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魔法解放少年  作者: 雅弥 華蓮
第7章 chaos
73/121

4 1と10

 1年1組内で密かに、修子と玲子による、夜美打倒同盟が結成された。

 無論、夜美はそんなことを知らず、それどころか、周りの喧噪を無視して、データのチェックに勤しんでいた。

 今回は、夜美の方が賢かった(行動的な意味で)ようで、授業が始まった時には、一応、喧嘩が沈黙していた。

 オリエンテーションももちろん行われるのだが、亮夜の時と違うのは、指導教員がついているということだった。

 亮夜が所属しているクラスは「10」。学年で区切られた魔法のランキングにおいて、最底辺を意味する。言うまでもなく、学校はそのような認識はしていないが、生徒たちからは、そう思われていることも少なくなかった。また、基本能力がその程度しかないということは、将来的な魔法能力は見込めないということだ。

 一方、夜美が所属しているクラス「1」は、トップレベルのメンバーがほとんどだった。無論、総合的な魔法能力を見ても、特に期待が出来るということだ。

その魔法師たちを指導教員が懇切丁寧に教えればどうなるか。

「10」を始めとする下級組より、遥かに成長速度が速くなり、最終的な魔法能力は格段に高くなる。

 ならば、「10」を含めて、たくさんの指導教員を用意すべきだろうと思うが、指導できる程の魔法スキルを持つ人物は、相応に限られている。単純に、魔法界の中でも上位の実力がないと務まらないのに加えて、先生としての指導能力も要求される。

 この2点に優れた人材を多数用意するのは、魔法が発達したこの世界においても、決して容易なことではなかった。

 結果として、特に優秀なのは上位の方に回され、下位の方には、取り敢えず務められる程度の能力か、魔法スキルは諦めて、指導能力に優れた指導者を配置するという状況となっていた。

 言うまでもないが、このような状況では、上級組と下級組の差は広まるばかりだ。

 だが、より優れた魔法師を育成するには、このように偏った教育をしないと、手が回らなかった。そして、下位の魔法師は、概ね独学という、絶望的なハンデで結果を出さなければ、魔法師として生きるのは絶望的であった。仕事自体は与えられるのだが、魔法を使って魔法を進めていく世界には、到底入ることは出来ないという、実力主義そのものの世界であった。

 それが、魔法師を志す際に与えられる、最も過酷なルールであった。

 そういうこともあって、単純な実力が極めて優れている夜美の元に、たくさんの人が集まろうとしているのは必然と言えた。無論、夜美本人の可愛さに魅了されたという人物もいるが。__このため、女子生徒より男子生徒の方が多く集まっていた。

 とはいえ、休み時間に、外に出た夜美に無暗についていく人物はさすがに少なかった。

 女子生徒が少数ついていく程度で、女子トイレに差し掛かった__と思ったら、全く違う方向に向かい出した。

 取り巻きがさらに減って、夜美が向かった先は、下位のクラスの方だった。しかも、2年10組であった。

 どうしてここに来たのかと疑問に思う女子生徒たちだったが、さらに驚くことに、夜美は迷わず2年10組に突入した。




 昨年に続き、2年10組のクラス委員長となっている舞式亮夜は、取り巻こうとしている取り巻きを気にせず、読書に耽っていった。

 昨年の魔法試験で、1年4組の黄道礼二を倒したことは、学内中でのニュースとなり、魔法大戦に影響が出た程だった。

 当時者である亮夜には、非常に鬱陶しい目が集まり、以下に彼のメンタルが強い(ただし、特定分野を除く)といっても、平然としていられる程ではなかった。

 いつものように、過剰な干渉は避けて、必要以上に目立たないように過ごしていた。

 一方で、亮夜の性格を知っていて、今年も同じクラスメイトとなっていた、高本陸斗、花下高美とは、度々会話をしていたり、授業中に一緒になって課題を取り組んだりもしていた。

 そういうわけで、亮夜は孤立していながらも__実情的に言えば、イジメの意味合いより、近寄りたくても近寄れない憧れや何をされるか分からない恐れの方が強いということに亮夜は気づいていない__再びポジションを固め直していた。

 そんな2年10組に新風が吹いてきた。

 突如、現れた女子生徒。

 体格が非常に小さく、中学生どころか、小学生に間違えられそうな程。

 しかし、その顔はよく知られている。

 1年1組にして、今年の新入生総代、舞式夜美だ。

 そんな凄い人物が__嗣閃修子と関係する色々な事情は、生徒会と亮夜が口を噤んでいるのと、修子が隠蔽を命令したため、表沙汰になっていない__、なぜここに来たのかと、興味と恐怖と好意の目が入り混じっていた。

 その本人、夜美は全く気にせずに、教室に入り込んだ。

 周囲が固唾を飲んで見守る中、夜美はある人物へ近づく。

 その人物の前に来た時、夜美の口から思いがけない一言が飛び出してきた。

「お兄ちゃん」

 夜美の実の兄、舞式亮夜の側にやってきた舞式夜美は、跪いて、亮夜を上目遣いで見上げてきた。

 その光景に、周囲の取り巻きに電撃が走った。

 あの新入生総代の兄が、この亮夜だったなんて。

 しかし、兄は「10」で、あの美少女が「1」なんて。

 いや、兄があんな天才なんだ。妹が普通の天才だというのもおかしくない。

 あんな妹がいるなんて羨ましい__。

 そんな驚愕と嫉妬の視線が一気に集中したのを丸きり無視して、亮夜は突然やってきた妹に少し驚いていた。

「こんなところに来ていいのかい?」

 主に、「1」である夜美が、「10」である亮夜の所までわざわざ来たことに。

「お兄ちゃんに会いたかっただけだったのに」

「ゴメンゴメン、本当に変わらないな、君は」

 夜美が自然に亮夜に甘えていることも、亮夜がいつになく楽しそうな顔を浮かべていることも、周りには、ただ驚くことしか出来なかった。

「よく数分しかいられないのに僕の所にくるなんてね」

「お兄ちゃんの所にいるだけで癒されるもん」

 そして、その妹としての姿は、周囲の夜美へのイメージを丸きり変えた。

 新入生総代としての夜美は、「1」としての風格を持ち、可愛い顔には棘があるという印象を与えていた。

 それが、今は、とびきりの美少女妹に変貌を遂げて(あくまで周囲のイメージである)、ただ、兄に甘えているだけの、一部の男が夢を抱きそうな理想の妹に映っていた。

「それにしても、ここは居心地がいいね」

「まさかとは思うけど、僕がいるだけというわけではないよね?」

「それもあるけど、どこか雰囲気が柔らかいでしょ?お兄ちゃんの友達って、いい人ばかりだね」

「・・・そう言い切れる君が本当に羨ましいな」

「あたしの所はさ、何か邪なことを考えているような人が多くてさ。何か気が萎えるんだよね。でも、お兄ちゃんと一緒なら、どんなことだって嬉しいよ!」

「褒めたって、何もでないよ」

「そう言っておきながら、頭撫でているでしょ」

「僕がこうしたいから、こうしているだけだよ」

 コロコロと話しが変わっていき、兄妹としての仲の良さを見せつけられた周囲の人物は、羨ましさ混じりの溜息を吐くのに堪えていた。

「そろそろ次の授業だ、もう帰るんだよ」

「もーう、でもしょうがないな、またね」

「気を付けるんだよ」

 座ったまま、夜美を見送り、亮夜は一気に変化した周囲の目に対応しようとした。

 もちろん、亮夜の予想通り、たくさんの声を浴びせられることになった。

「舞式!俺にも紹介してくれ!」

「舞式君!舞式さんと友達になりたい!」

 というようなお近づきになりたい声から、

「お前・・・シスコンだったのか」

「うわー、意外」

「唖然なんだけど」

 というような呆れ声に、

「ずるいぞ!俺にも紹介しろ!」

「この勝ち組め!」

「羨ましい・・・!」

 というような、嫉妬の声まで、次々と飛んできた。

 亮夜はその声を全て無視して、

「次の授業だ」

 拒絶の意思を含めて、次の授業へ意識を向けた。




 夜美についてきた、1年1組の女子生徒たちは、夜美の態度に唖然していた。

 そして、夜美に抱いていた、優等生なイメージは完全に崩壊していた。

 その現実を受け入れられない取り巻きたちは、夜美に抗議を重ねた。

「舞式さん!そんな態度じゃあ、「10」になめられるわよ!」

「分別はちゃんとつけなきゃ。新入生総代がそんなんでどうすんのよ」

 中学までは聞かなかった、自分と亮夜を否定する声。

 とりあえずは中立を保とうとしていた夜美だったが、彼女たちに友好的な態度を見せる理由は消えた。

「あなたたちに従う必要なんてない」

 その一言で、夜美は拒絶した。

 ほとんどのことが亮夜優先ということもあるが、もとより、夜美は見下すような態度を嫌っていた。

 どうせ、自分は自分。他人は他人なのだ。

 わざわざくだらないプライドのために、合わせる必要は、夜美には感じられなかった。

 魔法界の闇を知っている彼女は、単にエリートとして迎えられたことを、少ししか喜んでいない。

 亮夜のサポートに徹し、魔法界の変革を行うことを手助けする。

 そのために、夜美は亮夜と同じ学校で、知識や技術を学ぶつもりでいた。

 勿論、亮夜とは言うまでもなく、普通の高校生として過ごしたいという気持ちも夜美にはある。

 だが、この状況では、そんな生活は夢のようだと、夜美には思えた。

 気持ちが不愉快になったこともあって、いつもより、感受性が悪い意味で鋭くなっている。

 露骨な悪意を、夜美は感じていた。

 さらに、自分に対しての邪な目線も感じていた。

 オリエンテーションを聞いていても、そのような意識は消えない。いや、消えてくれないと言うべきか。

 いつになく機嫌が悪いと思い始めた夜美は、全ての意識を目の前にだけ向けて、悪意を残して、シャットアウトし始めた。

 昼食の時間が始まって、夜美は真っ先に教室を飛び出した。

 そのまま、別フロアにわざわざ遠回りしてから、2年10組に駆け寄った。

 夜美が不機嫌であることを、クラスメイトも察しており、真っ先に飛び出した彼女に付きまとおうとする猛者はいなかった。夜美の方も、付きまとわれるのを嫌がって、わざわざ別フロアまで移動したのだった。

 一人でやってきた彼女を迎えたのは、言うまでもなく亮夜だった。

 亮夜は、陸斗と高美に断って、夜美と二人きりで教室を出た。




 二人は食堂に向かった。

 食券を購入して、受付で渡した後、ICカードに記録された番号を使われて呼び出されるというシステムになっている。

 そのため、大行列ということはそれほど多くないのだが、今回は相当な行列だった。おそらく、1年が入学してきて、勝手がつかめないからだろう。

 ちなみに、亮夜は今までお弁当がほとんど__大体夜美が作ってくれるのだが、逆に亮夜が作ったこともある__だったが、今回は夜美のリクエストで、学食を食べることにした。

 さすがに行列が長いと、留まっている時間が増える。

 ただでさえ注目を集めやすい立場にある夜美に、大量の視線が刺さった。

 そして、夜美が寄り添っている、亮夜にも、大量の視線が刺さった。__こちらには、嫉妬の意識が強い。

 二人は並んでいる間、学食に関係する話題以外、あまり喋っていない。雑談を延々と繰り返す女子グループは言うまでもなく、大声で喋る男子たちに比べれば、マナー的にはまともだったと言えるだろう。

 食券と引き換えた後、呼び出された二人は、それぞれ食品を受け取り、端にある二人きりの椅子に座った。

 俗に言う、カップルシートなどと揶揄される場所だが、兄妹とはいえ、何の抵抗もなく座る二人は、色々な意味で大物と言えるだろう。

 三分の一程、食べ終わった二人は、飲み込んだのに合わせて、雑談に入り始めた。

「どう?楽しく過ごせているかい?」

「全然」

 珍しいことに、亮夜の前でも露骨に不快感を見せている。

 亮夜と一緒にいた時も、機嫌がいいとはいえず、何とも言えない態度をとり続けていた。

 一体、夜美に何があったのだろうか。

「クラスメイトがさあ、一つ言えば、お兄ちゃんのことを悪く言うし、二つ言えば、あたしはお兄ちゃんに近づくべきじゃないとか言うし」

 仕方がないことだろうな、と亮夜は思った。__夜美が不機嫌になった理由に関して。

「僕のことはともかくだ。他にも不満はあるのかい?」

「友達が出来そうにないことはいいとしてさ、なんていうか、貴族意識が強いんだよね、1組のみんな」

 亮夜の同級生である、2年1組では、そのようなことが、露骨には見られない。

 ただ、恭人に監視されているから、そのような態度を出せないか。あるいは、夜美と違って、当事者じゃないから、詳細を知らないか。

 どちらもありそうな話なので、亮夜は相槌を打つだけにして、肯定も否定もしなかった。

 そのせいで、友達が出来そうにない、という問題発言を、亮夜はスルーしてしまった。

 __気づいていたとしても、歯の浮くようなセリフをかけるに違いないので、この場に限って言うなら、結果オーライなのかもしれない。

「それは困ったな。僕が直接乗り込むわけにもいかないしね」

「どうして、大人とかああいうのって、馬鹿ばっかりなんだろうね」

 夜美がいつになく毒舌を繰り出しているのを見て、亮夜はそろそろ止めに入った。

 あくまで、ここは公共の場だ。

 さすがに、「司闇」の情報などをうっかり出すへまは犯さないだろうが、これ以上続ければ、最終的に困るのは自分たちだ。

「いくら悪いやつらばかりだからって、何もかも否定するのは良くない。弾圧は許されることではないが、何も理解しなくては、和解も生まれないことくらい、夜美には分かっているだろう?」

「ごめん、お兄ちゃん。言い過ぎた」

「分かればいいんだ。さあ、冷めないうちに食べよう」

「うん」

 自分でも、悪意のループに入っていたことは自覚している。

 夜美は亮夜のエスコートに誘導されて、再びご飯を食べ始めようとした。

「なあ、お前。そろそろ舞式さんを返してくれないか?」

 しかし、新たにやってきた、夜美のクラスメイトによって、またしても中断させられることになった。

 その一言で、亮夜も夜美も怒りが限界に達しようとしていた。

「いい加減にしてくれないか。今は夜美と過ごすのに忙しいんだ」

 後輩が先輩相手に無礼な態度をとったことはともかく__そもそも、亮夜はそのような上下関係をとられることには余り気にしていない__、これ以上、夜美の機嫌を損ねれば、最悪、学内を巻き込む乱闘になりかねない。入学してわずか二日でこのようなことになれば、間違いなく自分たちの立場が悪くなることは避けられない。

 しかし、それを理解しているのに、亮夜の返しは不快感を隠そうとしていない。このような事情を抜きにしても、夜美との団欒を邪魔されたこと自体、彼は憤慨していた。

 その男の周りにも、夜美のクラスメイトである人物が多数いる。

「聞いたぜ。お前、シスコンだってな」

「少しくらい仲良くさせてもいいじゃねえか!」

「ずるいわよ!」

「甘やかしすぎよ!お兄さんとしておかしいわ!」

「俺たちは舞式さんと仲良くしたいんだ!少しくらい、話をさせろ!」

 彼らは、夜美とお近づきになりたいという邪心を持った、クラスメイトたちだ。

 だが、夜美が亮夜とすごく親しげに話しているという事実を見て、強い嫉妬心が生まれたことから、このような横暴な態度をとっていた。クラスでは、自分たちよりも劣っているという点も、彼らを増長させた原因の一つだ。

 次々と自分に聞こえてくる罵声に、亮夜の中のもう一つの人格が目覚めようとしていた。

「僕たちの邪魔をして、仲良くとはいい度胸だな」

 恐ろしく鋭い目に、一同は怯む。

 その間に、夜美は奥にいる女性二人に目が入った。

 嗣閃修子に、令院堂棟寺月美玲子。

 まるでクラスメイトを従えているような立場にいる二人に、夜美の意識はさらに硬化していた。

「人の都合も理解せずに、戯言を」

 亮夜がまだ食べていない昼食を持って立ち上がる。

 夜美も、兄に倣って、立ち上がった。何も喋ってはいないものの、明らかに気分を害しているのは、取り巻きにも伝わっていた。

「こんな人に期待したあたしがバカだった。最初から、信じられるのはお兄ちゃんだけ」

 それどころか、夜美は、このクラスメイトに失望すら覚えていた。

 兄を認めない人物など、いなくていい。

 知らず知らずの内に、夜美はクラス内で孤立していた。

 その真実に、全く目を向けずに。

 亮夜たちはそのまま、二人きりで去った。

 残ったクラスメイトたちは、修子と玲子の元に戻った。

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