの。
「保健の先生っ! わたしに銃を渡しちゃいましたねっ!」
「チャッ」って感じでポワワ銃を構えます。
この距離だから外したりしないんだから。
それ、天誅です、発射です、引き金引いちゃうんです。
って……
あれれ?
「ポワワ」って輪っかな光線、出ませんね。
保健の先生、わたしと一緒になってポワワ銃を覗き込むの。
「どうしたの? 壊れた?」
「あ、先生、引き金引いても光線出ません」
「さっきペットボトルの時は出たわよ」
「ですよね」
「ああ!」
「どうしました!」
「コレ、これ」
保健の先生、わたしの手からポワワ銃を取ると、
「安全装置を外さないとダメよ」
「あ、そういえば映画なんかで定番ですよね、安全装置」
「そうそう、大抵の映画で弾が出ないのはコレよね~」
「あはは」
「うふふ」
わたしと保健の先生、笑っちゃいます。
でも、保健の先生、すぐに悪魔の顔になって、
「ゴラ、この豆タヌキっ!」
「!」
「今、私を撃とうとしたな、オイっ!」
「!!」
くっ!
やっぱり気付いていたんですね。
保健の先生、ポワワ銃を白衣の下に戻してしまうと、さっきから見せびらかしていたスプリングガンを構えて、
「試し撃ちしてみたかったのよ~」
「くっ! はめましたねっ!」
「ふっ! 今から逝かせてやるぜっ!」
こう、保健の先生、人が変わると大悪人です。
銃口をわたしに向けて、
「スプリングガンの威力を試させてもらうわよっ!」
「ちょ、それってすごい痛いからやめて!」
「痛いから撃つんでしょ!」
「ひ、人に向けて撃ったらダメって説明書に書いてあったはずですっ!」
「……」
あ、保健の先生、動きが止まりました。
でも、すぐに「ニコッ」ってして、
「タヌキだから、大丈夫だもんっ!」
って、バンバン撃ちました。
い、いたいっ!
肩や太ももに激痛ですっ!
わたし、のたうちまくり!
床をゴロゴロ右に左に!
シロちゃんも改造してたみたいだけど、保健の先生のも改造してあるんです。
「どう? 痛い?」
「し、死ぬように痛いです~」
「どのくらい痛い?」
「み、見てわかりませんかっ! のたうちまわってるでしょ!」
「うーん、そうねぇ」
保健の先生考える顔をして、頭上に裸電球が光るの。
「柱なんかにスネをぶつけた風な?」
「あー、なんだかそんな痛みです!」
「うんうん、なかなかの出来みたいね」
「せ、先生、わたし、先生を恨みます」
「もう2、3発食らいたい」
「うう……」
わたし、恨み節大盛りな目で保健の先生を見るの。
まだニヤニヤしてますね、いつでも撃ちそうな雰囲気です。
「人に向けて撃ったらいけないのに~」
「あんたが先に撃とうとしたでしょ!」
「撃ってないモン」
「引き金引いたよね」
「うう……」
事実だけになにも言えません。
「保健の先生はここで一番早撃ちかもしれません」
「なんで?」
「容赦ないもん、躊躇ないもん」
「そうかしら?」
「痛いって判ってても撃ちますよね?」
「まぁ、ね」
「普通躊躇しませんか?」
「ポンちゃんだって撃ったじゃない」
「うう……」
「でも、わたし、こーゆーの好きだから、負ける気しない」
って、足音が近付いて来ます。
廊下は走っちゃだめなんですが……足音からしてレッドですね。
保健室の引き戸がカラカラ音を立てて開かれます。
「てんてー!」
笑顔レッド、登場です。
手に輪ゴム銃持ってますよ。
「あたらしいの、つくったゆえー!」
「あら、輪ゴム銃ね」
「しんさくゆえー!」
「ふーん、レッド、器用ね」
「ふふ、しょうぶ、しょうぶ!」
「私にかなうかしら?」
レッドは輪ゴム銃を指にひっかけてクルクル回しています。
保健の先生は悪魔の顔になって、スプリングガンを舐めてるの。
『ちょっ! 保健の先生、まさか本気で撃つんじゃないですよね』
『私、今、泣きレッド、所望』
『な、なにカタコトになってんですか!』
『私は事、遊びに関しては手を抜かない事にしているの!』
『いい大人がなんですかっ!』
『心はいつも子供なのよ』
ああ、本気でやりあうつもりです。
保健の先生が勝って、レッドが泣いちゃうと、ある意味読者喜びます。
でも、大人がする事でしょうか?
どうなったか?
みなさんのご想像におまかせです!
「ポン吉、なにか言う事、ない?」
「毒キノコだらけだぜー、食えないから、もらってやるぜー」
このウソつきが!
「ほらほらー、ニュースで見たぜ、マジックマッシュルーム!」
ま、まじっくまっしゅるーむ! ポン村もいよいよ薬物汚染?