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魔法解放少年  作者: 雅弥 華蓮
第7章 chaos
75/121

6 秘密

 修子と佳純の密談があった次の日、学内では、健康診断が行われた。

 魔法師は、通常のパーソナルデータだけではなく、精神や遺伝子などの検査も行われる。そちらの方にイレギュラーなことがあれば、発生する可能性のある病気の対処や、適切な指導教育__ただし、ほとんどが上級生向けである__が出来るといったポイントがある。

 例えば、魔法の過剰使用による、精神への直接的な障害__記憶喪失、精神崩壊が多い傾向にある__、強い魔法師の遺伝子的情報を得るといったことを予想することが出来る。

 一方、魔法とデータは必ずしも一致しないのに加えて、そもそも謎に包まれている部分も多い。そして、個人情報は、自身の能力をそのまま表すことになるため、普通のものよりも、情報の機密性が重要となる。

 そういうこともあって、学内は、一段と大きな騒ぎを見せていた。

 しかし、舞式兄妹はそろって、欠席していたのだった。




 二人が欠席したのは、健康診断が嫌いだからという理由ではない。色々量られたりするのが恥ずかしいという理由でもない。

 彼らが何よりも優先しているのは、自分たちの安全の確保だ。

 亮夜と夜美は、「司闇」の血を引いている。

 そのことを、隠し通さなければならない。

 エレメンタルズや魔法六公爵は、遺伝子改造されており、その痕跡もばっちり残っている。

 さすがに、統計データで「司闇」の人間だとバレる可能性は低いと思っているが、疑いの目を向けられるのは避けようがない。

 さらに、亮夜の場合、精神の構造が普通の魔法師と異なり、完全にイレギュラーそのものであった。

 この情報が漏れてしまえば、確実に、政府の実験道具とされかねない。

 もっと言えば、「司闇」とは別の、亮夜と夜美の、二人の秘密に関わることになるため、現状を理解している二人には、到底容認の出来ないことであった。

 そこで、健康診断に使うデータを自前でとってくるという作戦をとり、偽造工作も兼ねて、ごまかすということを、あの時から繰り返し続けてきた。

 そういうわけで、二人きりで健康診断を行うということを、行い続けてきたのだった。




 いつもの服装と違い、検査着のような、白くて綺麗なガウンを、二人は着ていた。

 舞式家の地下には、様々な仕掛けが隠されており、ちょっと操作をすれば、健康診断に使う機器が揃った。

 バーを頭に乗せて身長を計り、体重計に乗って体重を量り、視力検査、内科検診、その他もろもろを済ませた後、専用のスキャン装置を使って、魔法を使う精神を調べて、データをとる。

 始めて2時間ほどが経過して、ようやくデータをまとめ終えた。

 亮夜は、紙の媒体に写したものを、夜美に渡した。

 夜美の身長は、このくらいの女子平均より格段に低く、体重も、平均と比較して軽い方だ。身長とのバランスを考えると、少し重いものの、それは密かについている筋肉の影響が大きいと言える。

 視力は十分で、内臓などにも異常は見当たらない。そして、脳と精神の状態も、いつもと変わらず、特別問題な点もない。

 __そんなことを亮夜にざっくりと説明されて、夜美は少し恥ずかしがりながらもほっとしていた。__なお、ちょっとばかり、スタイルが良くなって、最低限感じられるよりはましになったという評価に関して、すごい早口であった。

 一方、亮夜はやはり平均よりは低めだが、夜美の身長に比べればましだ。こちらも細マッチョと言うべき程の筋肉がついているため、妹同様、デブとは無縁だ。内臓的にもほとんど問題はない。

 しかし、脳は明らかに異常を示していた。

 大半が黒く染まっている。

 つまり、ほとんどが機能していない。

 精神の方も、所々に異常を示す赤い点が見えている。

 所々が破損していて、上手く魔法を使えない証拠だ。

 これは、亮夜の身に起きた、ある悲劇に影響されている。

 6年前、司闇の研究の元で、亮夜の精神は崩壊した。

 その後、夜美の心に触れるという形で、なんとか精神は回復した。

 だが、一度壊れた物が元に戻ることなど、二度とない。

 崩壊した影響で、記憶のいくつかが喪失し、さらに脳の一部機能にも影響を及ぼした。そして、それは魔法を扱うことにも強い影響を及ぼした。

 このことが原因で、亮夜はいびつな、ある意味での人造魔法師ということになった。

 感情表現能力の低下、思考速度のムラ、精神成長の停滞、夜美への過剰な執着など、司闇とは別の、人間として様々な異常を起こしている。

 さらに、破損した記憶が原因で、大量のトラウマが配置され直され、無意識にも影響が出始める始末だった。

 魔法を扱う無意識にもこれが侵食した結果、魔法を扱う時は、その都度、トラウマが呼び出されることで、精神へのショックを受けることになる。しかも、無意識は睡眠時などにも動くため、魔法師どころか、人間として過ごせるかも怪しい状況となっていた。

 幸い、亮夜の精神の治療を行った際に、夜美と直接的な接触に成功したため、夜美の存在そのものが中和を果たすことで、無意識のトラウマの暴走を一時的に阻止することに成功している。

 そのせいで、夜美の一部活動が大きく制限されることになるのだが、二人はそれに否を唱えなかった。二人は相思相愛で、あまり問題としていなかったからだ。本人たちは意識していないが、自然からしてみれば、精神に限ったとはいえ、生き返らせたことの代償とも言える。

 そういうわけで、亮夜の精神は非常に歪であった。(ちなみに、検査していないが、亮夜の身体には、女性のモノがつけられた跡がある。このことも、一般の健康診断に頼らなかった理由の一つだ)

「とりあえず、お互いに異常はなしっと」

「ちょっと・・・とはいえ、増えるのはちょっと複雑だなぁ・・・」

「ダイエットは無理しない範囲でな」

「分かっているよ・・・」

 評価し終えて、亮夜と夜美はこうして雑談に入り始めていた。

「ところでどうかな、魅力的に見える?」

「うん、とても可愛いよ」

「それは嬉しいけど、ほら、女としてさ!」

「・・・」

 いくら妹に甘い亮夜といっても、これは流石に口に出来なかった。

 どう口にしても、上手く答えられないのは分かっている。

 亮夜が不機嫌になったのを鋭敏に感じ取ったのか、夜美は少し慌てて話題を変えた。

「あ、ゴメン。ところでさ、治る見込みあるの?」

「・・・全くもって分からない。あえて言うなら、トラウマを克服できればなんとかなるかもしれないけど、絶対無理」

「・・・そうだよね。あたしなら、死んじゃう自信あるもん」

「そんなところに自信を持たないでくれ」

 その話題は、なごませるには、不釣り合いすぎるものだったが。

「焦っても仕方のないものであるのは確かだろう?それに、今は二人とも一応は健康でいられているんだ。それだけでも良しとしないと」

「・・・うん。ごめんね」

 思考が歪んでいるといっても、夜美に関係する思考なら、かなり鋭く動く。

 また兄に気遣わせたことを心苦しく思いながら、夜美は亮夜に笑いかけた。

「さて、後は記録を少し改造して、提出用のデータに纏めておくとしよう」

 本来なら、健康診断は義務であり、ちょっとやそっとではサボタージュすることは出来ない。

 だが、亮夜たちは自前で健康診断を行い、そのデータは確保してあるので、名目上は問題ない。

 後は、直接出せない物を少し改ざんして__二人の遺伝子情報と、亮夜の精神情報が主な対象である__、別データとして提出すればこのやりとりは終わりであった。




 一方、学校では、わいわいとからかいが続く、健康診断が繰り広げられていた。

 男性陣の身長の競い合いや、女性陣の弄り合い、結果を直視出来ない一部人物の嘆きなど、一言では言い表せないようなちょっとした騒ぎになっていた。

 なお、男性陣と女性陣では、時間配分とルート配分が異なっているため、異性に晒されそうになるという危機は起こらない。

 1年1組の嗣閃修子は、個人でとったデータを学校運営に提出して、ゆったりと観賞していた。

 既に誑し込んだ生徒たちの話では、亮夜も夜美も姿を見せていないらしい。

 あんなことをやっておいて、実は恥ずかしがり屋ではないのかと考えたが、あんな堂々と、矢面に立つなどできないはずだ。

 ならば、早くも自分たちの企みを見破られて、逃げられたのかとも考えたが、そうだとしたら、どうやって知られたのか疑問に残る。

 もしかしたら、本当に急用が入ったのではないか__と考えて、これ以上は思考の無駄だと判断した。そこまでくると、考えても仕方のない仮定に入るからだ。

 データベースで調べても、「舞式」に関するデータは出てこない。舞式亮夜、舞式夜美の話ならば、学内など、一部で聞けるのだが、「舞式」としての活動記録は残っていなかった。いや、記されていなかった。

 また、個人や専用の医療機関に頼るより、学内のイベントに頼った方が、値段的には格段に安上がりだ。普通ならば、こちらを選ぶに違いない。

 どう考えても、不合理な部分が出てきて、謎が生まれてしまう。

 ひとまず今日は、学内で贅沢に一服してから帰ることに決めた。




 次の月曜日、亮夜と夜美は、生徒会室に向かった。

 今回、やってきたのは、1年1組内で発生し始めている夜美へのイジメ行為に関する相談であり、そのために早くやってきた。

 待っていたのは、恭人一人。

 普通の椅子に座っていた彼に対して、亮夜と夜美は、向かい側の椅子に並んで座った。

「まず、単刀直入に言うと、夜美以外のほとんどが、今回の件に加担しています」

「随分、酷い話だな」

 亮夜の報告に対して、恭人は厳しめな態度をとっていた。

なお、本来話すべき立場である夜美は、亮夜に任せるつもりでいた。実際、恭人も気にしていないので、夜美はあくまで義理でいるという部分が強かった。

「この件の首謀者は、令院堂棟寺月美玲子と、嗣閃修子の二人です。二人に共通することは、名門出身であるのと、夜美に負けたということです」

 ここから見える繋がりは、夜美に負けたことを根に持って、手を組んだという背景が浮かび上がる。

 それは、完全に正解なのだが、亮夜も、恭人も、より複雑に考え込んでしまい、表面的な真実から遠ざかっていた。

「お前の言う通りだけだったら、随分、精神教育がなっていないな」

 恭人の言うように、首謀者側の考え方が、余りに幼稚すぎると、受け取られた。

 亮夜も、彼の言っていることには同意していた。

「現状、分かっているのはここまでです」

 ただ、欲をいうなら、もう少し情報が欲しいと、恭人は思った。

 イジメとして、告発するには、情報がもう少し欲しい。

「今まで、どのような嫌がらせを受けたのだ?」

 結局、単刀直入にそう切り込んだ。

 恭人は、ナルシストであるのだが、誤った意味で、過大評価はしない。

 裏を返せば、真面目で、まっすぐなのだ。

 今も、何の捻りもなく、亮夜たちにそう尋ねた。

 夜美を不愉快な気持ちにさせる可能性があるというのを、分かっていて無視をした。

「現状、無視をされるだけで、独りぼっちにさせられているだけです」

 幸い、肝心の夜美には、そのような気遣いは必要なかった。

「最も、この程度で堪えるような夜美ではありませんが。このまま無視を続けてくれるだけなら、特に問題もありませんがね」

 さらに、亮夜の付け加えた一言により、現状は、問題にする必要がないということを、恭人は理解した。もっと言えば、この話をしている間中、夜美の表情筋が崩れず、ただ頷いていただけだったので、兄の思い込みでもないということも分からされた。

「・・・つまり、今から手を出す必要はないということか」

「はい。ただ、いつ、次のステップに上がるかは分かりません。いざという時に、迅速かつ安全な対応が出来るように、万全にしておくべきだと思います」

「そうだな」

 亮夜の推測混じりの進言に、恭人は頷いた。

「ただ、いざという時、__」

 さらに、亮夜は一つ、恭人にあることを要求しておいた。

「お前達、それでいいのか?」

「問題ありません。万が一、そのような事態になったら、そうしてくれて構いません」

 恭人は多少驚いた顔を見せたものの、亮夜は肯定しているし、夜美も頷いている。

 万が一のことだと納得させて、恭人は頼み事を心の片隅にしまっておいた。

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