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魔法解放少年  作者: 雅弥 華蓮
第1章 introduction
8/121

8 宴の後期

 1組の冷宮恭人と、10組の舞式亮夜のエキシビションマッチは、大方の予想通り恭人の勝利で終わった。だが、その勝負内容を予想できた者はいなかっただろう。

 多くの人は、恭人が亮夜を瞬殺すると予想した。だが、亮夜は最初の一撃を避け、ブリザードに囚われつつも、ビームで反撃。直撃こそしなかったが、多少のダメージを恭人に負わせたことに、多くのメンバーが衝撃を与えた。

 だが、それで最後だった。

 ビームを発射した後、亮夜は倒れ、恭人に捕らえられるという形で勝敗を決した。

「いい勝負だったぞ!!」

「冷宮くん、かっこよかったー!」

「舞式もがんばったな!」

 どの組も、亮夜を馬鹿にする声は目立たず、双方に大きな歓声が上がっていた。




 自分を捕らえた氷が解除され、亮夜はそのまま地面に伏した。

 意識をしっかりと覚醒させた時には、目の前に恭人が立っていた。

「中々いい戦いだったぞ」

 手を差し出したので、亮夜も手を差し出して、立ち上がらせてもらった。

 普段とは比較にならない魔法の多用により、既に身も心も疲れ切っている。実際、少しでも気を抜けばまた倒れかねないほど、疲労しているのを自覚していた。

「大丈夫だったか?」

 そんな自分を見ていたのだから、恭人がそんな言葉をかけても当然だろう。

「・・・重症は負っていない」

 亮夜としては、そう返すので十分だった。

「そうか、所で・・・」

 少しだけ安心した表情を見せたと思ったら、一転してきつい顔を亮夜に向ける。

「随分手を抜いたように感じたが、私の勘違いか?」

 恭人の疑問は、部分的には合っていた。彼は立ち回りも最後の一撃も、10組とは思えない程の実力だと評価していた。

 最後の一撃の後、自滅の如く倒れたが、どう考えても暴走の類ではない。仮に暴走していたら、あそこまで正確かつ高出力な一撃を撃てるはずがない。

 それ以上に、最初から近づこうとしていた戦い方に疑問を覚えていた。純粋な魔力で敵わないから接近戦を狙おうとしたのは理解できる。だが、けん制にも一切魔法を使わず、こちらを感知する時を除いて全く魔法を使わなかったことには、極めて不可解だ。

 もしかして、この男は、すごくイレギュラーではないのか。

 ライセンスとは全く一致しない実力を持っているのではないか。

 そのような疑念が、恭人を支配していた。

「いいえ、先ほどのは全力でした。手を抜くのは、対戦相手に失礼でしょう」

 しかし、このように返されて、追及するのが困難になってしまう。

 戦闘面においては、魔法力を除けば一流なのかもしれないとも考えたが、自身を納得させる程の推測には至らなかった。

 どうにも片づけられない疑問を抱えつつも、これ以上の詮索は野暮だと思い、「そうか」とだけ返して、恭人はアリーナを去った。




 その後、停滞していた対戦相手決めは、驚くほどすんなりと進むことになり、予定時間まで、合計で7試合は行われた。

 次元楼次と池和林也など、見応えのあった勝負には、多大な拍手も送られた。

エキシビションマッチも終わり、続けては夕食と、入浴だ。

 このホテルには、地下に大浴場がある。

 クラスの関係上、入る時間がある程度決められているので、周りにも、時間にも、気を使うことになる。

 しかし、亮夜はそんなことを気にする必要はなかった。

 お風呂に入る気がなかったということではない。

 各部屋にシャワールームがあるので、そちらを使ってもいいということだ。

「じゃあ、行ってくるぜ」

「ゆっくり、癒すといいよ」

 10組が大浴場を使う時間となり、同室の陸斗を見送りにいった後、亮夜は浴室に入った。

 一応カギを二つかけて、衣服を脱いで、浴槽にお湯を入れる。

 大浴場とは異なり、こちらは随分狭いし、勝手が違う。

 浴槽は何とか二人入れる程度の広さで、シャワーの機能も、普通のハンド式以外にも、天井からお湯を降らせるタイプなどもある。その浴槽にもオプションがあり、ジャグジーや、電気風呂にも切り替えられるという、狭さに目を瞑ればかなり快適と言えるだろう。

 そんな浴室を少し観察していた頃には、お湯が十分に溜まったので、バルブを閉じた。

 このお湯の溜まる速度は非常に早かった。出ている所を見ると、勢いが良すぎて、押し出されそうだと思えるほどだった。しかも、そんな出し口が多数存在するので、普通に入れる程度のお湯が浴槽に溜まるのに一分程度しかかからない。

 続けて、タオルを使って、体を洗う。

 改めて自分の体を見て傷の多さに、亮夜は少し不快な顔を浮かべた。

 6年ほど前の時、過酷なおしおきによって、多量につけられた傷だ。その傷の種類も、切り傷から、火傷のような跡まで、大小実に様々な跡が残っている。

 この事実を知っているのは、傷つけた者たちを除外すれば、夜美ただ一人だ。

 現在は、プライバシー保護などもかなり重視されており、着替え用の部屋も多くが個室化しているなど、そういうことに心配な人も安心して着替えたりすることができる。

 そういうことを亮夜はあまり気にしていないとはいえ、一般人には優しくないものを見せて、色々気にされることを配慮しなくていいのは、亮夜にとって歓迎すべきことだった。

 浴槽に入り、亮夜はゆっくりとあらゆる傷を癒した。

 ほとんどのことを意識から排除して、ただゆったりと身を休めていた。




 地下の大浴場。

 こちらは個室のシャワールームとは異なり、ものすごく広い。

 みんなでワイワイしながら入ることができる程、広かった。

 当然、浴室は男湯と女湯に分かれている。

 そういうことを気にする人たちはともかく、ただ友達と一緒に入りたいという人は決して少なくない。

 何が言いたいかというと、かなりの混雑が予想されるということだ。

 しかし、そちらも予想済みなのか、クラスに応じて、入る時間が設定されている。

 1クラスあたり30人前後で、時間に応じて3クラス程度、1つあたり40分くらいだ。実際には前後の手間も考慮してか、ある程度だが出入りが集中しないように、時間が調整されている。

 とはいえ、40人近くが同時に入れば、狭いと判断するのも無理はなかった。

 亮夜と別れた後、大浴場に向かった高本陸斗も、そう感じていた。

 それでも、時間の調整もあってか、場所を厳選しなければ、場所を確保することはできる。

 体を洗う場所__裸の付き合いともいう__だけあって、ほとんど全裸だ。中には、大きめのタオルなどを巻いて、裸体を見えにくくしている人もいるが。

 お湯に入った陸斗はたまたま側にいたただのクラスメイトよりは親しい、どこか子供っぽさが残る男子生徒に声をかけた。

「よ、白井。こんなところで会うとはな」

 白井と呼ばれた男子生徒は、驚いた反応を見せつつも、陸斗に顔を向けた。

「陸斗君!どうしたの急に!」

「いや、知り合いがいたから声かけただけだ。昼、楽しかったか?」

「う、うん。でも、フォークダンスはちょっとつらかったかな・・・」

 白井三雄の少し困ったような表情を見せられて、陸斗はこの顔のおかげ(せい?)で、一部の女子生徒の興味を強く惹くことになったことを悟った。

「そういえば、亮夜君はいないみたいだけど・・・」

 三雄が話題を変えたのも、苦労した記憶を詳しく開けたくなかったという心理が作用したからだろう。

「あいつなら、部屋のシャワールームを使っている。亮夜のようなパターンは少数みたいだな」

「そうなんだ。亮夜君って少し近寄りがたいしな・・・」

 陸斗から見て、亮夜は同い年とは思えない程、達観しているような印象を受ける。だから、三雄のいう近寄りがたい印象を否定するつもりはなかった。

 だが、彼の評価が誤解であるとするなら、正した方がいいと思った。

 亮夜を一目見るだけなら、三雄に限らず、多くの人がそのような評価を下すだろう。だが、実際に少し話してみれば、いい人であることがすぐに分かると陸斗はそう思っていた。

「それは見た目だ。少し話せば、意外といい奴だと思うぜ」

 それを実際に伝えることで、亮夜の見えない所で、亮夜の評価が上がっていった。

 その後も気のおけない会話を挟んで、陸斗は大浴場を出た。

 彼が部屋に戻った時には、亮夜はまだ浴室に入っていた。

 一方、同じ頃、女湯の方でも、他愛のない会話で盛り上がっていた。

 例えば、9組の藤原美里香のスタイルがいいと盛り上がった他、気になる男子は誰かと黄色い声が上がったといった場面もあった。なお、男湯と女湯、どちらが盛り上がったかというと、恋愛話の比重で女湯の方が、楽しく盛り上がっていたのだった。




 浴室に入って1時間が経過した頃、亮夜は体を乾かして(例によって自動乾燥機能があるので、体を拭くためのタオルも必要はなかった)、服を着替え直して、外へ出た。

 その後、亮夜は恭人に対して不安を抱えていた。

 失礼のないよう、出せる範囲で全力を出したが、初撃を回避した上で、とどめの一発を狙い撃ちしたのは、いささかやりすぎではなかったのかといまさらながら疑問に思った。

 本当の意味で全力を出せば、恭人とも互角以上に渡り合うこともできたかもしれない。だが、今の亮夜にとってそれは、禁じられた、あるいは奪われた力なのだ。

 10組として適切にふるまうためには、恭人に負けるのは大前提だ。それ自体には亮夜も異論はなかった。

 ここで恭人と戦うことでつながりを持ち、後に利用できるようにしておく。その目論見自体は一応成功したことになる。

 だが、そのために10組にふさわしくないテクニックを2つも使った。果たしてそれで、自分の真の素性に至るかと、亮夜は不安で仕方がなかった。

 表向き、あの事件は世間に公表されていない。一般人は勿論、恭人や、生徒会長の雷侍宮正、そしてあの一族を除いたエレメンタルズでも、その真実を知っているとは考えにくい。

 しかし、知られていないという根拠もない。事件とつながりがあるのは、「亮夜」と魔法に関わっていることくらいだが、それだけでも無視できない可能性は残っている。

 最も、そこはこの世界に戻った時点で、承知しているリスクだ。不安にしていたのは、情報の拡散により、あの一族に見つけられてしまうということだった。

 散々悩んで、亮夜は今回の犯したリスクは無視することにした。回避は勘、ビームはたまたまと、魔法以外の事象に絡めて全て言い訳が効くと判断した。

 本当は、恭人が感づいて余計なことになる危険もあるので、早い内に接触して自分に関係する情報を口止めさせるべきかとも考えたが、その行為自体が自ら秘密をしゃべるようなものだと思い至ったので、放置することにした。実際には、イレギュラーな人物にしか思われていなかったので、亮夜の疑念は考えすぎだと言えるのだが。

 そんなことを部屋の中で、瞑想しつつ考えていた。

 既に時刻は夜10時を回ろうとしている。

 相部屋となった高本陸斗は既に眠っている。

 亮夜は寝た振りをしただけで、陸斗が眠りについたのを確認して、ベッドから抜け出して瞑想を始めていた。

 亮夜は、普通には眠ることのできない病気を背負っているので、仕方なく徹夜しているのだった。そして、じっとしているのも慣れているので、こういう場面では、瞑想して心を落ち着けることにしている。

 陸斗が規則正しい生活をしているのを見て、亮夜は安心した。もし、陸斗が起きていたなら、かなりのリソースを回さなければいけないため、明日がかなり面倒なことになる。こうして、瞑想を続けることができるのは、亮夜にとって歓迎すべき状況だった。

 そのまま、亮夜は瞑想を続けて、夜は更けていった。

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