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魔法解放少年  作者: 雅弥 華蓮
第9章 tour
96/121

1 旅立ちの前哨

 哀叉に誘われて、「聡明」の屋敷に向かった、亮夜と夜美。

 宮間の未来予知によって、亮夜は一つの未来を知る。

 一方、司闇一族とRMGが奇襲したことにより、再び亮夜たちは対峙することに。

 激闘の末に追い払うことが出来たものの、それは実力の無さを痛感するものだった。

 亮夜は決断した。

 未来を、試練を、受け入れることを。

 夏休みの終わるほんの少し前。

 亮夜と夜美は、恭人のコネクションを使って、とある魔法施設にやってきていた。

「これのテスト・・・こんどこそうまくいってくれ」

 亮夜が持ち出したのは、カプセル型の毒ガス兵器。

 こんなものをまともに使えば、言い逃れが出来ない犯罪行為であるが、その辺は亮夜も考えてある。

 毒ガスの効果を問題ないように調整しまくったのだ。

 ダイヤルを調整して、室内に放り込む。

 1分が経過した後、カプセルから見えない毒ガスが噴き出した。

 十分に充満しても、サイレンは鳴らない。

「よし」

 これが、亮夜のやりたかったことだった。

 この毒ガスは、隠密性を高くした代わりに、眠らせることに特化した、特殊改造の毒ガスである。

 効き目はおおよそ7時間。ダイヤルは、毒ガスの噴出開始時間を調整するものだった。

 魔法施設などに使われるレベルのセキュリティを突破できる程の毒ガスを、亮夜は作り出したのだ。

「夜美も魔法を感知されない使い方も覚えたし、ようやく準備が終わったよ」

 ここまで怪しい研究を進めているのは、亮夜の修学旅行の為だ。

 亮夜は、精神的異常をおこしているせいで、まともに睡眠をとることが出来ない。

 そのため、普段は夜美にサポートしてもらっているのだが、生憎、修学旅行には夜美を直接連れて行くことが出来ない。

 そうなると、このリスクを受け入れるか、4日間徹夜を繰り返すかのどちらかになってしまう。

 どちらにしても、不可能に近い話だ。だから、小学校の時も、中学校の時も、修学旅行はパスしたのだった。__資金的な理由もあったのだが、この理由が最も強かった。ちなみに、夜美も同じ理由で、修学旅行には参加していなかった。

 だが、今回は、夏休み中にあった、聡明宮間の予言を受け入れて、修学旅行に参加する決意をした。そうなれば当然、この問題をどうにかして解決しないといけない。

 そこで、亮夜たちはある方法を思いついた。

 そのために、資金稼ぎ、夜美の魔法特訓、毒ガス開発を必死に続けて、ようやく今、ゴールが見えてきた。

 これで心置きなく参加することが出来る。

「後は、現場に行って、予習をしておこう」

 最後に、実際の場所で、魔法を使う予習をしておく必要がある。

 亮夜たちは魔法施設を後にした。




 同日、キョウト地方。

 この地は、トウキョウ、オオサカに並ぶ、大都市として有名だ。

 ただし、他の地域と比較すると、やや古風な印象が目立つ。

 少し古い印象を与えるお城や、着物を好んで着ている人物が多い点が、その代表だ。

 とはいっても、地域によって、多少の差はある。

 南部では、大都市に恥じない、立派な開発が進められており、ホテルが建っているのもその証拠だ。

 林の側に建てられた、大きな一つのホテルは、魔法師向けに建てられたものだ。

 一般人と魔法師は、魔法を扱えるか否かという差だけであるのだが、その事実は、非常に大きな差がある。

 魔法師用の、施設や特別な警備が仕掛けられているのだ。

 魔法師専用という事実に、不満を唱える一般市民もいるのだが、度々起きる犯罪などの関係で、実質的に、魔法師向けホテルに不満などを一身に集めているという事情もあるので、現在は問題とされず、概ね理解されている。

 その日の夜、ある一団が潜入した。




 その日も、いつものように、ホテル営業を行っていた。

 しかし、ロビーで突如、停電が発生した。

受け付けをしていた女性が、後ろから口を手で塞がれた。

「・・・!」

 それに合わせて、周囲にいた営業員も、次々に倒れた。

 それでも、警報は鳴らない。

 本来、魔法師向けということもあって、政府向け施設を除けば、かなり高いセキュリティを施されているのだが、この人物たちには通用しなかった。

 その後、ホテル内のあちこちで、次々と倒れる事案が発生。幸い、外傷が目立つことはなかった。

 これだけならば、単に営業がストップしただけだと、ちょっと致命的な事件で済んだだろう。

 しかし、ここで終わらないのが、彼らだった。

 スタッフの全員をロビーに誘拐して、綺麗に整頓させた。

 それから、リーダー格の人物が、ある魔法を仕掛けた。

 表面的には、何も起こらない。

 その人物に続いて、残りの人物も次々に魔法を仕掛けた。

 やはり、何も起こらなかった。

 全員を解放した後、一同はホテルから出た。

 メンバーは夜の影に紛れて散り、リーダーを含めた3人は、道から大きく外れた小屋に入った。実情的には、アジトと呼ぶべきか。

 この中には、完全に身内しかいない。

 作戦用の衣装の一部を脱いで、リーダーは仲間の二人を労った。

「見事、深夜、逆妬」

「殺さないのも、中々苦労したけどね。あたしたちの敵でもなかったけど」

「姉さんたちすごかった。僕もあんな風にかっこよく決めたいよ!」

 彼らは、司闇一族の連中だった。

 次期当主の闇理を除いた、若き血族たち全員が集結している。

「想像以上に簡単だったわね」

「我らが強い証拠」

「ふっふーん、さすが僕たちだ!」

 仕事中の雰囲気が抜けているのと、厳格な闇理がいないこともあって、3人の空気はやや軽かった。

 司闇一族は、キョウトで実行する目的の足場を確保するため、魔法師向けのホテルを乗っ取ることを企んだ。

 それも、トウキョウ魔法学校の修学旅行で使うホテルを。

 ただし、この件が表沙汰になれば、計画が中止になってしまう。

 つまり、表向きは問題がないように、実行しなくてはならない。

 今回は、司闇が使える戦力の大半を投入して、計画を実行した。

 本家からハッキングを仕掛けて、セキュリティの一部を麻痺。

 その隙に、華宵たち実行部隊が侵入。

 スタッフたちを必要以上に傷つけないよう、昏睡させて、無力化。

 さらに、泊まりに来た魔法師たちも、ついでに無力化させて、部屋にわざわざ放り込んだ。

「やはり洗脳魔法は便利」

 華宵たちが、スタッフたちに仕掛けた魔法は、洗脳魔法の区分であった。

 洗脳魔法とは、対象の精神をコントロールして、自分の支配下におくもの。

 自分で動くことができないと考えれば、ある意味では最強の対人魔法だ。

 ただし、どの程度作用させるかを考慮すれば、一概に最強などと言うことは出来ない。

 例えば、魔法の発動を一部阻害、腕や足の動作を阻害、前衛的な意識を変更して自傷させるなど、様々な強さや作用方法がある。

 そもそも、洗脳自体、非人道的であることから、表向きの使用は禁じられており、現状使えるのは、精々、ちょっとした妨害くらいにしか使えない。さらに言えば、資質の差も大きく、まともに評価されるならば、使えるだけでかなりハイレベルと言うことが出来る程、難しい魔法であった。

 今回、彼らが使用した洗脳魔法は、暗示をかける程度のもの。

 それも、何も指示をしていないものだった。

「まだ、感覚は残っているしね」

「で、後でまとめて操ると」

 実の所、今回はただの仕込みであった。

 洗脳魔法の大きな欠点として、魔法を中断させれば、効果が切れるというものがある。

 つまり、完全に操るならば、相当な負荷がかかってしまうので、使い捨てにするか、その前に別の方法で洗脳してしまう方が速い。結果として、長期的に使える魔法とはいえない。

 しかし、「司闇」は、一度仕掛けた作用点に、マーカーとして残して置ける技術を持っており、これを洗脳魔法と併用することで、長期的に効率よく洗脳する技術を開発していた。

 マーカーとして残す、「マジック・ペースト」システムは、政府でも公表されている、一般技術ではあるのだが、一般魔法師が手にすることが出来るランクならば、10分程度が精々だ。これは、悪用することで、ストーカーなどの犯罪に繋がるため、システム的な限界が設けられているのである。ちなみに、エレメンタルズであれば、自力で使用することも可能だ。

 これとは別に、洗脳時のコントロールにも大きな問題がある。

 洗脳の技術が低いと、洗脳時にも意識が残ってしまう。これが、ある程度の手段を持てる相手に起こしてしまうと、後だしとはいえ、対策されてしまう。洗脳魔法を対策する手段は容易ではないのと、今回連れて行ったメンバーは、全員がそのようなヘマをするような練度の低さではなかったので、こちらは彼らにとって、無問題であったのだが。

 逆に、強烈な洗脳をしかけると、その間、ずっとコントロールし続けなくてはならないという問題が発生する。全ての命令を、かけた人物が制御しなくてはならないので、非常に負担がかかる。ならば、放っておけばいいのではないかと思うかもしれないのだが、生理的欲求を含め、何もかも自発的に行動しなくなってしまうので、利用するという観点では、致命的だ。そもそも、長期的に利用するとなると、非洗脳者と接触するのは避けられない。洗脳しているのを行動的、魔法的に隠し通すのは至難の業である。

 そこで、マーカーだけを残して、後はフリーにしておくのだ。こうしておけば、必要な時に洗脳魔法をかけられるし、それ以外の状況でも、怪しまれる可能性はないに等しい。

 さすがに、実行の段階において、多少の手荒な真似は避けられなかったが、現在でも、それほど問題が起きていないのを見るに、計画は成功したと言えるだろう。無論、一部の記憶を消去させたという、インチキもあるのだが。

「それに、あのホテルは我らの拠点にもなる」

「私たちのために働くというわけね」

「姉さんたちって、普段、こんなことをやっているの?」

 華宵が別の利用価値を語り、深夜はそんな状況に優越感を覚える。逆妬は、華宵たちに仕事の内容について尋ねた。

「今回は、かなり緩い方ね。逆妬には、ちょうどいい刺激だったじゃない?」

「ちょっと物足りなかったなあ」

 深夜が返して、逆妬は少し不満げに返答した。

 そんな姉弟として微笑ましげな雰囲気に、華宵が少しだけ笑みを見せた。

「私はそろそろ、本家に戻る。兄様たちに顔を出す」

「わかった。ここは私と逆妬に任せて」

「うん!」

 夜の暗闇に消えようとする華宵を、深夜と逆妬は見送った。




 後日、裏でそんな危険なことがあったと知らずに、亮夜と夜美は、キョウト地方南部のホテルにやってきていた。

「本当なら、一泊くらいしたかったけど・・・」

「お金が足りないから、今回は観光だよ」

 外観をとった後、内装のいくつかを撮影して終わりだ。

 しかし、夜美はどうやら落ち着かない様子だった。

「どうしたんだい?」

「・・・分からない。でも、嫌な予感がする」

「・・・どういうことだ?」

 夜美が悪意を感知できないというケースは考えにくい。だが、夜美はそれを抜きにしても、純粋な勘は優れていると言える方だ。

「・・・何か、悪意をほんの少し感じるような・・・でも、そうではないような・・・」

 積極的に調べれば、このホテルで起きた事件に気づいたかもしれない。

 だが、表向き、問題のない、普通の場所で、裏作業を行うことも出来ない。

「・・・恭人さんにでも投げてみるか」

 少し悩んだ末、亮夜はそう結論づけて、ホテルを後にした。

 その後、二人はほんの少しだけ、観光してから帰った。




 数日後、恭人から連絡が届いた。

 疑惑付きのホテルにおいて、何も怪しい痕跡は見当たらなかったとのことだった。

 見当違いでほっとする亮夜と夜美。

 しかし、心の奥底にこびりつく不安はとれなかった。

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