8 裁判
1年1組の暴動は、匿名通報した(という扱いになっている)亮夜と、それを受諾した生徒会長の恭人により、犯人全員を捕獲したことにより、終わりを告げた。
そして、会議室では、裁判が行われた。
普段は、会議やら、話し合いやら、反省会やら、もう少し普通の使われ方をするのだが、今回の件に関しては、裁判という扱いが最も相応しかった。
しかも、規模が規模だったので、授業が中断されて、野次馬の何人かが見ている程になっていた。
この影響もあってか、全てのクラスで座学に急遽変更された。1年1組に至っては、事実上の授業中止となっていた。
いつもと違い、イスやテーブルの配置が裁判のように大きく異なる。
一方は、舞式夜美。
もう一方は、嗣閃修子と令院堂棟寺月美玲子。
中心には、恭人を始めとする生徒会メンバーと1年1組担任の若井。
そして、夜美の側には亮夜、修子と玲子から少し離れた所に、1年1組の加担者が数人。
その他、1年1組の大半が修子サイドの客席、野次馬たちはそれ以外の場所で立っていた。
「では、これより、1年1組の暴動事件の裁判を行う。私が議長の冷宮恭人だ」
いつになくノリノリな恭人を見て、亮夜は少し呆れていたが、そのような態度は当然、出さなかった。
「始めに言っておくが、この裁判は学校内のネットワークで視聴可能だ。双方、失礼のないように行いたい」
明らかに年齢とはミスマッチのはずなのに、恭人のふるまい様は、全く違和感を与えていなかった。
「さて、件に関して説明をしよう。時刻は4講目の中盤、午後1時20分頃、舞式夜美に対して、魔法で攻撃した行為が確認された。その後、舞式夜美は嗣閃修子を魔法で気絶させて逃亡した後、放送室に立てこもった。1年1組は、放送室に追いかけて、扉を破壊しようとする行為に及んでいた所を、この私、冷宮恭人が捕獲した」
まず、恭人はこの件に大雑把に説明した。夜美はともかく、1組からすれば、間違っていると思えるものだった。
「双方、この件に関して相違は?」
「異議あり!」
夜美は無言を貫いたが、修子たちが声を出す前に、野次馬の一人が声を上げた。
「許可する」
「魔法で攻撃は誤りです!あれは、偶発的な事故です!それを、舞式さんはわざとと思い込んで・・・!」
案の定、予想出来た非難だった。
恭人は、この事件の裏背景をだいたい知っている。それは、被害者にして加害者でもある(という扱いにしていた)夜美と、その兄、亮夜も知っていた。
だが、それを表立って言うことは出来ない。
それを口にすれば、身内を庇うのも同じであり、突き詰めれば、二人と亮夜の自作自演の冤罪を着せられる恐れもある。
そういうわけで、今は本心を無視して、平等に接しているつもりだった。
「・・・この発言に対し、異議のある者はいるか?」
「発言させてもらってよろしいでしょうか?」
形式的に続ける恭人に対して、亮夜は声を上げた。
「許可する」
「該当者は1年1組。1年とはいえ、この程度の魔法制御が行えないとは考えにくいです。あれは、偶発的な事故に見せかけた、故意の攻撃だと予想できます」
「言いがかりだ!」
亮夜の発言に対して、1組の一人が声を荒げた。
1組の同罪者たちは、言うまでもなく、修子がやったことを知っていた。
本来なら、当事者の修子が反論すべきだろう。
しかし、ここで修子が発言をすれば、間接的に自分の罪を認めることになってしまう。
それを察した同罪者たちは、代わりに発言をした。
「大体、なぜ「10」のお前に決めつけられなくてはならないんだ!」
「では、この中に舞式夜美の弁護人となる人物はいるか?」
そもそもの前提を否定した発言に対し、恭人はそう言い返した。
夜美が1組内で孤立している事実もあって、誰一人、彼女の元につく人物はいなかった。
そのため、立場的平等のために、彼女の実の兄である、亮夜が同席している__のは建前で、実際の所、事情を知る亮夜の発言力を上げることが目的であり、弁護人を何人か用意させたこと自体が、恭人の計画であった。
最も、そんな事実を知るのは、恭人だけであり(亮夜たちには、表向きの繋がりがないようにするため、伝えていない)、傍から見れば、身内だから置いているようなものだった。
結果として、亮夜の代役になる勇気を見せる人物はいなかった。__勿論、恭人はそうなることを予想していた。
言葉が詰まったのを見て、恭人は進行させた。
「では、聴衆の諸君はどう思いますか?」
ここで、恭人は話を聴衆に譲り、大衆の意見を聞いた。
この話のポイントは、夜美を攻撃した魔法は、偶発か、故意か。
多くの人物は、偶発だと答えた。それは、事情を知らないということと、面倒なことにしたくないという、僅かにある不真面目さが、そうさせたのだろう。
一方で、故意と答えたのは、真面目な人が多い傾向にあった。「2」から「1」に上がった2年生も、魔法制御の重要性を理解しているのだから、そう答えていた。
現在の空気は、夜美が不利な状態で進んでいる。
「では、次に双方の言い分を聞こう。舞式夜美、どうぞ」
ここで亮夜と夜美に想定外があったのは、話の切り出し方だった。
亮夜たちは、この一件が、夜美への悪意があったから始まったのだと知っている。
だが、この状況では、言いがかりになりかねない。例え、恭人たちが真実を知っているとしても、相手にそう捉えられれば、逆効果になる。
「私は、現在、1組の生徒たちにより、いじめられています」
しかし、それらを打ち合わせる時間は、亮夜たちにはなかった。
その結果、夜美だけの考えで、何の臆面もなく、夜美は自分の立場__客観的に見た__を告白した。
「何だと!?」
「あれは楽しんでいただけよ!悪戯のつもりよ!」
「静かにしてください」
1組の野次馬が文句を言う中、恭人は沈黙させて、夜美に続きを促した。
「入学してすぐに、嗣閃修子さんと、令院堂棟寺月美玲子さんを中心に、嫌がらせを受けるようになりました。お兄ちゃんと一緒にいた時も、引き離そうとする罵声を浴びせられました。月曜日からは、机に落書きされたり、スカートをめくられそうになったり、ロッカーや自分の鞄に蛇などの動物を入れられたり、魔法を試合外でぶつけられそうになったりしました」
夜美の発言は、多くの女子からの共感を買った。
「今回の件も、最初は事故に見せかけた、明確な攻撃です。確かな悪意をもって行われました」
「嗣閃修子を倒した件については?」
「明確な悪意を持ち、しかも先に攻撃した以上、これ以上の放置は危険と判断しました」
「なぜ、危険と判断した?」
一見すると、恭人も嫌がらせに加担しているように思えるが、彼は真相を知っている立場だ。
そして、夜美はその意思を理解していた。
「攻撃をされた際、危うく巻き添えになりそうだった男子生徒がいました。無関係の人が傷つくのは良くないと判断したため、強引に倒しました」
恭人の狙いは、巻き添えになりかけた人物もいたということを発言させることだった。
「何だよそれ!ケガをしていないからいいじゃないか!」
「嗣閃さんのケガの方を心配しろよ!」
「医療班が確認したところ、短時間の昏睡で済んでいた。精神的にも、悪影響はない」
夜美の発言に対して異議を唱えた1組たちを、恭人は裏付けを公開して、沈黙させた。
「というか、誰だよ!危うくケガした奴って!」
その様子を見ていた一人の小柄な男子生徒。
ここまで、自分もいじめられるのが怖くて、やむを得ず、修子たちに加担していた。
現場で余計なことをしないように、自制を貫こうとしていたが、本当は、反対を唱えたかった。
そして、今日、夜美がかばってくれた。
何とかして、反撃に出たかったが、ここが最大のチャンスだ。
「あの、すみません」
とはいえ、自分は弱気で、恥ずかしがり屋なのは自覚している。
こんな状況で、声を出すのも恥ずかしいが、もしかしたら__。
その意識で、彼は声を出した。
「許可する」
恭人の声にも少しびくびくするが、彼は自分を叱責して、奮い立たせた。
「僕は、1年1組の和藤亮汰って言います。舞式夜美さんの発言は事実です」
周囲のざわめきは一気に大きくなった。
幸い、裏切り者に対する非難が出てくる前に、恭人が「静粛に」と、沈めたので、脱線することはなかった。
「あの時、舞式さんが止めてくれなければ、きっと僕に当たっていました。ごめんなさい、舞式さん、騙すような真似をして」
亮汰は、中央にいる夜美に向かって、頭を下げた。
確かな証言者と、同罪者に仕立て上げられた人物がいたという事実は、夜美に味方する人物が多くなった。
中には、亮汰に罵声を浴びせようとした人物もいたが、それを阻止してあわや喧嘩となりそうな所を、恭人が再び止めたことにより、話は一旦落ち着いた。
「ひとまず、舞式夜美の言い分はここまでとしよう。嗣閃修子、令院堂棟寺月美玲子、あなたたちの言い分を聞かせてもらおう」
夜美の話を一度打ち切ることにして、修子と玲子に水を向けた。
元々、この事件は、二人の共通の敵を倒すべく、仕組んだ敵対行為だ。
おいそれと、真実を述べることは出来ない。
「この件は全て、舞式夜美が仕組んだ、私たちを陥れる行為です」
答えたのは、修子に比べて、幾分か常識的な玲子であった。
「偶発的な事故をいいことに、修子ちゃんを攻撃して昏睡させた後、放送室をハイジャックしようと企みました。先生たちを利用して、私たちを陥れるために」
最も、その発言は、恭人がとってきた裏と、夜美の発言とは真っ向に食い違っていた。
「私たちは、それを阻止しようと、一丸となって突撃しました。しかし、彼女は魔法を使って足止めをしてきて、そうこうしている内に、会長とそこの男に捕まえられました」
そこの男とは、舞式亮夜のこと。亮夜が恭人を先導した他、実力行使の段階では、協力して物理的に抑えた。
「申し遅れましたが、会長、舞式夜美の陰謀を阻止してくださりありがとうございました。おかげで、陥れられることにならずに済みました」
実に白々しい。
恭人はそう思った。
「しかし、舞式夜美は、生徒会書記だったはず。生徒会にも確かな落ち度がある以上、厳正な罰を所望します」
そもそもこんなことになったのは、主犯格、つまり、修子と玲子が、自分たちの罪を認めようとせず、夜美に罪をなすりつけようとしたのがきっかけだった。
一応は無実となっている夜美に、はいそうですかと押し付けるわけにもいかなかったので、仕方なく大規模にして、逆に彼女たちに正式な罪を押し付けようかと、恭人は企んでいた。
「しかし、舞式夜美の証言とは、真っ向に食い違っている。どちらの証言が正しいのか、もう一度確認をとる」
自分の目線で見れば、修子や玲子たちが悪いのは一目瞭然なのだが、生憎、裏事情を知らない一般人はそうはいかない。
最も、夜美の巻き添えになりかけた証言者の発言を始め、どちらに肩入れすべきか分からない状況になっているのも、一般から見れば事実だ。
「玲子さんたちが言っていることは、いいがかりです。放送室に逃げ込んだ後、機材には一切、手をつけていませんでした」
「そんな証拠がどこにあるというの?そちらこそ、私たちが明確な悪意を持っていたことを証明しなさいな」
「あれだけ嫌がらせをしておいて、悪意がないとは、酷い冗談だね」
「子供心も理解できない人など、初めて見ましたわ」
「そちらこそ、「1」のくせに、善悪の区別もつかない、ダメ女たちだったとはね」
「冗談も通じなく、ユーモアの欠片もない。空気をここまで読めない女でしたとはね」
しかし、話は夜美と玲子の挑発合戦に切り替わっていった。
このままでは、第2ラウンドが非公式の場で行われかねない。
「いい加減にしろ。このような手段は不本意だが、双方に罰を下さねばならんようだな」
止むを得ず、恭人は強引に終息させる手段をとることにした。
「舞式夜美。お前には、殺傷未遂と、放送室立て籠もりの処罰につき、4日間の停学を処罰する」
「な!?」
「待て、冷宮君!」
亮夜が驚き、若井も、余りに重い刑罰に絶句した。
「そして、嗣閃修子と令院堂棟寺月美玲子。お前たちは、魔法の不適切使用と、その他問題行為につき、2日間の停学に加え、反省文を書いて頂き、後日、1週間の追加業務の罰を与える。また、加担者全員に、反省文の罰を与えよう」
「どういうことですの!?」
「重すぎじゃありませんこと!?」
「何で俺たちまで罰せられるんだよ!」
修子、玲子、そして、野次馬が次々と、恭人に反発した。若井も、声にこそ出していないが、やりすぎではないのかという非難の目を、恭人に向けていた。
「勘違いするな」
しかし、恭人の非常に重い、冷たい声が、全員を沈黙に追い込んだ。
「今回、双方は魔法科生徒として、相当な重罪を行った。本来なら、退学させられても文句の言えない立場だ」
これは、一部正しくて、一部誤りだ。
真実を考慮すれば、夜美は停学で済むものの、修子たちは本当に退学になる可能性がある。
若井を含めた、先生たちは、この罰は重過ぎると思った。
夜美に至っては、事実上の魔法師友好会への参加を禁じる罰であり、この学校の足掛かりを考慮すると、余りに重い罰と言えた。
しかし、恭人に異議を言うのは、先生という立場でも困難だった。
学業、素行、成績、態度、身分、どれをとっても、文句のつけようのない彼に、はっきりと異議を言うのは、たとえ先生であっても、確固たる覚悟が必要だった。
そして、それだけの覚悟を持つ先生は、この中に存在しなかった。
「それとも、この生徒会長にして、「冷宮」である、私の罰が不服と言うか?」
夜美と亮夜は何も言わない。
修子たちに至っては、絶句していた。
「決まりだな。先生、先ほど決定したことの手配を」
「は、はい」
恭人が決定を宣言し、先生たちに処罰の準備を指示した。
その後、恭人が部屋から去り、野次馬、先生たちが次々と出ていき、最後に亮夜たちが出たのは、会議が終わって10分後の話だった。




