第134.5話「みどりの絵」
「ほせい、すごすぎ、おめめぱっちり」
ああ、知ってますよ、そんなアプリがあるそうです。
「ポン姉のどらやきも、いっしゅんでとうきょうどーむゆえ」
「それは大きすぎですよ」
わたし、チョップです。
今日はなぜだかポン吉のお隣なんです。
「ほら、寝ないでドリルをやる」
わたし、ウトウトしているポン吉に肘をお見舞い。
ポン吉はポワポワしたままわたしを見て、
「なにすんだ!」
「寝てるからでしょー」
「寝てないよー」
「舟漕いでた」
「首振りだい」
もう、肘です、肘。
ポン吉は頬をプウと膨らませて、ドリルに目をやります。
でも、一瞬ですよ。
すぐにまぶたが降りて来て「ウツラウツラ」になっちゃうの。
でもですね……
いつも「わんぱく」なポン吉です。
こんな大人しい時は「かわいい」もんです。
5分くらいは寝かせてあげますかね。
そして吉田先生の「髭ジョリ」の餌食になるのも面白いでしょ。
ああ、もう、机は枕になってます。
むむ……なんだかコンちゃんを思い出します。
でもでも、暇になっちゃいましたね。
いつもならレッドのお供なんですよ。
で、今日のレッドはというと、みどりと一緒なんですね。
レッドは今日も「画伯」をやってます。
みどりはその隣で一緒にスケッチブックを開いてるの。
どんな絵を描いてるんでしょうね?
見ればレッド画伯は「みどり」を描いてます。
なんていうか、普段は子供なレッドも、絵となると「スゴ腕」。
鉛筆一本で描いたみどりは、まるで写真みたい。
「レッド画伯、今日も冴えますね」
「おお、ポン姉~、そうでしょうか?」
「上手ですよ」
「しかし……」
レッド、自分で描いた絵とみどりを並べて「への字」口。
「そっきょうでかいたゆえ、たましいがいまいちゆえ~」
「魂とかいいますか」
「えはこころゆえ」
「上手ですよ」
「うつすだけなら、すまほでもできまする~」
「だからすごいんですよ」
「えはこころゆえ」
「そんなもんですかね」
「それにですね、すまほにはすごいきのうがあるんです」
「ほほう、なんですか、その機能って?」
「ほせい、すごすぎ、おめめぱっちり」
ああ、知ってますよ、そんなアプリがあるそうです。
「ポン姉のどらやきも、いっしゅんでとうきょうどーむゆえ」
「それは大きすぎですよ」
わたし、チョップです。
レッドは嬉しそうにしているの。
この仔キツネは、明るく言ってるけど、こっちのハートはグチャグチャです。
って、みどりの絵を見たらびっくり。
みどりもすごい上手です。レッド級。
「すご、みどり、上手!」
「ふん、ワタシにかかればこんなモンよ!」
「いや……こう、大したもんだ!」
「ふん、もっと褒めていいのよ、もっと褒めて!」
「うん、すごい、すごい……」
みどりの描いたの、レッドじゃないの。
さっきから寝ているポン吉。
レッドと一緒で鉛筆だけなんだけど、すごい画力です。
そうです、いい考えが浮かびました。
「ねぇねぇ、わたしを描いて、わたし」
「……」
「みどり、描けるでしょ」
「まぁ……いいけど」
みどり、神妙な顔でスケッチブックをめくります。
新しいページに鉛筆でサラサラ描き始めるの。
うーん、描いてる時間が短いから、さっき描いたポン吉よりは落ちます。
でも、即興で描いているけど上手は上手ですよ。
あっという間にわたしを描いちゃいました。
「ほら、どう?」
「すごいすごーい!」
「まぁ、ワタシにかかればこんなの簡単よ」
「で……」
「胸を大きく描くのよね」
「ふふ、わかってるみたいで、うれしいわ、みどり」
「……」
「胸、大きく描いてくれるよね?」
「……」
「ね!」
「……」
みどり、じっとわたしを見つめています。
レッドもわたしを見ていますね。
「で、描けるんですか? 描けないんですか?」
「……」
「レッド画伯は描けなかったけど、みどりは大人だから描けますよね」
って、レッドがみどりの腕を引っ張ってます。
みどりの体がその度にゆれるの。
「わかったわ」
「ふふ、聞きわけのいい娘は好きですよ~」
「ちょっと待ってて」
って、みどりは描き直し始めます。
でも、あんまり乗り気じゃないみたいですね。
渋い顔で鉛筆を走らせるの。
「これでいいの?」
出来上がったみたいですね。
おお、みごとにコンちゃん級の胸になってますよ。
「みどり、できるじゃないですか!」
「……」
「そうです、こーゆーふうに描けばいいんですよ」
「……」
なんですか、みどり、黙っちゃって。
わたしがみどりを……周囲を見たら、みんなどんよりした目でわたしを見てるの。
「みんな、なんか文句あるんですか?」
みんな、なんで残念な目をしてるんですか!
胸は女のステータスなんですよ、ステータス!
みどり、ぽつりと、
「アンタもつくづく残念ね」
みんなも頷いてます。
ほっといてくださいっ!
わたしがよろこんでるんだからっ!
「保健の先生! 保健の先生!」
「何、ポンちゃん?」
わたし、保健の先生に報告なの。
「何、ポンちゃん?」
「保健の先生はポワワ銃持ってますよね」