第132.5話「水あめ」
「これ、配達人、何か出すのじゃ!」
「ポンちゃんもコンちゃんも……でもでも……」
「でもでも?」
「何なのじゃ?」
「ミコちゃんにはお世話になっているので……」
「ああ、どうしよう、どうしよう」
ミコちゃんが頭をかかえているの。
どうしたのかな?
「ミコちゃん、大丈夫ですか?」
「ポンちゃん……どうしよう」
「どうしようって……どうしたんです?」
「おやつのレパートリーが……」
「って、またそれですか~」
この間、配達人が新しいプリンを持って来たじゃないですか。
「抹茶」「マンゴー」「黒ゴマ」のプリン。
他にもいろんなプリンがあったんですよ。
「あれだけ種類が増えたんだから、レパートリー大丈夫では?」
って、わたしが言ったらミコちゃん髪をうねらせながら、
「あれって全部プリンだったでしょ」
「うん、それが?」
「毎日まいにちプリンって訳にもいかないでしょっ!」
「むう……そんなもんですかね……わたしは全然いいんだけど」
「ポンちゃんはプリンが好きだからよ!」
「レッドもプリン、好きと思いますよ」
「でもでもレッドちゃん、一瞬切なそうな顔をするの!」
むう~
正直最近、プリン食べていません。
でもでもミコちゃんの話っぷりからすると、プリンはしょっちゅう作ってるみたい。
わたしもプリン、食べたいな~
「だから、新しいおやつを開発しないとっ!」
って、頭を抱えてうなだれるミコちゃん。
ため息をつきながら、奥に引っ込んじゃいました。
わたし、テーブルで「ぽやん」としているコンちゃんに、
「ねぇねぇ、コンちゃん、なんとかならない」
「はぁ……ポン、わらわにどうしろと?」
「コンちゃんも長生きしてるから、なにかアイデアないの!」
「わらわはお供えしてもらう側じゃからの」
「むー、コンちゃんもわたしと同じ食べる役なんだ」
「そうじゃの」
「でも、好きな食べ物ないの、好きなおやつ!」
「ふむ~」
「毎日あぶら揚げじゃ嫌でしょ?」
「うむ、確かに毎日同じでは、ちょっと残念じゃのう」
「なにかないの?」
「お団子やおまんじゅうも好きじゃの、ようかんもよいのう」
「ああ、残念、それって今までも出た事ある」
「ミコのお菓子はおいしいのう、正直わらわ、今までのレパートリーのローテーションでもかまわんのじゃ」
「でもでもミコちゃん頭抱えてます」
「うむ、たしかにのう」
コンちゃんからもアイデアは出そうにありません。
そこに配達人の車がやってきましたよ。
いつも「なにか」持ってきてくれます。
「ちょっと!」
「うわ、ポンちゃん、なに? 叩かない?」
「わたしいつも叩いてるみたいっ!」
「だ、だって……何?」
「ミコちゃんがおやつのレパートリーで苦しんでるの」
「え? この間プリンいっぱい持って来たのに?」
「うん……使いきっちゃったみたい」
「でも、適当に使い回せば半年くらい持たない?」
「わたしもそう思うけど、ミコちゃん満足しないみたい」
「ミコちゃんって……設定では長生きなんだよね」
「設定……」
本当は本当に長生きなんですよ。
弥生時代くらいまで遡る長生きさんなんです。
「長生きだと、こーゆー時惑うのかなぁ~」
「かもしれませんね、半年なんてあっと言う間なんでしょ」
「で、俺に何かないかって事?」
「ですよ、何か新しいおやつはないんですか?」
コンちゃんも近寄って来て、
「これ、配達人、何か出すのじゃ!」
「ポンちゃんもコンちゃんも……でもでも……」
「でもでも?」
「何なのじゃ?」
「ミコちゃんにはお世話になっているので……」
車に一度戻った配達人。
手に何か持って戻って来ましたよ。
「老人ホームに卸す筈だったけど、ちょっと待って貰えばいいかな?」
「それ? なんですか?」
大きなビンに透明な「なにか」が入ってます。
ムムっ!
もしかしてスライムとか?
配達人とわたし達、テレビ前のテーブルに腰を下ろすと、
「何か……お箸とかないの?」
配達人が言うのに、わたし、コンちゃんに目配せ。
コンちゃんすぐに術で「お箸」を出すの。
配達人、お箸を「一本」手にして、ビンの中に突っ込みます。
なんだか「ドロッ」っとした……いやいや「ベトベト」みたい。
本当にスライムっぽいですよ。
「はい、まずポンちゃん」
「?」
透明なベトベト。
配達人がニコニコして頷くのでペロリ。
「あまい……」
コンちゃんも貰って舐めてます。
「ふむ、甘いのう~」
「でもでも、あまいだけだったらアメなんかでも……」
「そうじゃそうじゃ!」
配達人、また「あまいベトベト」のついたお箸を「一本」くれます。
「でさ、二つを合わせてコネコネするんだよ」
「!」
わたしもコンちゃんも、すぐに「コネコネ」するんです。
配達人も一緒になってやってます「コネコネ」。
だんだん白く、粘りが強くなってきましたよ。
「水アメは甘いだけだけど」
「水アメって言うんですか」
「この、コネコネして白くなってから食べるのが美味しいんだよ」
白くなったら食べ頃なんだそうです。
「うん……さっきよりあまいかな?」
「なんだかそんな気がするのう」
「でも……」
「ふむ……」
わたし、コンちゃんに、
「なんだかちょっと楽しいかも」
「ふむ、コネコネ、楽しいのう~」
って、奥からどんより顔のミコちゃん出てきます。
わたしとコンちゃんを見て、すぐに表情が明るくなるの。
「きゃー! 水アメ! すっかり忘れてたわ!」
ビンを手にして小踊りしてます、超嬉しそう。
あ、レッドとみどりが一緒になって帰って来ましたよ。
今日のおやつは水アメですね。
「でもでも、不思議ですね」
「ふむ、何かの?」
「こう、ただコネコネするだけなのに……」
「確かに、何でかのう」
「コネコネしてると、なんだかすごく気合い入ります」
「コネコネしておると、確かにのう」
水アメをコネコネするの、なんで集中しちゃうんでしょうね?
レッドやみどり、千代ちゃんはお父さんと一緒に頑張ってます。
そんなみんなを見ていると、わたしだけなにもしないのはちょっとね。
社務所を飛び出して、境内をほうきではわくんです。
さっきまでお客さんでいっぱいだったから、ごみがいっぱい……
ごみ……