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魔法解放少年  作者: 雅弥 華蓮
第7章 chaos
70/121

1 新参者

 亮夜と夜美はそれぞれの試験を突破し、次への道を手に入れる。

 恭人たちの案内で、一般人として、魔法大戦の観戦に向かった亮夜と夜美。

 激しい戦いの末に、トウキョウが優勝をもぎ取った。

 一方、その裏で夜美は彼女の双子の姉、深夜との決闘に臨むも、相打ちとなる。

 兄妹は更なる修練を誓い、志も新たに、新年度の幕が開かれる。

 亮夜は2年、夜美は1年として、新たなトウキョウ魔法学校の物語が始まる。

 時刻は午前5時。

 いつもより早く、亮夜は目覚めた。

 いつものように抱きついて眠っている夜美を見て、彼は笑みを浮かべた。

 6年前、心を壊されて、永遠の虚無を彷徨っていた所、救いの手を差し伸べてくれたのは、この目の前にいる妹の夜美だった。

 全てを失った自分に、新たな心と、「舞式」という、新たな名前を与えて、舞式亮夜として生き返ることが出来た。

 その代償として、精神の一部は崩壊して、夜美と一緒でなければ、まともに眠ることが出来ない体質になってしまった。

 少なくとも、亮夜には、夜美に恨み言を言うつもりはない。それ以前に、思いつきもしなかった。

 悪いのは、夜美ではなく、自分たちの元家族、「司闇」であるのだから。

 この6年、最大にして最高のパートナーである夜美と共に過ごして、亮夜には夜美が必要不可欠だという意識がますます強くなった。

 世間一般のきょうだいは、時が流れるにつれて、離れる覚悟が必要らしいが、亮夜にはそんなことは出来るはずがないと思っていた。

 既に自分の半身、いや、もう一人の自分といっても過言ではない程、信頼と信用を見せられる夜美と離れることなど、亮夜には思いにもよらなかった。

 しかし、夜美はどうなのだろうか。

 そのことを考えると、亮夜の顔に憂いが現れた。

 妹は、ずっとこの自分を慕い続けている。

 魔法師的に見れば、天と地の差がある程、自分は弱くなったのに、夜美はそのことを全く気にせずに慕っている。

 少なくとも、信用も信頼もされていると、亮夜は思っている。

 しかし、そうだとしても、自分に縛られているのでは、と夜美は思っているのかもしれない。

 もし、そうだとしたら、その運命が来たら夜美は__。

 その先のことを考えるなど、今の亮夜には想像すら出来なかった。

 その恐怖を本能的に感じ取ったのだろうか。

 夜美が突然、飛び上がるかのように目覚めた。

「お兄ちゃん!?」

「あ、ごめん。起こしちゃったかい?」

 まだ、本来の起床時間には早い時間だ。

 そうであるのに、亮夜が目覚めるというのは、夜美には一つしか考えられなかった。

 しかし、良く見ると、いつもと違って、精神的ショックを起こした痕跡はなかった。

「いや、えーと、お兄ちゃん、大丈夫そうだね」

 何が大丈夫なのかは、亮夜には心当たりがあったので、亮夜も「大丈夫だよ」と返した。

「こっちも気にしなくていいけど。何か不安でもあるの?」

 起こされたことを不満に思っていない夜美がそんなことを言い出した。

 世間などから離れなくてはならないとされた時、夜美は離れるのだろうか、と不安を抱いていたのは事実だ。

 だが、それを口にして、もしも肯定されたら__。

 そのことが亮夜には恐ろしすぎて、正直に言うことは出来なかった。

「お兄ちゃん?」

 返答の代わりに来たのは抱擁だった。

「!」

 急なスキンシップに、夜美の顔が真っ赤に染まる。

 そのことを気にせず、亮夜は自分の望みを口にした。

「夜美はどうか、僕の側にいてくれ。それが今、本心から願っていることだから」

 自分の不安を悟られぬよう、ただ、想いを告げる亮夜。

 そんな兄を、夜美は抱きしめ直して、ゆっくりと、でも、強く頷いた。




 予定よりも少し早く目覚めた兄妹は、いつものように朝の支度をして、済ませた。

 しかし、そこからは、今までと違った。

 夜美が着た制服は、亮夜の物とよく似ていた。それこそ、男女の違いしかないくらいに。

 今日から、夜美はトウキョウ魔法学校生徒だ。__公式的には。

 1年1組、つまり、1年のトップレベルとして入学した。

「今日からまた一緒に学校に行けるね!」

 こんなやり取りをするのは2回目__1回目は夜美が中学校に入学した時だ__なのだが、亮夜も笑みを隠していない。

「うん。やっぱり、夜美が側にいないと少し落ち着かないよ」

「それはあたしも。えへへ、これからもよろしくね!」

 その微笑みは、亮夜の妹として嬉しくて、頼もしいものだった。

 しかし、立場から考えれば、余りに子供っぽすぎた。

 そもそも、少し前にも、口では言えない失敗をしている。一応、亮夜は夜美の兄として、少しは成長しているつもりなのだが、夜美はどうも、性格的な意味での精神的な成長がロクに見られない。魔法の腕前も、知識も、文句のつけようがないというのに、今もこんな調子で、亮夜に無邪気に甘えている。

 果たして、こんな調子で大丈夫なのだろうか。

 最も、それを口にすれば、切り返されるか、気分を害するのが容易に想像できるので、亮夜はそのようなことを口にしなかった。




 その後、案の定、夜美が忘れ物をして家まで戻るというアクシデントもあったりしたが、襲撃事件や女性が暴漢に襲われているといったこともなく、亮夜たちは無事にトウキョウ魔法学校に到着した。

 入学式である今日は、夜美が生徒会に入るという密約が決まっていたので、夜美が新入生総代として参加することになっている。亮夜はその付き添いといったところだ。

「来たか」

「はよ~」

「よっ」

「おはようございます」

 現在の生徒会は、進級に合わせて、メンバーが再調整されていた。

生徒会長は、2年1組の冷宮恭人、会計は、3年1組の佐藤花子、書記は、3年1組の大平武則、3年2組の唐沢佐紀。そして、副会長は、2年1組の遠藤珂美だ。

 生徒会長が2年なのに加えて、3年の方が多いと、前年度は曲者ばかり集まっていたのに対して、今年度は、組み合わせの時点で、癖があった。

「「おはようございます」」

 亮夜も夜美も、生徒会メンバーの集合している場所で、頭を下げた。

 現在、珂美以外は、既に集合している。遅刻常習犯の佐紀が一番遅くに来るだろうと全員が予想していたが、今回は、亮夜たちを除いた4人の中で、一番遅くに来たという程度であった(ちなみに、順番は、花子、武則、恭人、佐紀、亮夜たちである)。むしろ、集合予定時間の2分前になっているのにも関わらず、珂美が来ていないことに、一同は不安を覚えていた。

 だからといって、打ち合わせで決めておいた予定を変える必要を、恭人は認めなかった。

 予定通り、恭人、夜美、亮夜は会場に入場し、それ以外は、見回りに出発した。

 新入生総代である夜美はともかく、その兄でしかない亮夜を連れていくのは、生徒会から見ても、入学式から見てもおかしいのだが、亮夜以外の二人は、そのことを気にしていなかった。むしろ、居て当然のような扱いだった。

「恭人さん、夜美の側にいられるのはありがたいけど、何もここまでしなくても・・・」

 亮夜が思わず、そんな愚痴(?)を言ってしまう。

「何を言っている。お前が夜美にとって、必要不可欠であることは承知の上だ。万全を期すなら、このくらい、お安い御用だ」

 恭人がそんな正論__裏で、権力行使の後が伺えるが、亮夜も夜美も気にした節はない__を、

「そうだよ。お兄ちゃんがいてくれるなら、あたしも安心だよ」

 夜美が追従したので、亮夜は何も言い返せず、素直に受け取ることにした。




 その後、亮夜は在校生の席に戻らなかった。

 そういえば、親友たちにこの件を説明していないため、欠席の疑いをかけられるだろうが、公式としては、恭人たち生徒会が根回し済みなため、学校として追及されることはないので、問題ないだろうと亮夜は考えた。

 1年前は、真ん中からステージを見上げていたが、今回はステージの裏という、ある意味で贅沢すぎるポジションだった。

 ただし、あくまで非公式メンバーという扱い__亮夜はただのゲストだと思っていたが、恭人たちはそのような扱いとしていた__なので、表舞台に出ることは出来ない。言うまでもないが、亮夜はそのことに不満を覚えていなかった。

 現在、ステージには生徒会メンバーが集結している。

 長身、長髪、美形と、文句のつけようのない冷宮恭人。その隣で、妙に影が薄い佐藤花子。その隣には、少しだるそうにしている唐沢佐紀。そして、逆サイドには、大柄な大平武則と、もう一人の女子生徒がいた。

 見回りの時に合流していた、恭人のクラスメイト、遠藤珂美だ。

 この女性陣の中では高めの身長に、短くまとまっている髪。恭人に次いで立ち姿がきっちりしていて、以下にも恭人が気に入りそうな__一人間として__タイプの人間だ。

 夜美がステージに現れて、演説を始める。

 高校生相当としては異様に小さく、それに見合った普段の子供っぽさは、なりを潜めて、一学生として立派なもので、亮夜は少し目に涙を浮かべていた。




 そんな感動は、終わってすぐにやってきた夜美本人の手で、霧散することになってしまったが。

「ねえねえ、お兄ちゃん、頑張ったよね!?」

 1年間、学校を共にしていなかったのか、それとも、余程あの件が響いたのか、式が終わってすぐ、夜美は亮夜に甘え始めた。

 夜美に甘えられるのは、亮夜は嫌いではなく、むしろ、喜びすら感じているほどだが、さすがにこの状況は、空気を読めていないと言わざるを得ない。ちなみに、呆れているのは、珂美だけで、武則と花子は目をそらし、佐紀と恭人は気にしていなかった。

 頭を抱えたくなる衝動をこらえて、亮夜は夜美の肩に手を置いた。

「夜美。いくら頑張ったからといって、わざわざここでご褒美をねだらなくてもいいだろう?」

 だからといって、根本的に、亮夜は夜美に甘すぎる。__もちろん、亮夜に対しての夜美も、大概だが。お互いに引きずっているトラウマのせいで、未だに、厳しくすることが出来ず、少しじゃれ合ったり、こうしてお預けするのが精々だ。

「うう、だって・・・」

「もう、しょうがないなあ」

 俯く妹を見て、兄としての意地を張れなくなった亮夜は、夜美の頭を撫でた。

「えへへ・・・」

 その様子を見て、恭人以外の全員が溜息を吐いた。__ただし、花子だけは空気を読んだのか、溜息を吐きそうな顔を見せた程度だった。

「本当だったら、亮夜も生徒会に歓迎したかったが・・・」

 最も、真面目である恭人が、こんな甘い雰囲気をそう容認するわけではなく、話題を変えて、この状況をフォローした。

「思った以上に反発が来そうだからな」

「私はどうでもいいけど」

「でも実際、嗣閃さんは、夜美ちゃんにも舞式君にも反発していたしね」

「私だって、色々あるけど、冷宮君だから、仕方ないだけなの」

「・・・生徒会でさえ、賛否両論だからな」

 今度は、恭人が溜息を吐きそうな顔を見せて、そう締めくくった。

「さて、私は来賓の挨拶に向かおう。お前達は式の後始末をしてくれ」

 この入学式には、ニッポンの中でも有名な、魔法界の権威や、政府の上層部なども参加している。そうした人物に顔を出すという社交辞令もあるのだった。その役目は、エレメンタルズや生徒会長、新入生総代などが行う傾向にある。今年は、恭人が大役を引き受けるという形で、夜美はそのような煩わしいことを行わずに済んだ。

 実際には、夜美と亮夜が政府に接触することを、恭人は密かに恐れていた。

 以前の魔法大戦の件といい、司闇の情報といい、舞式兄妹は、ブラックな情報が多すぎる。司闇に至っては、事実上の犯罪者扱いされている始末だ。魔法大戦の件は、詳細を知らないが、それでも、秘匿されるだけの事情があると、恭人は理解していた。

 そんな彼らを政府に見定められれば、また新たな騒ぎが起こりかねない。情報を共有すべきという立場もあるが、彼らが下手な害意に晒されて、司闇など、余計な悪意を持ち込まれないようにする方が重要だと、恭人は密かに考えていた。

 その分、自分一人で沢山の来賓を相手しなければならないのだが、リスクを考慮して、自分が出向くべきだと言い聞かせた。




 式の後始末をした亮夜たちは、生徒会室に戻っていた。

 亮夜と夜美は、客用の椅子に座り、それ以外は指定席についていた。

 その生徒会に恭人が姿を現したのは、30分後だった。

 さすがに苦労していたのか、顔に汗と疲労が出ている。しかし、亮夜以外が気づくことはなかった程には、上手く隠していた。

 生徒会長専用のデスクに座った恭人は、夜美を呼び出した。

 やや座高の高い椅子から、立っている夜美と対等に向き合う。

「舞式夜美。あなたを生徒会書記として迎え入れたい」

 言うまでもなく、これは事務的な発言だ。

「当校の生徒会は__」

 生徒目線で学校の運営をする組織だ。

 クラス委員長などの組織運営、それら組織の代理遂行、その他事務処理などが主な仕事である。

 また、生徒会は、魔法道具を携行する許可が与えられており、いざという時には、取り締まることも可能だ。

 裏を返せば、普段の他の生徒たちとは一線を画す戦力を保有していることになり、それ相応の責任と信用を背負うこととなる。それを裏切るようなことになれば、相応の罰を受けなくてはならない。

 それだけ、責任と使命を課せられる、名誉ある役職なのだ。

「__説明は以上だ。改めて聞こう」

 話は一区切りし、夜美は自然と態度を改めた。

「生徒会に入っていただけるか?」

「喜んで」

 夜美は丁重に頭を下げて受託した。

 事前に、夜美が生徒会に入ることは決定していたので、他のメンバーからの反発も(亮夜を含めて)ない。

 何より、決定までの騒動を知っている一同は、ようやく決まったことにほっとしていた。

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