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魔法解放少年  作者: 雅弥 華蓮
第7章 chaos
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10 prior

 2日後の土曜日。

 本来なら、魔法師友好会の日だ。

 亮夜の妹にして、1年1組である夜美も、これに参加するはずだったが、数日前の騒動の罰として、出禁にされた。

 その裏には、様々な陰謀があるものの、亮夜からすれば、嬉しいものであった。

 何せ、夜美と離れるということは、精神安定に多大な苦労を要するからだ。

 しかし、夜美が出禁にされたおかげで、明日も含めて家に引きこもって休むつもりだった予定を変更して、普通にすごすことが出来る。

 さすがに本人の前では、不謹慎すぎるため心にしまっているが、夜美もそのような考えはお見通しの上で、喜んでいた。

 どうせ、1年1組にはほとんど見切りをつけており、今のところは友好を結び直す気もなかったからだ。

もっと言えば、上手いこと魔法師友好会から逃げる口実を作るために、亮夜のリクエストを承諾したので、知っていたとはいえ、亮夜の気遣いは杞憂と言えた。むしろ、知っているにも関わらず、そのような気遣いをする辺り、亮夜の方が常識よりと言える。

 そういうわけで、二人ともこの日は完全にオフであった。

 そうなれば、やることはただ一つ__。




 ということで、亮夜たちはビーチを散歩して楽しんでいた。

 事情を抜きにしても、大変仲がいい二人は、こうしてデートをすることも楽しみの一つとなっている。

 それに、恭人と、既に卒業した雷侍宮正が、個人的な援助をしてくれているので、少し懐に余裕があった。

元々、亮夜と夜美は様々な方法で稼いで、どうにか生活と便利機器の維持は出来ていたので、よく言えば貯蓄、悪く言えば無駄遣いする余裕ができることになった。

目的以外の使い道である、娯楽に回すなら、夜美のために使うのが一番いいと亮夜は考えている。お金で釣ると考えると、少し気分が悪く感じるが、妹を喜ばせたり、楽しませたりするのに使うならば、そのような不快感はとるに足らないことだった。

公共的に開放されている海ももちろんあるが、一部分は、お金を支払うことで、貸し切りにしてもらえるエリアもある。需要によって、値段が大きく変動するのが特徴で、この春になったばかりの時期は、需要がかなり低いため、高校生相当でも出そうと思えば出せるレベルに収まっていた。

だからといって、この時期に海で泳ぎたいといったことはなかった。仮に夜美が行きたいと言っても、亮夜はやんわりと止めていたに違いない。

そもそも、この二日は次の学校のための特別な休息だと、亮夜は思っていた。

そのために、いつもは行かない、砂浜に連れていって、共に散策をしているのだった。

「潮風が気持ちいいね」

 今の夜美のスタイルは、ロングスカートのようなものに、ぴっちりとした服、そしておしゃれな帽子をつけている。腕や足はほぼ見えない服装なのに、暑苦しく感じないのは、素材の魅力として出ているからなのか。それとも、夜美本人の気質だからなのか。

 一方の亮夜も、露出していない部分は、夜美と同じだった。薄手のシャツを上にゆったりと羽織っているその姿は、見た目より年上な印象を与える。

「うん、こういう自然もいいよね」

 夜美が風に心地よさを感じているコメントに、亮夜も肯定した。

 こうしていると、日頃のストレスが洗い流されていくような気がする。

 清らかな波の音、心地よい涼しさ、柔らかい砂と、心がほぐされていくことを、亮夜は感じていた。

 となりでぴったりと身体を寄せている夜美も、同じことを感じていた。

 最も、夜美は亮夜といることの喜びもあってか、考えられないという意味で陶酔しているのに対し、亮夜は自然を感じて、心が超越していくという意味で陶酔しているという、細かい違いはあった。

 魔法が使われず、人間の手があまり入っていないこの一帯は、魔法師でなければ気づかない、神秘の気配を保っていた。

 亮夜は、ありのままの精霊を感じ取って、どこかに意識を馳せていくことを感じていた。だからといって、側にいる夜美のことを忘れることなく、ちゃんと側に寄せていたが。

 魔法を引き起こすのに必要な精霊は、いたる所に存在している。ただ、普通の人間では感じることは出来ない。

 魔法を扱う際、精霊を変換させて、現象を引き起こす。そうして人間の手にかけられた精霊は、長い時間をかけて戻る。自然の精霊の力を借りて、魔法を扱うには限界があった。

 そこで、人間は様々な技術を駆使して、人工的な精霊を作り出すことに成功した。細かな違いはあれど、人間は同じように魔法を扱える。

 その違いを感じることが出来るかどうかが、優秀な魔法師の分かれ目と言えた。

 亮夜は、自然の精霊には、温もりを感じている。それは、夜美も同じだ。

 学術的な意味はまだ持たないのだが、多くの場面で使われる人工精霊を「マギ」、自然精霊を「スピリット」と、マイナーでありながら、その名はつけられている。

 かつて、司闇で心が壊れかかった時、スピリットと深く繋がったことが、亮夜にはある。その時の記憶は全くないのだが、わずかな実感だけは残っており、時折、このことについて考えることがある。

 残念ながら、思考しても、感じても、全く答えは出てこないのだが、そのような時間は嫌いではなかった。

 夜美とのデートで、稀にこうした自然らしさがたっぷりある所にいくのは、亮夜は純粋に自然が好きだからという部分もあった。




 砂浜で1時間近く心を浄化した後、二人は都心に戻り、レストランに入った。

 亮夜はともかく、夜美は控えめに言っても美少女であるのに加えて、小学生に見間違えられることが起こることもある体型なので、主に亮夜に奇異の目を向けられた。

 しかし、あんまり気にしても、きりがない。お馴染みすぎる部分もあるので、気にしては外を歩けないくらいだ。当の夜美は、ほとんど気にしていないが。

 そんな微妙な温度差がある兄妹だが、注文した食べ物の基本センスは割と近かった。

 主食、主菜、副菜、飲み物をバランスよく揃えた、色とりどりで、栄養が偏っているわけではない、健康にも十分配慮した配分のセットだった。ただ、飲み物は異なるようで、亮夜がコーヒーなのに対し、夜美はお茶だった。夜美は舌が子供よりなので、苦い物は好きじゃないということだった。

 いつもと違う、豪華な食事を堪能し終えた二人は、夜美のリクエストで、魔法訓練所に向かった。

 この二日、家に引きこもっていた(というと、誤解があるかもしれないが、読書と家事はしていた)夜美は、少し魔法を使いたいという衝動に駆られていた。普段から魔法を積極的に使う立場にあるため、腕がなまってしまうと危惧していた部分があったからだろう。

 とはいえ、夜美のような魔法師が、二日さぼったくらいで、腕がなまるとは思えない。どちらかといえば、運動をしないことによる過剰に溜まったエネルギーを発散したいという衝動に近い部類の衝動と言えた。

 最も、亮夜が夜美のリクエストを取り下げることは基本的にない。

 そういうわけで、不意打ち戦と対人戦の肩慣らし的なトレーニングに、夜美は励んだ。亮夜はそれを、指導教員の如く、アドバイスを送っていた。

 後に、亮夜も違う分野でトレーニングを重ねて、訓練所を出たのは、午後4時を過ぎた後だった。

「いやー、いい運動になったね」

「夜美の腕は相変わらず見事なものだったよ」

「あれだけダメ出ししていたのに?」

「あれはアドバイスだよ」

「真面目に返されると、ちょっと困るんだけど」

「君が悪いじゃないか」

 歩きながら、和気あいあいと話題が弾んでいる。

 言うまでもなく、今回の特訓についての話だった。

「さてと、最後にお風呂に行こうか」

「やったー!」

 今日の締めとして、二人は銭湯に向かった。もちろん、家族風呂の。

 少々、奇異の目を向けられたりもした(言うまでもなく、亮夜の方が向けられていた)が、二人は一切気にせずに浴場に入った。

 監視カメラがないことを確認して、服を脱いだ亮夜は、同じく服を脱いだ夜美を見詰めていた。

 その視線に、夜美の顔が赤らむ。

 しばらく見詰めて満足したのか、亮夜は微かな笑みを浮かべた。

 何を考えているのか分からなかった夜美は、恐る恐る亮夜に尋ねる。いくら一心同体だと、お互いに思っても、言葉を介さずに全てを理解できるわけではなかった。

「お兄ちゃん・・・その・・・」

 亮夜が少し驚いた顔を見せる。

 どうやら、今の態度は我を忘れていたようだ。

「ああ、ごめん。夜美の綺麗な身体に、大した傷がついていなくて良かったって思っただけだよ」

 亮夜とは対照的に、夜美の身体は女の子らしく、綺麗な肌をしていた。

 その肌には、傷のような跡もない。

 逆に、亮夜の肌には、不自然な跡が多々目立った。

 自分と同じようなことはさせられていないとは思っていながらも、こうして、自分の目に届かない所で嫌がらせをされていないということを確認できて、亮夜は一安心だった。微かな笑みを浮かべたのも、それが表に出ただけだった。

 そのことを理解した夜美は、自分の妄想に羞恥を覚えた。

 少しだけ不安を見せていた表情に、トマトのような赤色が濃く混ざった。

「こ、こんな所で立ち話なんてしないで、早く入ろ!背中流してあげるからさ!」

 自分の邪推をごまかすかのように、夜美は慌てて亮夜を浴場に押し出した。

 幸い、亮夜が夜美の邪推に気づくことはなく、素直に入り込んだ。

 それから、夜美が実際に亮夜の背中を流すまで、ほぼ無言が続いた。ほぼ無言だったのは、了承をお互いにとるという場面があったからだ。

 一糸纏わぬ亮夜の背中を見ていると、以下に兄が大きいかというのを感じる。身長的な差があるのも事実だが、あくまで実感として、夜美はそう感じていた。

 自分を背負えるだけの器に必死でなった証が、間近で見ると、すごく大きく感じる。あの時から、あくまで兄のお手伝いという立場になっていることを、夜美は自覚していた。

 決して、その立場に不満を覚えているわけではない。

 ただ、亮夜と対等に立ち、彼をありのままで助けたかったという気持ちが、確かにあった。

 しかし、今の自分では、妹として、亮夜を助けることしか出来ない。

 その事実が、夜美の心に、口惜しさを宿していた。

「・・・どうしたんだい、夜美?」

 手が止まっていたのも、夜美は気づいていなかった。

 意識を戻して、背中を流しながら、亮夜の疑問に答えた。

「お兄ちゃんが以下に大きいかというのを感じていたんだ」

「・・・僕って、そんなに大きかったかい?」

「いやいや、存在の方だよ」

 揺るがない信頼を寄せられる度量。

 優しくも感じられる男気。

 理想を追い求め、修練を怠らない信念。

「亮夜お兄ちゃんが、あたしのお兄ちゃんでよかったと、心から感じられるよ」

「そうか」

 その声は、夜美にとって、絶対的な信頼をもたらす声色であった。

 続いて、亮夜と夜美が入れ替わって、亮夜が夜美の背中を流し始めた。

 亮夜の大きくも優しい手つきが、夜美の背中を撫でる。

 丁寧な手つきで、自分に触れられるたびに、夜美の感情のボルテージが上がっていく。

 徐々に平常心から遠ざかっていくことを自覚していながらも、夜美は決して、亮夜から離れようとしなかった。

 色々、揺れる感情はあっても、「喜」という感情__複雑だが、間違いなく言えるのはこれだ__で、夜美は一杯だったからだ。

「・・・さっきは心配してくれて、ありがとう」

 だから、いきなり感謝の言葉を口にしたのも、嬉しくも、恥ずかしさが混じる今の自分を、少しでも紛らわせたかったからに違いない。

「何を言っているんだ、僕が君を心配するのは当然だろう?」

 夜美からは見えなかったが、亮夜は当然と、口だけでなく、態度でも示していた。

「やっぱり・・・お兄ちゃんはすごいな」

 夜美が亮夜を称賛することはよくあるのだが、それは、亮夜のとった行動や成果が多い。こうして、亮夜の存在そのものを称賛することは、意外にもあまりなかった。

 何もかも褒めることは流石に出来ない__あらゆる意味で、完全無欠と言える人間はいないと、亮夜も夜美も確信していた__が、時折、こうした圧倒的な度量や器を見せられると、一切の打算もお世辞もない、本心からの敬愛を捧げたくなる。

「たまに思うんだよね。あたしは、亮夜お兄ちゃんの妹に相応しいのかって」

 裸の付き合いだったからなのか、夜美はそんな本音を漏らした。

 亮夜は驚いた表情を見せたが、やはり夜美に見えることはなかった。むしろ、夜美から見えなかったからこそ、大げさに驚く程の余裕があったと言えた。

 少し強引に落ち着けて、自分と似た悩みを抱えていたという事実に目を逸らして、亮夜は夜美の相手をした。

「僕にとって、何より大事なのは夜美だ。それだけじゃない、君にはどんな時でも助けてもらっている。こうして話しているだけでも、僕の疲れた心を癒してくれる」

 夜美は無言で、俯いている。

 どうやら、納得のいく答えではなかったようだ。

「兄が妹を想うのは当然だ。だから、妹が兄を想うのも当然だ。お互いに一緒にいたいという気持ちがある以上、そのような疑問は今更ではないのかな?」

「でも」

「夜美」

 まだ納得がいかず、反論しようとした夜美を、亮夜は制止した。

「僕には君が必要だ。それ以上の理由はいるかい?」

 ようやく、夜美の迷いは消えた。

 そこで、亮夜の手が止まっていることにようやく気付いた。

 このようなことで悩んでも、亮夜を煩わせるだけだということに、夜美は理解させられた。

「そうだね・・・こんなことで煩わさせて、ごめん」

「そんなことで煩うことなんてないから、気にしなくていいよ」

 それでもやっぱり、亮夜には敵わない。

 そうはっきりと理解させられた夜美だった。




 その後、ゆったりと浸かって、一日の疲れを十分にとりつつ、癒しながら、亮夜たちは銭湯を後にした。

 次の日は、勉強、読書、軽い修行に開発と、いつもの休日__ただし、たっぷりリラックスできる程度には軽い__をすごした。

 限りなく理想的な生活をすごした夜美の精神状態は、最上といっていい程、満ち溢れ、純粋な色に染まっていた。

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