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魔法解放少年  作者: 雅弥 華蓮
第7章 chaos
80/121

11 beat

 月曜日の朝。

 いつになく精神状態がいい亮夜と夜美が朝食を摂っていた頃、突然の緊急通話がかかってきた。

 名前は冷宮恭人。

 このタイミングで電話がかかるとなると、亮夜にはあの件に絡むこととしか思えなかった。

「亮夜、夜美。大変なことになった」

 恭人にしては、珍しく焦りを隠しきれていない声。

 どうやら、修子たちが何かをやらかしたと、亮夜は想像していた。

「恭人さん、どうしたのですか?」

「例の嗣閃修子たちが、学内でクーデターを起こした」

 それは、恭人がそれだけ焦るのにも納得のニュースだった。

「昨晩、1年1組のメンバーと「嗣閃」の部下たちが、トウキョウ魔法学校を襲撃。彼らはそのまま占拠し、今は何かの開発をしているようだ」

 亮夜も夜美も、絶句していた。

 性格はともかく、魔法師としては超一流の彼女が、なぜこんなことを行ったのか。

「・・・その目的は?」

「分からない。だが、このまま手をこまねいているわけにもいかない」

 そのことには、亮夜も夜美も同意見だ。二人は、恭人が見ていないにも関わらず(中継映像はオフにしてあった)、頷いた。

「具体的な作戦は?」

 亮夜は、傍観者な態度から、本気の態度に切り替えた。夜美も、驚いていた顔__それも中々可愛らしいものである__から、シリアスな表情に切り替えていた。無論、恭人には知りようがないが。

 既に、この一件をどうにかしようと、事件に介入することを二人は決意していた。

「学校は、諸事情により緊急休校という扱いになった。魔法警察や魔法六公爵の介入を避けるため、私たちと学校運営を除いて、極秘とされている」

 魔法学校と魔法警察、そして、魔法六公爵は繋がってはいても、明確な「縦」の関係ではない。特に、魔法学校と魔法警察は、上下関係はないと言っていい。

 しかし、魔法六公爵は、魔法界の事実上のトップであり、魔法学校と魔法警察とは、一応の上下関係はあった。

 今回の件が明るみになれば、確実に魔法警察が動く。

 それで、この事件を鎮圧したとしても、今度は被害者ということにされている夜美に事情徴収という形で、矛先が向きかねない。

 そうなれば、最悪、「司闇」の存在を明るみに出すことになる。

 亮夜たちには、そのような致命的な問題を抱えているのだが、学校側からしても、無視できない問題があった。

 由緒正しい教育機関に、学生テロリストに乗っ取られたということが明るみに出てしまえば、確実に魔法界の権力は地に堕ちる。

 もちろん、魔法警察の介入を許しても、結果的には、同じことになるだろう。

 そして、魔法六公爵ならば、もっと予測不可能な事態になりかねない。

 証拠隠滅のために、手段を選ばないだけでもかなりリスキーだと言えるのに、あらゆる意味で、パワーバランスが崩れかねない。

 亮夜たち3人は、それぞれが違った大きな懸念を抱いていた。

「よって、少人数で学内に潜入して、奴らを叩く。そして、首謀者だと思われる、嗣閃修子を捕獲して、混乱を鎮圧させる」

 話は、恭人のとる作戦に移っていた。

「敵の戦力を考慮すれば、私とお前達くらいでも十分だと思うが・・・」

 ここで、恭人が少し悩む素振りを見せたのは、二人の今の立場を考慮してのものだ。

 リーダー格の修子が、夜美に因縁をつけたことから始まったといっても過言ではないこの事件に、餌をみすみす与えるような真似をして、火に油を注ぎかねないことを、彼は恐れていた。

「僕たちは大丈夫ですよ。恭人さんが許可さえ出してくれれば」

 亮夜も、恭人と似た懸念を抱いていた。

 しかし、事件の根本から考えれば、夜美が始末をつけない限り、何度も繰り返されると、亮夜は分析していた。

 ただ、今、混乱を抑えるだけならば、自分たちが出て行かなくてもいいとは思っていた。

 恭人任せなのは否定できないが、臨機応変に、効率よく立ち回ることが一番大事だと、亮夜は結論づけていた。

「・・・分かった。力を貸してもらえるか?」

「分かりました」

「うん」

 亮夜と、それまで一度も会話に出ていなかった夜美が返答した。

「決まりだな。具体的な段取りは__」

 作戦と注意事項、そして、ミッション開始時刻を伝えた後、恭人は通話を切った。

「僕たちも急ごう」

 亮夜たちは中断していた朝食を食べ始めた。




 8時50分。

 恭人が指定した作戦開始時刻の10分前。

 恭人は今、「冷宮」専属の専用車両で時を待っていた。

「このようなことに、あなたを頼ることになり、すみません」

「いや、構わない。少々、大学も退屈していたのでな」

 恭人以外にも、魔法大学の雷侍宮正も増援に来ていた。

 個人的にも仲がいい(決して、男女の意味合いではない)二人は、進級しても、偶に連絡を取り合う関係になっている。だから、今の宮正の状況も知っている恭人は、良くも悪くも、宮正はほとんど変わっていないと思った。

 一方、宮正から見て、恭人は少し変わったと思っていた。

 リーダーとして、物事の有利不利をはっきり理解した上で、適切な行動をより上手くとれている。

 今もこうして、必要最小限の謝罪をした上で、周囲の気配りも忘れていない。

 正直、宮正は恭人の把握力が羨ましく思っていた。

「しかし、頂点の立場となりえたばかりだというのに、すぐにこんなことを押し付けられるとは、貴様も大変だな」

「私に相応しい試練ではあるがな」

 そのことを微塵にも出さずに、宮正は恭人を気遣う態度を見せた。

 一方、恭人の返答は、宮正にとって、お馴染みのナルシストなものであった。

最も、「不謹慎でもあるが」と、小声で付け加えるあたり、恭人は人格的にもよく出来ていると言える。

「来たか」

 恭人が、外からやってくる、目的の人物を見つけたことにより、この雑談は終わりを迎えた。




「これで、戦力は全員揃ったな」

 恭人、宮正、亮夜、そして、夜美が揃い、今回の作戦の主力メンバーは全員揃った。

「では、手はず通り、作戦を進めよう」

 恭人はともかく、宮正は亮夜たちの装備に色々言いたいことがあるのだが、そんなことをしている場合ではないということくらい、宮正には分かっていたので、特に口にしなかった。もしかしたら、恭人も同じ理由で、そのことを口にしなかったのかもしれない。

 まず、「冷宮」と「雷侍」の部下たちが、学校に攻撃をしかけ、敵を炙り出す。その隙に、4人は侵入し、ボスであろう嗣閃修子を止める。シンプルながらも、堅実な作戦であった。

 当初は、外部から徹底的に叩いてから、校内に侵入するという作戦をとろうとした。流石に「冷宮」の部下だけでは、戦力数という不確定要素を無視できなかったからだ。

 だが、宮正から協力を取り付けたことにより、戦力数の心配はなくなった。おかげで、長期戦に及ぶリスクと、修子の逃亡という失敗の可能性が格段に減った。

 部下たちが出撃し、亮夜たちは車の中で待機していた。

 外にいる見張りの多くは、1年1組の生徒たちだ。

 中には魔法科生徒ではない、体格のいい男たちも混ざっているが、特に気にしていない。

 先発部隊が奇襲をしかけ、敵たちも動き出す。

 亮夜たちは、3方向に別れ__亮夜と夜美だけ一緒で、残りの二人は別々に分かれた__戦場と化したトウキョウ魔法学校へ進軍を開始した。




 トウキョウ魔法学校のある一室。

 きらびやかで、ゴージャスな、如何にも高級だと言える部屋に、二人のお嬢様がいた。

 一人は、嗣閃修子。

 もう一人は、令院堂棟寺月美玲子だった。

「うふふふふ、玲子ちゃん、何て素敵な一時でしょう」

「・・・はい、そうですわね」

 修子がフレンドリーに話しかけてくるのに対して、玲子は少し冷めていた。

 それは、魔法師友好会に起きた、あの一件が影響していた。




 エキシビションマッチが行われたあの場面、修子とある男子生徒が勝負していた時のことだった。

 圧倒的な力で追い詰めた後、修子は新たな魔法道具を取り出した。

 誰もが見たことがないモデルの、魔法銃。

 禍々しくも、無駄にゴージャスなデザインの魔法銃を、周囲のメンバーに向けた。

 その魔法銃の引き金を引くと、撃たれた(言うまでもなく魔法でだ)生徒は、何かを貫かれたかのように、がっくりと項垂れた。

 一度、先生たちを呼ぶハプニングを生んだものの、修子がパフォーマンスと発言し、その生徒も肯定したため、この時点では、玲子も疑問に思わなかった。

 しかし、事件は魔法師友好会が終わった後に起きた。

 トウキョウ魔法学校についた時、何故か、1年1組は何かにとりつかれたかのように動いていた。

 その夜、玲子のいた家に修子がやってきて、娯楽を誘われた。

 なぜ自分の家を知っているのかという当然の疑問を飛ばして、玲子は内容を尋ねた。

 すると、すごいことという、とんでもないものであった。

 だが、玲子には常識的な部分が、多少はあった。

 修子の監視をするため、承諾したふりをして、修子たちが向かった場所は、トウキョウ魔法学校だった。

 その場では、1年1組の生徒たちと、黒服の男たちが、暴れまわっていた。

 玲子はその時、生徒たちの状態が異常だということに気づいた。

 おそらく、修子が使った魔法に影響があると予想した。

 だが、修子の僕となった同級生たちに手を出すことは出来ず、結局、こうして修子の側に、玲子は下ってしまった。




 一応、この学校内において、修子に次いで偉い立場ではあるようなので、下手な真似をしなければ、洗脳される危険はない。

 だからといって、このまま見過ごすことも出来ず、玲子は心の中で、激しい葛藤を起こしていた。

 しかし、その葛藤は、修子の目の前にある特殊端末が起動したことにより、終わりを迎えた。

 修子はスイッチの一つをいじった後、別のスイッチを動かして、応答させた。

「やあ、修子君。今日は素敵な一日になりそうだね」

 音声ボイスのみで届いた、妙に仰々しい口調で挨拶をしたのは、東雲佳純だった。先ほどの操作は、映像を切るための操作だっただろうか。

「おかげ様で。後は獲物をどうするかですわね?」

「そのことだけど、学校もバカではなかったようでね」

 修子と対話している人物を、玲子は知らない。不気味さを覚えながら、側で聞いていた。

「先ほど、冷宮恭人の元に、出動の動きがあった。おそらく、君たちを止めるためにね」

 修子たちも予想していたことだったのか、表情に緊張が走る程度に留まっていた。

「その中には、舞式亮夜君と舞式夜美君も含まれている。今こそ、絶好のチャンスというわけだよ」

 落ち着いて聞いていれば、この人物は、諜報能力にかなり優れていることになる。事実、玲子はこの半日弱で手に入れた情報から、その推測をしていた。

 しかし、修子は疑いなく、神妙に聞いているだけだった。

「僕の知り合いからも、増援を出す。亮夜君と夜美君以外は好きにして構わないけど、その二人だけは逃がさないでよ」

 傍から聞けば、この男は危険すぎる。

 玲子はそう思った。

「わかりましたわ。吉報をご期待ください」

 しかし、例によって、修子は何一つ迷いを見せることなく、従っていた。

 通信機の電源が切れて、対話は終わった。

「お聞きになりました通りですわよ、玲子ちゃん」

 話の軸を玲子に移されたが、玲子は口を出さなかった。

 無視しているわけでも、反応できなかったわけでもなく、返す言葉が見つからなかった。

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